中国国内で、新型コロナウイルスが「パンデミック(感染爆発)」状態となっている。延長された春節(旧正月)休暇から、多くの企業や店舗が営業再開の予定日を迎えた10日朝時点で、中国本土での感染者は3万9000人を超え、死者は908人となった。中国当局が、新型肺炎の発生地である湖北省武漢市をはじめ、「70都市以上」「4億人」を封鎖・隔離しているとの報道もある。「死のウイルス」について、米国や英国では「人工的」との見方もあるが、共産党独裁国家は情報を隠蔽しているのか。新たな感染経路の可能性として空気感染の一種「エアロゾル感染」も浮上した。爆発した中国人民の怒りと、世界の不信感。中国事情に精通するノンフィクション作家の河添恵子氏が「衝撃の裏情報」に迫る緊急寄稿第3弾−。

 春節を延長した中国全土からは、交通が遮断され、人民の往来が制限され、流通が滞り“映画のセット”のような静まり返った景色がSNSを通じて次々と拡散されている。

 英国の複数メディアは、この2、3日、ロンドン大学インペリアル・カレッジ公衆衛生学部副学部長のニール・ファーガソン教授による「感染症学のモデルによると、中国では毎日少なくとも5万人が新たに新型コロナウイルスに感染し、感染者数は5日ごとに倍増すると計算した」という発言を、五月雨式に報じている。

 中国メディアの一部は「70都市が封鎖された」と報じ、英字メディアの一部は「すでに4億人が隔離されている」と報じている。各省・各都市は“封鎖式管理”という名の未曽有の自治状態になっている。

 2月上旬、新華社通信や中央電視台(CCTV)は、「習近平国家主席が党中央(北京)の指揮で一本化して、断固として従うよう指導した」「従わない者は、責任の追及に加えて法律に従い処罰される」といった内容を報じた。

 「習独裁体制の崩壊」と「国家分裂」を恐れる、習政権の焦りが見てとれる。

 ただ、習氏や李克強首相ら、中央政治局常務委員7人(チャイナセブン)が一堂に会して対策を話し合う姿は、10日以上報じられていない。

 外交部の華春瑩報道官は3日、「非常時の非日常の方法」として、前代未聞のネット上での記者会見を開いた。その際、「1月3日以降、新型コロナウイルスのアウトブレーク(集団発生)に関する情報と、予防対策について米国に計30回通知した」「真っ先に撤退したのが武漢市の米国領事館員で、米国は中国の出入国に対する包括的な制限を発表した」との不満を漏らした。

 この直後から、武漢市民のみならず中国人民の怒りが爆発した。

 「中国政府は、米国に先に伝えた?」「米国は1月3日に知り、武漢市民は1月20日、ようやく知ったのだ」「これこそが党の機密の漏洩(ろうえい)であり、湖北省政府が早々に北京に伝えていたことの証明だ!」「ウイルスの発生を開示した医師を捕まえ、人民には事実を伝えないどころか、重要な発生初期段階に隠蔽工作をしていたとはどういうことか!」

 というのも、武漢市の医療関係者8人が昨年末、SNSで「SARS(重症急性呼吸器症候群)のような症状の患者がいる」と警鐘を鳴らした。その1人、眼科医の李文亮氏(34)が、新型コロナウイルスに感染して集中治療室にいることが、CNNのインタビューで分かったのだ。

 李医師によると、情報を開示した直後、武漢市保健衛生当局が開いた緊急会議に召集され、尋問を受けたという。その後は、市内の医療機関に「いかなる組織または個人も、関連する治療情報を無断で公開してはならない」との通知、警告があった。

 さらに、1月3日には、武漢市の公安から「SNSで噂を広めた」「社会秩序を著しく損ねた」として李医師は軽犯罪に問われ、「違法行為をしない」と約束する声明への署名を迫られたという。

 その李医師は2月7日未明、新型肺炎でこの世を去った。所属する武漢中央病院が発表し、国内外で報じられた。彼の死を知った全国の人民が、「習政権への不信感」を強烈に強めたことは間違いない。

