《10万円給付強行は女性部への配慮?》“忖度だらけ”の創価学会で何が起きているのか
「ばら撒き」との批判が渦巻く中、岸田文雄内閣は「18歳以下への10万円相当の給付」を決定した。総額2兆円もの予算が組まれ、約2000万人に給付されることになる。
【写真】現場の創価学会員たちは10万円給付にこだわっていたのか
だが、国民の違和感は根強い。共同通信の世論調査(11月)で給付を「適切だ」は19.3%にすぎず、「給付すべきでない」(19.8%)と「所得制限を引き下げ、対象を絞るべき」(34・7%)を合わせると55%近くが反対している。 単身者や高齢で子供がいない世帯の困窮者はどうなるのか? なぜ「年収960万円未満」の制限を「世帯合算」ではなく「主たる生計者」としたのか? 学費がかかる18歳以上の学生が対象外なのはなぜか……納得できない点は多い。
「18歳以下10万円給付」を強行した公明党
その横車を押したのは公明党だった。同党は10月の衆院選で、18歳以下の子供を対象に所得制限なしで現金10万円の1律給付をするという「未来応援給付」を公約としていた。 公明党は自民党と連立を組む与党とはいえ、わずか32議席の第4党である。にもかかわらず、自民党内にも強かった反対論を押し切った。それだけに、なおさらばら撒きへの違和感がつきまとう。その背後には、支持母体である創価学会の影響が垣間見える。 公明党・創価学会への違和感は、それだけではない。元財務副大臣の遠山清彦は、2021年1月、緊急事態宣言期間中に銀座の高級クラブを訪問していたことが発覚し、議員辞職に追い込まれた。創価高校・創価大学卒の遠山は、弁舌巧みで政治手腕にもたけ、公明党の次世代を担うプリンスとされてきただけに、創価学会にはショックが広がった。 そして今、遠山はさらなる疑惑の真っただ中にいる。日本政策金融公庫からの融資を無登録で100件近くも仲介した業者Mから、1000万円を超える現金を受領していた疑いが浮上、東京地検特捜部の捜査が大詰めを迎えているのだ。現金は政治資金収支報告書に記載のないヤミ献金だ。これが融資仲介の見返りと認定されれば、現役副大臣による巨額汚職事件に発展する可能性もある。 しかも、遠山に現金を渡していた業者Mも、創価学会の周辺者である。公明党最高顧問を務めた有力者、故・藤井富雄に側近として仕えたMは、政治家と利権のつなぎ役として知る人ぞ知る存在だった。 遠山の後見人的存在と言われ、前首相の菅義偉をはじめ政界との太いパイプで知られてきた学会副会長の佐藤浩は、21年2月に定年退職。遠山のスキャンダルが発覚した直後であり、さまざまな憶測を呼んだ。
忖度しすぎた山口執行部
まずは「10万円給付」が決まったいきさつを振り返りたい。ここに、公明党と創価学会のひとつの病理がみられるからである。 11月10日午前11時半。公明党代表の山口那津男は首相の岸田と昼飯付きの会談に臨んだ。ここで「960万円」の所得制限ラインを確認し、合意に至ったとされる。 だが山口にとって岸田との会談は“儀式”でしかなかった。山口にとってのクライマックスはその直前、創価学会幹部との電話だった。取材した政治部記者が語る。 「岸田との会談の前夜、自民党との交渉役を務める幹事長の石井啓一は、山口を説得していました。すでにワイドショーなどでは『ばら撒き』との批判が出ていたこともあり、創価学会側は『くれぐれも無理しないように』とのシグナルを公明党側に送っていた。石井もそう進言していた。 ところが山口は学会に大きな土産を持っていこうと、『所得制限なし』に固執していた。もともと公明党は学会ファーストの政党だが、執行部の中でもとくに山口はその感覚が強い。学会側は世間の批判に配慮するよう進言したのに、むしろ山口をはじめとする公明党執行部が『所得制限なし』にこだわったのです」 財務省から出ていた「所得制限あり」に公明党が反対する理由は「スピード重視」という建前だった。 「だが、ある程度の年収で線引きをすれば、それほど時間はかからない。首相との会談の朝、山口は学会幹部との電話で、その線で行くことを確認し、会談に臨んだのです」(同前) このエピソードから透けて見えるのは、学会に過剰とも思える忠義を尽くす公明党幹部たちの有様である。 「創価学会の政治部門を切り離して立党した公明党の代表は、学会からみれば“中間管理職”にすぎない。学会会長の原田稔にとって、山口は頼もしい“部下”という位置づけになる」(同前) 世間の批判を受け止める柔軟性がなく、上の覚えをめでたくしようと忖度を繰り返す――そんな山口の姿は、組織の官僚化をうかがわせる。じつはこの「官僚化」という現象こそ、現在の創価学会と公明党を読み解くキーワードになるのである。
