ザポロジエ原発攻撃、ウクライナ側に責任 ロシアは応戦=国防省
[モスクワ 4日 ロイター] - ロシア国防省は4日、ウクライナのザポロジエ原子力発電所一帯への攻撃について、「ウクライナの妨害工作員」に責任があると主張した。 【ライブ中継】キエフの現在の様子 ウクライナは、ロシア軍が4日未明にザポロジエ原発の一帯を攻撃したとしている。攻撃により原発の近くにある訓練用建物で火災が発生、国際社会からのロシアへの批判がさらに高まった。 ロシア国防省報道官は「原発付近で昨夜、ウクライナ側が挑発行為を仕掛けようとした」と説明。ウクライナの妨害工作グループが、ロシアの警備隊を攻撃したとしている。 「4日午前2時ごろ、原発に隣接する地域をパトロール中の部隊がウクライナの破壊工作グループから攻撃を受けた」と話した。原発の外にある訓練施設から小銃による激しい射撃を受けたため、ロシア部隊が応戦したところ、「破壊工作グループ」は訓練施設を放棄し、火をつけて逃げたという。 報道官はまた、ザポロジエ原発は2月28日以来、ロシアの支配下にあるとし、正常に稼働しているとした。
世界動かしたウクライナ在住記者の訴え
北京冬だより
新聞記者になって30年以上。これまで幾度となく記者会見で様々な質問に接してきたが、間違いなく最も心を動かされた問いかけだった。
2日夜、国際パラリンピック委員会(IPC)がロシアの選手らを北京パラから除外せず、「中立」の立場で参加を認めると発表した記者会見。北京のプレスセンターで最初に質問に立ったのは長年ウクライナに住む、カナダ人のリー・リーニー記者(41)だった。
彼は質問のしかたが記者としての矩(のり)を超えた行為であることを認めながらも、ロシアの空爆によって死去したウクライナの19歳のバイアスロン選手、ユージン・マリシェフの大きな写真を掲げながら問うた。「彼の家族の代わりに質問する。なぜ侵略国の選手を参加させるのか。彼はもう試合で戦うチャンスさえないのに」。涙をこらえ、パーソンズIPC会長に迫った。
リーニー氏はウクライナ西部のリビウで発行されている英語雑誌の編集者を10年近く務め、英字紙「キエフ・ポスト」やIPCのホームページにパラリンピックの記事も書き続けている。北京入りしたのは五輪開幕の2日前だったが、「8年前のソチ五輪の後もクリミア半島を占領したから」滞在中の侵攻を予想していた。リビウの自宅に帰る見通しは立っていない。
ウクライナでは町を防衛するため多くの五輪選手が銃を手にして戦っているという。「マリシェフが最後の例ではないかもしれない。防空壕(ごう)に住んでいるパラ選手も知っている。ばかげた状況だ」
「ウクライナにとってどれだけ痛ましいことか、想像もできない」と、リーニー氏の訴えをしっかり受け止めていたパーソンズ会長は翌3日、一転してロシア選手らの排除を決めた。リーニー氏に感想を尋ねると「世界の人々の連帯が、IPCに常識を気づかせたんだと思う」。
多くの国や選手が大会参加を拒む意思表示をしたことが、翻意の理由とIPCは説明した。でも、1人のジャーナリストの真摯な問いかけも、世界を動かしたと思えてならない。
(摂待卓)
「暗殺部隊」がゼレンスキー大統領の命を狙っている…リーク情報から見えてきた「ある特殊作戦」の実態
Photo: SOPA Images / Getty Images
日々報じられるニュースの陰で暗躍している諜報機関──彼らの動きを知ることで、世界情勢を多角的に捉えることができるだろう。国際情勢とインテリジェンスに詳しい山田敏弘氏が旬のニュースを読み解く本連載。今回はゼレンスキー大統領の命を狙っている組織について。ロシアを中心とする国の暗殺部隊が、彼の首を狙っているというが……。 【動画】ゼレンスキー大統領を狙う「暗殺部隊」の正体
チェチェンの大統領は「プーチンの歩兵」
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから一週間以上が経過した。 ウクライナを軍事力で圧倒するロシアだが、現時点でもウクライナ政府に影響力を及ぼすような軍事的制圧はできていない。ロシアが戦略的に失敗しているとの声は少なくないのだ。もちろん、一刻も早く一般市民が犠牲になる戦闘は終結すべきである。 経済制裁やウラジーミル・プーチン大統領への制裁で、ロシアはどんどん孤立を深めているようだ。そんななかであっても、プーチンを支持すると発言し続ける「応援団長」がいる。 ロシア南部、チェチェン共和国のラムザン・カディロフ大統領だ。カタールの衛星TV局「アルジャジーラ」によると、「チェチェンのリーダーでプーチンの仲間」であるカディロフは2月26日、ウクライナ侵攻についてメッセージ動画を公開した。「プーチンは正しい方向に向かっている。どんな状況においても、プーチンの命令に従う」と忠誠を誓っているという。 