https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00767/
米ニューヨーク市警などは9月21日、中国当局のためにスパイ行為を働いた容疑で同市警の警察官バイマダジ・アンワン容疑者を逮捕した。米司法省は「少なくとも2014年から在ニューヨーク中国総領事館の指揮下で、在米チベット族のコミュニティーに入り込み、内通者の獲得に協力していた」などと指摘する。アンワン容疑者自身も中国出身のチベット族で、同胞の監視に協力するスパイに仕立て上げられていた。
これは人ごとではない。日本にも中国の少数民族を監視するスパイ網が張り巡らされている。
「私も中国当局のスパイにされそうになった」と告白するのは、在日ウイグル族のエリパン・アユップ氏(仮名)だ。中国・新疆ウイグル自治区の警察官を名乗る人物から、対話アプリ「微信(ウィーチャット)」の通話機能を通じて、「在日ウイグル族のリーダーたちの動きを報告してほしい」と頼まれた。
断ると、「こっち(ウイグル自治区)に親族が残っているから、協力できるでしょう」と迫られたという。暗に「協力しなければ親族の安全は保証しない」と脅していると受け取った。
エリパン氏は自分以外にも、故郷に残る肉親を「人質」に、当局からスパイ行為を働くよう強要された在日ウイグル族を多く知っている。
結局、エリパン氏は当局の手先とはならなかったが、既に在日ウイグル族のコミュニティーにはスパイが浸透しているという。エリパン氏自身、同胞に言動を密告されたと感じる経験を何度もしている。
東京のモスク礼拝まで監視
例えば東京で開かれたウイグル族の私的なパーティーに顔を出した直後には、ウイグル自治区に残した肉親を警察官が訪ね、「日本にいる近親者がパーティーに参加したのは分かっている。彼の動きは仲間が監視している。隠し事をするとためにならない」と迫られた。中国当局は在日ウイグル族が集まって反体制運動へと発展するのを警戒している。
東京都内にあるモスクで礼拝していることや顎ひげを伸ばしていることも、密告によって当局に把握され、故郷の親族に伝えられている。顎ひげを蓄え、礼拝に熱心なウイグル族はイスラムの危険思想に染まったテロリストの恐れがあると当局は警戒する。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、日本を含む世界22カ国に逃れたウイグル族などの中国出身のイスラム教少数民族400人を調査したところ、うち少なくとも26人がスパイになることを求められていたとする報告書を2月に発表した。各国の中国大使館や、中国からの電話を通じて威圧してくるという。アムネスティは「国際社会が働きかければ、中国政府の態度を改めさせることができる」と各国に結束を呼び掛けている。
日本政府は、中国政府によるチベット自治区やウイグル自治区での人権侵害に懸念を表明するだけでは不十分のようだ。日本国内での中国当局の活動を把握し、おびえて暮らす少数民族への監視・圧力を改めるよう求めるべき段階を迎えている。