 ■米英では「人工的」「感染者激増」の解析も

 さて、米国では、ウクライナ疑惑をめぐるドナルド・トランプ大統領の弾劾裁判が5日、想定通りの「無罪」で決着した。その前後から、学者、専門家、有識者、議員らによる新型コロナウイルスに関する発信もヒートアップしている。

 ハーバード大学の公衆衛生学教授、エリック・ファイグルーディン博士は「武漢市の海鮮市場がウイルスの発生源ではない」と発信した。軍事委員会のトム・コットン上院議員は「武漢市の『P4研究室』(=中国で唯一、エボラ出血熱など、極めて危険な病原体を扱える『バイオセーフティーレベル4』の施設)からウイルスが漏れたのでは」と語った。

 米国や英国などでは、「自然発生的なウイルスではなく、人工的なウイルスの可能性が高い」「今後さらに感染者が激増する」との推測、解析は少なくない。

 トランプ氏の首席戦略官兼上級顧問を務めたスティーブン・バノン氏も3日、「米国は『中国政府が武漢で発生したこの問題を、早々から知っていた』と確信している。ところが、ダボス会議に1000人以上を派遣し、ビジネスの問題は議論したが、武漢で新型コロナウイルスが拡散されていることには言及しなかった」「新型コロナウイルスが人工で合成したものであれば、中国共産党政権はおしまいだ!」と斬り捨てた。

 習氏は7日、感染拡大についてトランプ氏と電話会談し、世界保健機関(WHO)が関係国に過剰反応しないよう呼び掛けているとしたうえで、「米国が冷静に感染状況を判断し、対応措置を合理的に決定・調整するよう希望する」と促した。

 だが、「冷酷な隠蔽」ではなく、「冷静な開示」と「“人民ファースト”の処置」を、世界の大多数が求めていることは間違いないい。

■河添恵子(かわそえ・けいこ) ノンフィクション作家。1963年、千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学卒業後、86年より北京外国語学院、遼寧師範大学へ留学。著書・共著に『米中新冷戦の正体−脱中国で日本再生』(ワニブックス)、『世界はこれほど日本が好き』(祥伝社黄金文庫)、『覇権・監視国家−世界は「習近平中国」の崩壊を望んでいる』(ワック)など。

 

 

 

香港、大陸からの渡航者を全員隔離へ  新型ウイルス

  • 2020年02月6日 BBCニュース

 https://www.bbc.com/japanese/51395695

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Image copyrightEPAImage caption香港の医療従事者は境界の全面封鎖を求めてストライキを行った

新型コロナウイルスの流行を受け、香港自治政府は5日、中国大陸からの渡航者全員に14日間の隔離措置を行うと発表した。8日から施行される。

一方、香港の医療従事者は境界の全面封鎖を求めてストライキを行っているが、当局はこれを拒否している。

香港ではこれまでに21人が新型ウイルスに感染し、1人が死亡している。

新型ウイルスをめぐっては日本でも、横浜港に停泊しているクルーズ船の乗員乗客のうち少なくとも10人から陽性反応が出るなど、感染が拡大している。

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新型ウイルスは深刻な呼吸器感染症を引き起こすもので、発熱や空ぜきといった症状から始まるとみられている。

しかし感染した多くの人が、通常のインフルエンザのように完治しているようだという。

中国国内では5日時点で、死者が563人、感染者は2万8018人に上っている。

死者には、湖北省の自治体が5日、新たに死亡が確認されたと発表した70人も含まれている。

中国国外では、25カ国で191人の感染が確認された。死者は6日時点では、フィリピンでの1人のみ。

世界保健機関(WHO)は先に、新型ウイルスのアウトブレイク(大流行)について国際緊急事態を宣言した。

テドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は5日、新型ウイルス対策に3カ月で67500万ドル(7417600万円)を投じる必要があると訴えた。