カディロフはプーチンの「歩兵」であると自認している。また、ロシアに抵抗しているウクライナの人々を「ネオナチ」と呼ぶこと、そして「ウクライナ人はネオナチに対して立ち上がれ」というプーチンの発言にも賛同している。 カディロフは「カディロフツィ」と呼ばれる自らの戦闘部隊を持つ。そして今、カディロフツィはロシアを後援する目的で、ウクライナに投入されているのだ。今回のウクライナ紛争では、ロシアの正規軍以外にも、ウクライナ政府を打倒するために暗躍している人たちがいるということだ。 実際、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の暗殺を狙った工作部隊がウクライナに入っているという。 米TV「FOXニュース」によれば、ゼレンスキー大統領を暗殺するために「ロシアに雇われた400人の傭兵が送り込まれている」。 たとえば「ロシアの民間軍事企業であるワグナー・グループが、極秘にロシア政府のために動いていると疑われており、5週間前に傭兵をアフリカからキエフに送り込んだと指摘されている」という。トップのゼレンスキーを排除し、「ウクライナをロシア政府の支配下に置く」ことが目的だ。しかも成功した際には、傭兵たちにかなりの報酬が約束されているらしい。 ウクライナは、チェチェン部隊や民間の軍事企業などとも対峙する状況になっている。NATOやアメリカから直接的に軍事的な助けを得られない同国は、自分たちでこうした敵に立ち向かっている。
ロシアの情報機関FSBがリークしている
もっとも、現在もウクライナ政府が崩壊していないことを考えると、ロシアなどの作戦はうまくいっていないということだ。事実、ウクライナ側はこうした工作にも善戦している。 たとえば報道によれば、戦闘に加わっていたカディロフの側近の一人で第141連隊司令官のマゴメド・ツシャエを、キエフ近郊ホストメルの空港で殺害したとウクライナ軍は発表している。 このツシャエ司令官はカディロフ大統領の指令のもと、イスラム教徒が多いチェチェンで同性愛者らを迫害して殺害してきたと批判されている人物である。その司令官と彼の率いる部隊が、ウクライナ軍の特殊部隊「アルファ」によって潰された。 ゼレンスキーの排除を狙うカディロフツィの動きについて、ウクライナ側は意外なところから情報提供を受けていると明らかにしている。 それはロシアの情報機関であるFSB(ロシア連邦保安庁)の関係者だ。ウクライナの国家安全保障・国防会議のオレクシー・ダニロフ書記は、ロシアのテレビ局で次のように語っている。 「チェチェンのカディロフツィが、ゼレンスキー大統領を暗殺する特別作戦を行っていることを、われわれはわかっている。というのも、今回の血なまぐさい戦争に参加したくないFSBの内部から情報を受け取っているからだ」 「そのおかげでカディロフの特殊部隊を破壊できている」 つまり、ロシアの情報機関FSBの内部に、プーチンのウクライナ侵攻に反発している人がいるということである。そこから、ウクライナにインテリジェンスがもたらされているということだ。ダニロフによれば、カディロフツィの特殊部隊が二手に分かれて作戦を実行していることも把握しているという。
世界が拍子抜けするロシアの軍事力
ちなみチェチェンは、北カフカス地方の旧ソ連の共和国だ。1994年以降、チェチェンもロシアから軍事介入を受けているが、2007年に現在のリーダーであるカディロフが大統領に就任し、傀儡政権として新ロシア政権が続いている。プーチンはそんなカディロフに「連邦英雄勲章」を与えている。 カディロフの人権蹂躙ぶりは欧米諸国からも批判されてきた。たとえば2020年7月、当時のマイク・ポンペオ国務長官が「カディロフ氏が拷問や殺害を含む、多くの人権侵害の責任を負っているという、広範かつ信頼できる情報がある」との声明を出したと英ロイター通信が報じているくらいだ。 ウクライナに話を戻そう。英TV局「スカイニュース」によれば、ロシアは世界的に知られている精鋭の特殊部隊「スペツナズ」もウクライナに投入し、空港などを占拠しようとしたという。だがこれもウクライナ側に撃沈されている。 もちろんウクライナ侵攻で犠牲になっている人が多く、破壊も続いているため、一刻も早く停戦することを願う。だが筆者の取材では、防衛関係者のなかには、ロシア軍の力に拍子抜けしている人たちもいる。日本の防衛関係者からも、これまで恐れてきた軍事大国ロシアの姿はまだ見られないとの声も聞こえる。もちろんこれから盛り返す、ということも考えられなくはないが……。 だが前述した通り、暗殺計画など水面下の工作もうまくいっていない。 プーチン大統領が今何を思っているのかはわからない。ただウクライナ紛争は、軍事大国として恐れられたロシアの威信に大きな傷を残すことになりそうだ。
Toshihiro Yamada