新型コロナウイルス対策として北京冬季五輪の競技会場で禁止されている声援が、実際は中国人観客らによって広く行われている。しかも、自然発生的に生まれた歓声ではなく、会場一体となって掛け声を上げる応援だ。各国選手はじめ五輪関係者は一般市民との接触を避けるため、自由な外出が禁じられるなど厳しい行動制限を甘受しているが、ルールを策定した中国は「愛国無罪」とばかりに自国選手への〝応援コール〟を黙認している。
「中国隊、加油(中国チーム、頑張れ!)」
五棵松(ごかしょう)体育センターで7日行われた、アイスホッケー女子1次リーグの中国対スウェーデン。試合が白熱するにつれ観客による「加油(ジャーヨウ)」コールが始まった。
コールをあおっていたのは、関係者席で幅2メートルほどの中国国旗を抱えた若者5人組。試合が終盤に入ると招待客席のあちこちからもあおりコールが上がった。
「マスクを着けて」などと書かれたプラカードを掲げ、規則を守るよう注意を促す会場ボランティアもいたが、運営側はコールを完全に容認していた。こうした応援は、8日のフィギュアスケート男子ショートプログラム(SP)に中国の金博洋が出た際も起きた。
大会組織委などが策定した行動規範「プレーブック」は五輪関係者に対し、競技会場を念頭に、叫ぶ、声援する、歌うことをしないよう要求。代わりに拍手で選手へのサポートや祝福をするよう求めている。
日本オリンピック委員会(JOC)の担当者は「日本のほか、ほとんどの各国・地域オリンピック委員会(NOC)が、プレーブック(の声援禁止ルール)を順守しているという印象だ」と話す。中国の対応は、自国に都合よくルールを解釈・運用する体質の表れともいえそうだ。
一方、中国のニュースサイト網易は、6日に行われたアイスホッケー女子の日本対中国の試合で、場内を盛り上げるBGMとして「保衛黄河」という抗日歌が流れたと報じた。
保衛黄河は1930年代の曲で、日本の侵略から黄河周辺の地域を防衛しようと呼び掛ける内容。選手を鼓舞する目的で使用したとみられる。中国のSNS・微博(ウェイボ)では「別の抗日曲も流すべきだ」などの書き込みもみられた。
五輪憲章は、競技会場などで政治的宣伝活動を行うことを禁じている。
(北京 西見由章、桑村朋)