「潤うと思っている学会員はいない」
そもそも現場の創価学会員たちは10万円給付にそれほどこだわっていたのだろうか? 学会はこれまでも「地域振興券」(1999年)や私立高校授業料無償化の拡充(東京都)といった分配政策に熱心だった。20年に配布された一律10万円の定額給付金も、公明党が強力に推したものだ。 ただ、党の講演会を覗けば聴衆は7、80代が目立つ。そんな学会員たちの間から「18歳以下への給付」という強い要望が出てくるのか。 「この給付で自分たちの懐が潤うと思っている学会員はいないよ」 そう話すのは、東京都心の地域組織の中堅幹部である田代進(仮名・50代)である。 「子育て世帯の学会員は減りました。どこの支部や地区も、未来部(18歳未満)は3、4人ぐらい。ただ、支給される人が周囲に少ないからといって、不満もありません。集会で意向を聞かれたことはないし、アンケートもない。でも、学会を信じているからこそ、公明党が打ち出した政策はそのまま受け入れる。それで党の評価が高まって選挙で勝てるならいい。それだけですよ」 では10万円給付は学会員の意向と無関係なのかといえば、「それも違う」と田代が続ける。 「選挙の際、学会員以外の友好的な人をF(フレンドの略)と呼んで協力をお願いするのですが、そのとき説得材料の一つにはなります。ただ、実際に協力を得られる時って『信頼する〇さんに言われたから』とか、人と人の関係が大きいんだよ。お金じゃない。学会の選挙というのはシンプルで、『いつか味方になってくれるはず』と考えて一生懸命に働きかける。命がけでやる“お祭り”みたいなもの。10万円の公約が5万円になったら、Fに合わせる顔がないと思う人もいるかもわからないけど、やはり最後は人間関係でしょう」 田代は給付金についてはそう淡白に受け止める。だが、別の学会員は「女性部に配慮したのでは?」との見立てを語る。 「結婚した女性は、子供や旦那について不安を抱えることが多く、宗教にのめり込みやすい。縋るものが必要になりますからね。ヤングミセスの力を大事にしているからこそ、10万円給付にこだわったのでは?」
「女性部が怒っている」の神話
学会は女性部の力が非常に強いとされる。昔から創価学会婦人部(21年5月「女性部」に改称)は選挙活動の実働部隊と言われてきた。60代の元創価学会員はこう指摘する。 「選挙を頑張れば功徳がある、という教えを本気で信じている人が多く、『頑張ったから夫の給料が上がった』といった話をよく聞かされた。年配者ほどその思いがあり、それが彼女たちの信仰体験なのです」 戸別訪問は、割り当てられたエリアで知人の元に赴いては雑談を交え、座が温まったところで公明党のパンフを渡すといった具合だが、時間や手間から勤め人には限界があり、専業主婦の比重が大きくなる。 話を聞きながら、私が思い浮かべたのは16年6月、東京都知事、舛添要一が辞任した朝のことだ。 「都議会のドン」内田茂が「(リオ五輪が終わる)9月まで続けたいという知事の思いを実現してあげようと思ったが、(連携相手の)都議会公明党の“合意”が得られなかった」と語った。都議会公明党が舛添辞任論に転じたのは「婦人部からの突き上げがあったそうだ」と都庁幹部が言った。その後、都知事が小池百合子になると、「婦人部が『小池をいじめるな』と怒っている」とも聞いた。 そんな「学会女性部からの突き上げ」は本当にあるのか? 別のある元学会員はこう読み解く。 「かつては憲法の本を婦人部が中心になってつくるような主体性がありましたが、この10年で彼女たちが自分たちの意思で発信することはなくなりました。今では、多くは執行部がこうだといえば、それに従うだけ」 そうした指摘を聞くと、「女性部からの突き上げ」の実態はほとんどなく、むしろ執行部の政治判断が先にあるのではと思えてくる。不人気の舛添を突き放したり、現職の小池と結託したり――政治的な選択をする際の口実として「女性部の怒り」を利用してきたのではないのか。 創価学会広報室に、10万円給付をなぜ重要視したのかを問うたが、「仮定に基づいた質問にはお答えできかねます」との回答だった。また、学会員からの要望を組織として集約したかについては、「ありません」との回答だった。
広野 真嗣/文藝春秋 2022年1月号