香港の隔離措置とは

香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官はこの日、中国大陸から香港への渡航者は、外国人も含め、14日間隔離されると発表。しかし、実際の方法については言及しなかった。

隔離の場所や、香港市民であれば家で過ごせるのかなど、詳しいことは不透明なままだ。

香港には4日、数万人が中国大陸から渡った。

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Image copyrightAFPImage caption啓徳クルーズ・ターミナルに停泊している「ワールドドリーム」

林鄭行政長官は境界の完全封鎖をするまでには至っていない。しかし、境界の封鎖を求める医療従事者によるストは3日目に入り、数千人が参加している。

一方で香港は、海からの渡航を禁止し、啓徳クルーズ・ターミナルも閉鎖する方針だ。

同ターミナルに停泊している「ワールドドリーム」では、1月19~24日に乗船していた中国人3人が下船後に新型ウイルスに感染していたことが分かったため、乗員乗客約3600人に対して検査を行っている。

香港では、2002~2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)では300人が亡くなっており、こうした事態を繰り返すことになるのではとの懸念が広がっている。ただし、新型ウイルスの致死率はSARSの9.6%より格段に低いという。

こうした中、香港を拠点とするキャセイパシフィック航空は2万7000人の従業員に対し、新型ウイルスのアウトブレイク対策として、3週間の無給休暇を取るよう要請している。

横浜港のクルーズ船の状況は?

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Image copyrightGETTY IMAGESImage caption横浜港に停泊している「ダイヤモンド・プリンセス号」には、3700人が乗船している

横浜港に停泊している「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗員乗客3700人のうち、検査を受けたのはこれまでに300人近く。感染が確認された10人は病院に搬送されたが、その他の乗員乗客は船内にとどまるよう指示されている。

同クルーズ船では、1月に乗船していた香港出身の80歳の男性が新型ウイルスに感染していたことが判明し、検疫が始まった。

乗船しているイギリス人のデイヴィッド・アベルさんはBBCの取材に対し、本来であれば4日にイギリスに戻る予定だったと説明した。

「ブリティッシュエアウェイズ(BA)の4日朝便を予約していたが、キャンセルしなくてはならなかった。いつ下船していいのか分からない」とアベルさんは話した。

「他の乗客と接触できないし、食事は船室に運ばれてくる。非常に簡素で、クルーズ中に楽しんでいたものとは全く違う」

WHOが支援呼びかけ

6億7500万ドルの計画を呼びかけているWHOのゲブレイエスス事務局長は、「国際社会に対して、きょう投資しなければ後から多く支払うことになるというメッセージを発信する」と述べた。

資金の多くは、新型ウイルス対策に支援が必要な国へ送られる予定で、24カ国にマスク50万枚と呼吸器4万個が支給されるという。

事務局長はまた、このウイルスを制御する「絶好の機会」が訪れていると指摘したほか、ビル&メリンダ・ゲイツ財団から1億ドルの寄付があったと発表した。

一方で、中国のテレビ局が浙江大学で新型ウイルスに有効な治療薬を発見したと報じたことを批判。「まだ効果的な治療法は見つかっていない」とくぎを刺した。

5日にあったその他の進展は以下の通り。

  • マレーシアでは、ペナン州に中国人1000人を乗せたクルーズ船が来るとフェイスブック上で警告したジャーナリストが、社会不安を引き起こしたとして起訴された
  • インドネシア・バリ島では、政府が中国との発着便を停止したため、数千人の中国人観光客が足止めされる可能性がある
  • 東京オリンピック(五輪)の組織委員会は、ウイルスの感染拡大が大会に与える影響について「非常に懸念している」と話した
  • ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、マスクの値段を引き上げている薬局について認可を取り消すべきだと発言した

 

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Image caption各国の新型コロナウイルス感染者数。左上から日本33人、タイ25人、シンガポール24人、韓国18人と続く。 出典:欧州疾病予防管理センター/BBCリサーチ(2月5日現在)

(英語記事 Hong Kong to quarantine mainland China visitors