中国大手塾 コロナ禍で閉鎖か
深川 耕治 2020/10/23(金) 中国[中国発新型肺炎], [会員向け]
受講料返還求め父兄ら猛抗議
中国国内で1200校を経営する大手学習塾「優勝教育」(本部・北京市朝陽区)が、新型コロナウイルスの悪影響で経営破綻に陥り、塾講師への給与未払いのほか、通塾する生徒の父兄ら約1000人が受講料払い戻しの未払いに対する抗議を行うなど、混乱が続いている。
中国経済は習近平指導部の威信を懸け、新型コロナウイルス蔓延(まんえん)期前に回復しつつあるが、教育熱の高まりで学習塾ビジネスを急拡大させた教育界にもコロナの爪痕は深い傷痕を残している。(深川耕治)
全国で被害1570億円
塾講師への給与未払いも
「優勝教育」は中国政府の家庭教育プロジェクトと密接な協力関係を持っている。教育部(文科省に相当)の陳宝生部長は昨年5月、全国教育工作会議で家庭教育を基本公共サービスに導入することを積極推進。同年9月、優勝教育と共産主義青年団北京市朝陽区委員会が共同で家庭教育プロジェクトを立ち上げ、朝陽区150余りの小中学校に活動を促すなど、党とも密接な交流がある。
19日午前、北京市朝陽区の「優勝教育」総本部のあるビル前で学費や給与の支払いを求めて抗議活動を展開する人々=中国のウェブサイトより
中国のネットメディア「財新網」などによると、20日午前、同塾に子供を通わせている父兄や塾職員、塾講師ら約1000人が北京市朝陽区の優勝教育総本部のあるビル前に集まり、学費や給与の支払いを求めて抗議活動を展開した。ビル上層階にある本部に上がることを拒絶されると、「金を返せ」と連呼し、総本部のあるビル前の通りに抗議する人々があふれ、北京の公安当局は周囲に封鎖ラインを設け、5~7人の父兄が拘束され連行された。
中国では老舗に入る大手学習塾の優勝教育は1999年に創業。創業時は飛ぶ鳥を落とす勢いで成長した。同社を創業した陳昊会長(42)は教育産業の経営者として約20年間の経験が評価され、中国での教育熱が過熱するに伴って国内主要都市を拠点に1200以上の塾教室を開設した。小中高校生向けの学習塾だけでなく、家庭教育、オンライン教育、社会人の技能教育などの授業を幅広く展開してきた。
しかし、今年に入り、北京だけでなく、天津、成都などの分校で授業料払い戻しができなくなり、給与未払いによる塾閉鎖が顕在化し始めた。新型コロナウイルスの影響で対面のオフライン教育ができなくなり、重要拠点である北京、上海、天津、成都、ハルピンなどの分校が次々と無期限閉鎖に追い込まれた。分校の責任者たちは逃亡し、塾生の父兄や同塾の講師陣、職員たちが受講料払い戻しや給与支払いを求めて抗議活動を展開する異例の事態となった。
父兄が同塾に支払う生徒の授業料は2万元(約31万4000円)以上、特に受験生の場合、10万元(約157万円)から78万元(約1225万円)ぐらいまである。北京の父兄の中には、4年前に一括で30万元(約471万円)から40万元(約628万円)を支払ったケースもあるという。被害額は北京の分校だけで1億元(約15億7000万円)、全国でおよそ100億元(約1570億円)に上るとの推計もある。
陳昊氏
香港紙「蘋果(ひんか)日報」によると、香港と隣接する広東省深圳市羅湖区の優勝教育田貝校では、塾講師への給与未払いでも17日まで授業は通常通り行われていたが、19日に閉鎖通知が伝達された。約200人の職員、講師らが路頭に迷い、同校だけで300万元(約4710万円)、深圳市内の7校区全体で2000万元(約3億1400万円)の損失に陥っているという。
学習塾にとってコロナ対策で主軸をオンライン授業にシフトし、対面のオフライン授業を減らす経営スタイルの場合、経営上の損失は抑えられ、中国塾大手の「好未来」と「新東方」はコロナ下でも急成長している。
しかし、老舗の学習塾大手である優勝教育のように、旧来の伝統的なグループ授業、個別指導授業を対面で行う形式を主軸にしたままの場合、コロナ禍での損失は深刻になり、経営を逼迫(ひっぱく)させ、塾の閉鎖を余儀なくされるケースが後を絶たない。
優勝教育の創業者、陳昊氏は塾生徒の父兄とのネットでの情報交流で「コロナ感染が中国国内で拡大した期間、北京での収益は例年の4分の1まで激減した。当社に限らず、多くの教育機構が人材育成に必要な資金を授業に充てられず、廃業の憂き目に遭っている」と悲痛な声を上げる。
中国の情報サイト「和訊網」によると、優勝教育の経営悪化はコロナの影響だけではない。昨年下半期から地方の分校での授業の休講、授業料の払い戻しができない状況に陥り始めた。今年に入り、同社に対する159件の訴訟が起きており、解決率は3・63%で最低となっている。昨年10月、経営トップは陳昊氏から唐芳瓊氏に移行したが、経営悪化に陥っている。
中国では26~29日、第19期中央委員会第5回総会(5中総会)が北京で開かれる。5中総会前に、お膝元の北京でコロナ禍による教育問題のトラブルが浮き彫りになったことで、一強だった習近平指導体制にどんな影響があるのかや、腹心だった王岐山国家副主席との関係悪化など人事動向にも注目が集まっている。
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