ウイグル人 民族浄化に対しての動き
ウイグル弾圧企業は取引停止へ日本企業12社、対応迫られ
電子機器や服飾を含む日本の主要小売り・製造業12社が、中国新疆ウイグル自治区などでの少数民族ウイグル族に対する強制労働への関与が取引先の中国企業で確認された場合、取引を停止する方針を固めたことが21日、共同通信の取材で分かった。米英両国がウイグル族の強制労働を理由に自治区に関連した綿製品などの輸入規制に相次いで踏み切っており、日本企業も対応を迫られていた。
近年では人権、環境問題への企業側の対応責任が重視されており、サプライチェーンで新疆関連企業とつながる日本企業に取引自制の動きが広がる可能性がある。一方で対応の遅れを指摘されそうだ。(共同通信)
「中国に工場をもつグローバル企業83社が、新疆ウイグル自治区に住むウイグル人を強制労働させている。このうち日本企業はユニクロ(ファーストリテイリング)や無印良品(良品計画)などの12社」。この事実を、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウがオンラインイベントで報告した。中国政府が民族同化を目的に運営するウイグル人強制収容所は2017~19年の3年で、収容者300万人(国内に住むウイグル人の約30%)のうち約8万人を収容所から工場へ移送したといわれる。
■新疆綿の栽培で強制労働か
少なくともグローバル企業83社のサプライチェーン(供給網)に、ウイグル人の強制労働がかかわっていると判明したのは、2020年3月のことだ。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が「ウイグル人が売りに出ている」という内容の報告書を発表した。
ASPIが報告書に載せたグローバル企業83社は、アディダス、ナイキ、ギャップ、トミーヒルフィガー、BMW、ゼネラルモーターズ(GM)、メルセデス・ベンツ、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、アップルなど。
日本企業は、日立製作所、ジャパンディスプレイ、三菱電機、ミツミ電機、任天堂、パナソニック、ソニー、TDK、東芝、ファーストリテイリング、シャープの11社だ。
この11社に加わりそうな企業が良品計画。同社は、男性向けのオックスフォードシャツの素材として、新疆ウイグル自治区で採れた「新疆綿」を使っていることを、2020年初めまでウェブ広告に記載していた。「上質な手摘みの新疆綿」をセールスポイントとし、「生産地を隠すつもりはない」と主張したという。
同じ時期にファーストリテイリングも、新疆綿の使用を公表した。男性用の長袖シャツの商品説明(ウェブ広告)に「高品質なことで有名な新疆綿で作った」との文言が入っている。
無印良品やユニクロが使う新疆綿の需要は高い。世界の綿花生産を調査するジャーニガン・グローバルによると、世界市場で約20%を占める中国綿の84%が新疆綿。綿花栽培が自治区の主要産業であることから、ヒューマンライツ・ナウは、新疆綿の栽培現場でもウイグル人の強制労働がある可能性が高いと指摘する。
そこでNPO法人日本ウイグル協会は、ウイグル人への人権侵害の状況を調べ始めた。ASPIの報告書にあがった日本企業11社に対して、同協会は「ウイグル人の強制労働についての見解」や「サプライヤーの選定方法」などを問う5項目の質問状を作成。4月30日付で送付した。7月までに、パナソニック以外の10社からメールや書面で回答があった。
ヒューマンライツ・ナウの伊藤和子事務局長は「TDKやソニー、日立製作所は、ウイグル人の強制労働に一切言及しなかった。他の企業も、新疆ウイグル自治区で製品を生産されているかという質問には答えず、自分たちの人権方針や行動規範について書いているだけ。説明責任を果たしていないので、強制労働の有無は限りなくグレーに近い状態」と明かす。
企業からの回答を受けて、ヒューマンライツ・ナウは11社に対して大きく2つの提言を出した。内容は、アパレル業界の人権問題に取り組む世界各国の国際人権NGOが公表した「新疆ウイグル自治区のアパレル・繊維産業における人権侵害に関するCall to Action」に基づく。
