今回の解散は“自己陶酔解散”だ
(編集部注:本稿前半は11月13日夜の執筆、後半は14日の解散の方向性決定直後に加筆をお願いしたものです)
だが私は願望を込めて首相はまだ迷っているのではないかと思っている。
もちろん首相には2つとも予想通りだろうが、それが事実として明確になると事情はかなり違ってくる。なぜなら、政界ではともかく、多くの一般の人たちにとってこれらは衝撃的な新事実である。政界やメディアで織り込み済みでも、世論一般では必ずしもそうではない。
景気が後退局面に入って、「消費税増税をやるときではない」、「今まで何をやっていたのか」と野田政権への風当たりは一段と強まっている。
「小沢無罪」も、底辺の小沢ファンに勢いを与えている。今まで黙って耐えていたこともあって、その攻勢にはあなどり難いものがある。
閣僚や党役員も年内解散推進か?
選挙をめぐる役職者たちの不可解な行動
かろうじて残るとすれば、組合候補、世襲候補、重要閣僚経験者、個人後援会が強い地方議員出身候補の一部に限られよう。
閣僚や党役員の中には、年内解散推進論者も散見され、実に不可解な印象を与えている。
重要な役職のまま選挙に臨むほうが有利、選挙が遠くなれば落選の可能性が高まる、と考えていると疑われている。
要するに、倒れつつある仮設住宅から逃げ出して一旦老朽住宅に逃げ込むということだ。
賢明な有権者はその意図を見抜いているから思惑通りには展開しない。仮にそれが誤解であるとしたら、それを弁解しているだけで選挙は終わってしまう。
第三極の進撃がままならない今、
解散・総選挙をすれば政治は一層混乱へ
私は、今後4年間は、日本にとって運命的な時代の局面だと言っている。今のような政治の混乱が続けば取り返しがつかないことになると思っている。
今、総選挙を実施すれば確実に政権を交代させることはできる。だが、ただそれだけのことだ。しかし、現状より一層混乱した政治状況が4年間続くことが避けられない。それでは日本の衰弱、劣化に歯止めがかからなくなる。
唯一の希望は第三極の進撃だが、今のところこの行方もままならない。今のままではとても大きな展望は開けないだろう。何よりも統合原理と際立った指導者が欠けているのが致命的だ。たとえ第三極が自民、民主を脅かす当選者を得ても、同床異夢のゲリラ集団では早々に愛想を尽かされよう。
野田首相にはこの際、何としても年内解散を断念してほしい。私は、消費税問題では首相がウソをついたと思っているが、解散問題ではそう思っていない。そもそも昔から、「解散だけはウソをついてもよい」と言われている。むしろ、解散を法案賛成の条件にする自民党のほうがはるかに不見識だ。今後もこのような手法が常態化するとすれば、憲政史上に汚点を残したと言われても仕方がない。
民主党はこのまま消え去ってもよいのか。自民党以上に政治不信を強めて後は野となれ山となれということでよいのか。来年、半年間、じっくりと構想を固めて出直す方向に転換することを願うばかりである。
【追補】(11月14日夜)
願いも虚しく、衆議院は11月16日に解散されることになった。私はこの解散を“自己陶酔解散”と名付けた。
いくつかの感想を列挙する。
極めて異例な委員会の場での“解散”明言
比例区削減を条件にしたのは暴挙である
①解散に条件を付けたこと、委員会の場で明言したこと。これらはきわめて異例で、“解散”と言う言葉を著しく軽いものにした。
本欄で指摘してきたように、定数削減の目的が「身を切る」すなわち歳出の削減にあるなら、それに相当する政党助成金を削れば済むことだ。小選挙区と比例区のバランスは1つの理念に基づくもので歳出削減とは全く別の話である。
「身を切る」と言っても、それは落選者だけで、当選する自信のある議員は何も身を切らないことになる。
自分の歴史的業績(?)のために同志を見捨てた
野田首相を待ち受ける厳しい現実とは
④「ノーサイド」や「全員野球」はどうしたのか。
私は、イタリアで沈没する船から1人で逃げ出した船長を連想した。自分のことしか考えないのだ。
⑤首相はおそらく来年に解散を先送りすれば、消費税増税に赤信号がともるという財務省の見通しにあわてたのだろう。自分が「歴史的業績」と思い込んでいることが徒労に終わることを恐れ、それを優先して解散に持ち込んだのだ。
「一将功成りて万骨枯る」という言葉があるが、残念ながら一将の功もあり得なくなった。
最近、私が気になったのは「政治生命を賭けると言った意味は議員辞職すること」という首相発言だ。
今になってなぜそんなことを言うのか。それほど自己犠牲の精神で政治に取り組んでいると言いたいのだろうが、本気にそう覚悟している人は死んでもそんなことは公言しない。
私が“自己陶酔解散”と名づけたのは、今回の党首討論での際立った印象だったからである。
第三極が結集しないうちにと言う計算もあるかもしれない。しかし、期間が短ければ短いほど、逆にまとまりやすい場合もある。
それに、「100人のうち100人」の意向を踏みにじった首相についていく人はほとんどいない。
代表交代、内閣総辞職、集団離党という大政局も視野に入ってきた。
自己陶酔から醒めたら一段と厳しい世界が待っているに違いない。