パルデンの会

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これから何がおきるか。 アフガニスタンがタリバンに制圧された。

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宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和三年(2021)8月16日(月曜日)
通巻第7016号  
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 「その後の研究」。アフガニスタンタリバンに制圧された。

これから何がおきるか
  1949年中共、74年エチオピア、75年ベトナム、77年イラン。あの既視感
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 米国が支援した傀儡政権は、その他律的依存と汚職体質によって、モラルが確立されておらず武力闘争には脆弱である。
米軍が引き揚げるか、撤退姿勢をみせると、米国依存の傀儡的な政権は戦意を失い、モラルは忽ち消え失せ、武器の横流しをはじめ、密輸に精を出し、政府高官らは祖国と国民を捨てて脱出の準備に入る。

政府軍の軍人と言っても練度は低く、おおくは員数合わせ、あるいは失業対策で給与に群がってきた人が多く、組織的な行動は不得手であり、また軍事力を統率できる軍人は不在。軍閥のほうが機動力を発揮する。

15日、ガニ大統領はタジキスタンへ逃亡した。前日にジャラジャバードが陥落し、パキスタンとの国境がタリバンに抑えられた。陸路のすべての国境はタリバン支配下に入った。
命を捨てても祖国を守るという発想がないか、あるいは希薄である寺山修司の詩が脳裏に甦る。「身を捨つるほどの祖国はありや」

 8月12日にヘラートとカンダハルが陥落、15日にマザリ・シャリフが陥落し、ドスタム将軍らは国境から先へ逃亡した。ヘリコプターによる米大使館員の退避が開始された。バイデンは急きょ派遣する米軍を五千名に増やすとした。

 そしてタリバンは無血でカブールへ入城し、大統領府を抑えた。カブールの幹線道路は駐車場と化し、一時間に1メートルも動かない。市民がパニック状態となって町を出ようとしているためだ。ATMには長蛇の列ができた。

 最後の日々を迎えたカブール。そうだ、既視感がある。
 サイゴン陥落前、南ベトナム政府の高官たち、グエン・バン・チュー大統領もグエン・カオキ首相みな、米国へ逃亡した。腐敗の体質に溢れていたが、急な脱出だったらしくせっかく蓄財した金塊を持ち出すいとまはなく、グエン・バン・チューは台湾へ逃亡、その後、ロンドンで清掃業をしていた画面が流れたが、最後は米国へ亡命し病死した。
グエン・カオキ将軍はいち早く米国へ逃げ、貿易で成功したうえ、アメリカ各地に講演旅行に呼ばれるほど一部に人気があった。マレーシアの病院で死去した。

 1949年、米国の誤断によって中国を失った。
ニクソンは言った。「WHO LOST CHINA?」
蒋介石から米国は毛沢東へ乗り換えた。この外交的誤断について、当時も盛んに議論されたが、率直に振り返れば米国の外交の失敗に起因する。
つまり「敵と味方を常に間違える天才」がアメリカ外交である。
 1975年にベトナムが失われ、79年にはイランが、そして2021年にアフガニスタンから米国傀儡政権は消え、タリバン主導の狂信的宗教カルト集団が国を乗っ取る。


 ▼米国を挑発し、泥沼に引きずりこんだのはアルカイーダだった 

 問題は「その後」である。これから何が起きるか?
 南ベトナム崩壊後、ラオスカンボジアには共産主義が浸透した。そしてベトナムは反中国に、ラオスカンボジアは中国寄りとなった。
 イランは狂信的カルトが政権を掌握し、すぐにイラン・イラク戦争を始めた。

 アフガニスタンは1989年にソ連が撤退し、それまで米国が支援してきたムジャヒディーンは忽ち反米となって、タリバンが政権を掌握した。

その後はカザフ系、ウズベク系がパシュトーン人と内ゲバを始め、爾来、アフガニスタン軍閥が地域を統治し、中央政府の行政の及ばない地域ではアルカィーダ、ISが秘密の訓練基地を設営し、跋扈した。オサマ・ビン・ラディンらのテロリストたちを最初はCIAが育てたのだった。

 その後、タリバンへ武器を供与していたのはロシアとイランだった(ネリー・ラフォウド論文『フォーリン・アフェアーズ』2021年9・10月号)。猜疑心の固まり、日常的な裏切り、その残忍さアレキサンダーが征服した古代から変わらないのである。

 1998年 アルカイーダはケニアの米国大使館を爆破した。224名が犠牲となり負傷者は四千名を超えた。2000年10月、アデンに係留中の米海軍艦船「コール」が爆破された。