提言のひとつは、各企業が、新疆ウイグル自治区に製品の生産施設があるか、また自治区に拠点を置く企業と取引関係にあるかを把握することだ。2次以降のサプライチェーンまでさかのぼって調べ、その結果を公表するという。
もうひとつは、強制労働の問題が各企業のサプライチェーンにある場合は、新疆ウイグル自治区からの原料の調達や自治区での製品の生産を中止することだ。最近になって先陣を切ったのが、アパレル大手のパタゴニア。素材を調達してきたサプライヤーと契約を切り、自治区から撤退することを発表したところだ。
伊藤事務局長と一緒にオンラインイベントに登壇した、米国のNPO法人ワーカーライツ・コンソーシアムのペネロペ・キリティス戦略研究部長はこう訴える。
「無印良品やユニクロは、不買運動が起きたことを理由に、新疆綿の記述をウェブ広告から削除した。だが、それはウイグル人の強制労働をやめることにはまったくつながらない」
消費者ひとりひとりが企業にプレッシャーを与えることは可能だ。伊藤事務局長は「購入する商品を選ぶのは消費者自身。身に着ける服のブランドの企業のことを互いに話したり、SNSで発信したりするだけでも企業を監視することになる」と語る。
新疆ウイグル自治区にある強制収容所は1000カ所以上。自治区の人民政府があるウルムチ市の郊外には13万人を収容できる巨大なものもあるといわれる。収容所では中国語を使うことが必須。中国共産党を称える「再教育」でウイグル人を洗脳する。ウイグル族のほとんどがイスラム教徒だが、イスラムを信仰することは禁止だ。
コロナショックを経て、人々が企業を見る目や意識、姿勢が大きく変化し、これまでよりもさらに誠実であることを求めている。また企業が、悪意はなくても勉強不足や想像力の欠如によって人権を侵害し、大炎上するケースも増えている。何に気をつけるべきなのか。本連載では、注目を集める企業の人権違反とその対応策について紹介する。連載1回目で取り上げるのは新疆ウイグル自治区の強制収容、強制労働問題について。日本企業も実は、ある側面では、この人権侵害を助長しかねない。果たしてどういうことなのだろうか。(オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEO 羽生田慶介)
ウイグル問題で日本企業12社に疑惑
ユニクロは○でパナソニックは×の理由
「吐き気をもよおす、はなはだしい(gross and egregious)人権侵害が、新彊ウイグル自治区で起きている」――。
2020年7月、英国のドミニク・ラーブ国務大臣・外務大臣はこんな言葉を発した。
同じく7月には、米ニュージャージー州にあるニューアークの港で、新疆ウイグル自治区から発送された貨物から、人の毛髪から作ったと思われる付け毛やかつらやなど13トンが、米税関・国境警備局(CBP)に押収された。新疆ウイグル自治区の強制収容所などで、強制労働によって製造されたとの疑いを受けた措置だ。
新疆ウイグル自治区では、大勢のイスラム教徒(主にウイグル人)が、中国共産党の“再教育”キャンプに強制収容されているという。中には強制的に不妊手術などを受けさせられるような人権侵害が行われ、収容されたウイグル人による強制労働で多くの製品が作られているという事実も各国で報じられている。
20年7月19日には、英BBCの番組「アンドリュー・マー・ショー」に、中国の劉暁明駐英大使が出演。ウイグル人強制連行の映像を見せると、劉大使はとぼけたり、逆ギレしたりして、世界中からさらに疑念を深める結果となった。
米国の商務省産業安全保障局(BIS)は翌7月20日、新疆ウイグル自治区における大規模なウイグル人拘留や強制労働、もしくは生体認証データや遺伝情報の強制収集、解析などに関わった中国企業11社を、輸出管理規則(EAR)に基づくエンティティーリストに新たに載せ、事実上の禁輸措置を発令した。エンティティーリストとは、商務省が管理する、米国の安全保障・外交政策上の利益に反する顧客などのリストのこと。これに載った企業へ米国製品を輸出するには、事前許可が必要になる。
「新彊ウイグル」は今、グローバルビジネスにおいて、極めてセンシティブな地名となっている。