 ときのクリントン大統領は報復にトマホークミサイルを50発、アルカイーダの拠点とされたアフガニスタンの基地へ撃ち込んだ。
 そして2001年9月11日、NYの貿易センタービルが、ハイジャックにより凶器と化けた航空機によって破壊され数千名が犠牲となった。


 ▼「テロ戦争」で対応した米国は国力を衰退させた

 この怒りを爆発させるためにアメリカはアフガニスタンへの空爆開始して、テロ戦争は長引くとブッシュジュニア大統領は宣言した
大軍をアフガニスタンへ投下し、二十年の歳月が流れた。米軍が駐留する限り、地域は安定し、イスラムの反中国集団が暗躍しても限界があり、むしろ安心していたのは中国だった。

 米国は過去二十年に亘って、およそ1兆ドルをアフガニスタンに投じ、インフラ建設を手助けし、戦闘では多くの犠牲を払い、そして得たものは何もなく、却ってNATO諸国などとの心理的溝が拡大した。
米国は肝心の国力を衰退させ、士気は低下し、疲れ果てた。この二十年に中国は経済大国として刮目するべきほどにのし上がった。

 これからどうなる?
 第一にタリバンを誰が率いるのか? オマル師はすでに不在である。タリバンを代表する幹部らはカタールに和平交渉のオフィスを構え、イラン、中国などと交渉をしてきたが、この協議機関は、これからどうなるのか。
 パキスタン情報に拠れば、タリバンを2016年以来、最高指導者として統率してきたのはハイバトラ・アフンドザタと言われる謎の人物。軍の最高司令官はオマル師の息子のヤクブとされるが、飾りでしかない。
 タリバンカンダハルで誕生した。このカンダハル軍閥を率いるのはバラダール師で、カタールタリバンオフィスを代表する。
 また自爆テロ、海外テロを行っているのは「ハカニ・ネットワーク」で、この集団をまとめるのが副最高司令官のシラジデン・ハカニと推定されている。

 第二に当面は連立政権が組まれることになると思われるが、軍閥呉越同舟となり、いずれ内ゲバを始めるだろう。前政府はガニ大統領の逃亡によって、臨時代行を誰が務めるのか。引き継ぎチームを率いるのはアリ・アーマド・ジャラリ前内相と発表されているが、アブドーラ元外相(元副大統領、行政長官)が表にでてくる可能性もある。アブドーラは過去二回の大統領選挙でガニに僅差で敗れているが、不正投票だとして、現在も「影の大統領」を自認している。カルザイ初代大統領の影もちらついている。
 英国のジョンソン首相はタリバンを外交承認することはないと言明し、新政府の誕生を見守るとしているが、大半の西側諸国も、当面タリバン承認はしないだろう。


 ▼中国はタリバンに大々的な投資を約束したらしい

 第三にタリバンが内部崩壊を防ぐには新しい敵が必要であり、それイスラム弾圧の中国へ向かう公算が強い。中国は揉み手してタリバンに薄笑いを浮かべながらちかづくだろう。
 先月、中国はタリバン幹部9名を天津に招き、王毅外相と会談したが、ETIM分子の摘発をタリバンは約束したという。見返りに中国はどのような土産をタリバンに与えたのか。なにがしかの密約が成立した筈である。

 第四にイランは同じイスラムカルトの政権を歓迎すると予測する向きが多いが、タリバンスンニ派である。アフガニスタン国内に少数のハザラ人がいるが、彼らだけがシーア派とされる。したがってイランとアフガニスタン関係は緊密にはならないだろう。

 第五にロシアは、隣国タジキスタンから動向を見極めつつ、有利と判断すれば介入するだろう。げんにロシア軍およそ七千名がタジキスタンに駐屯しており、また難民キャンプ設営を終えて、十万人収容と発表されている。

 第六にパキスタンは難民問題に悩まされ、また国内がスパイ合戦と代理戦争の基地化するだろう。パキスタン軍部はタリバンと舞台裏で緊密に繋がっているとされ、イスラン・カーン政権とは距離を置いて独自の諜報作戦を行使する。

 第七にインドの関心事はパキスタンの動向と中国国境での軍事対決にあり、アフガニスタンにチャンスがあれば介入するだろう。インド企業のアフガニスタン投資も目立つが、インドにとってアフガニスタンはパキスタンタジキスタン、キリギス、ウズベキスタンイランと国境を接する地政学上の要衝であり、国家安全保障上、つねに監視対象である。
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