パルデンの会

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「北朝鮮無害化」の好機 北東アジア経済圏を視野にいれよ


果たして 朝日新聞にいた人間が 
本当の事を書くのか?? 
それとも意図は??


【第36回】 2013年5月23日 山田厚史 [ジャーナリスト 元朝日新聞編集委員]

北朝鮮無害化」の好機
北東アジア経済圏を視野にいれよ

 今になってみれば、「脅し」はやはり大芝居だった。アメリカに核を打ち込む、日本も標的だ、と息巻いていた北朝鮮が、小泉首相のころ秘書官だった飯島勲内閣府官房参与を平壌で歓待した。拉致問題にひときわ厳しい姿勢で臨んでいる安倍首相が送り込んだ。動機はいろいろあるとしても、北朝鮮と対話の扉が開けたら評価に値する外交である。

 飯島参与の突然の訪朝に米国は不快感を表明した。国際的な北朝鮮包囲網から日本が抜け駆けしたと受け止めている。思い出すのは2002年の小泉訪朝だ。首相自ら平壌に乗り込み金正日主席と会い、国交回復を目指す日朝平壌宣言をまとめた。あの時、米国に伝えたのは訪朝2日前だった。

安倍首相の覚醒!?

 日本の独自外交を米国は快く思わず、やがて小泉外交は挫折した。この時、北朝鮮との関係決裂に動いたのが、当時、党の要職にあった安倍晋三氏だった。約束した「拉致家族の帰国」を拒否し北の反発を招いた。小泉首相も米国の意向に逆らえなかった。以後、日本は北朝鮮外交から遠ざかる。小泉首相が敷いたレールを壊した安倍氏が、今度は修復に動いた。日朝関係を軌道に乗せるには、たとえそれが米国の不興をかったとしても日本に必要なこと、と安倍氏もやっと分かったのだろうか。

 首相の狙いは拉致された人々の帰国にあるのだろう。膠着状態の拉致問題に進展が見られれば、参議院選に向けた安倍政権の得点になる。飯島参与はかねてから「圧力一辺倒の外交では問題の解決につながらない。交渉の糸口を開くことが大事だ」と語っていた。

 焦点は「何を解決と見るか」である。拉致被害者の消息を確かめる、何人かを帰国させる、という程度を成果とするなら「日本は自国の足元だけ考える愚かな国」と見られるだろう。少なくとも2002年の「日朝平壌宣言」に立ち戻ることが当面の成果と考えるべきだろう。その内容をおさらいしよう。

「両首脳は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなるとの共通の認識を確認した」と、明記されている。

北朝鮮は、日本からの経済協力の見返りに「拉致問題の解決」「核問題の解決のため関連するすべての国際的合意を遵守」を約束した。経済協力の規模と内容は国交回復交渉の中で決めることになった。拉致や核での出方を見ながら経済協力の金額を決める。支援をニンジンに北朝鮮を「無害化」しようというのが、平壌宣言にこめた日本の狙いだった。

 一片の宣言文に従うほど北朝鮮はヤワな国ではない。だが交渉がなければ、事態の改善はない。交渉が座礁してから日朝関係は悪化するばかり。そして「核攻撃の目標」にまでなった。今や北からの脅威は、拉致を飛び越え、日本国民の生存を脅かしている。

軍内部の権力闘争

 最悪のシナリオは「自爆戦争」ではないか。軍事ジャーナリストの田岡俊次さんが言っていることだが「核抑止力」とは「核攻撃したら自分も攻撃を受ける。割が合わない」という合理的な判断が前提になっている。

 自暴自棄になり自爆テロのような武力行使に走る独裁者がいたら核の抑止力は働かない。追い込まれ「もはやこれまで」と世界を道連れする核ボタンを押すことはないだろうか。疲弊した北朝鮮は短期で終わる軍事挑発は出来ても、戦争する国力はない。だから核に頼る。保有国になって周辺を威嚇する。その先軍政治の足元は極めて不安定だ。

金正日が没した2011年12月から軍の首脳人事は二転三転している。後継者として人民軍最高司令官になった金正恩は30歳の若さで2012年4月、労働党第一書記に就任した。同時に国防相にあたる人民武力部長になったのが、中国と関係の深い金正覚次帥だった。中国は遠隔操縦で親中国政権を作ろうとした、と見られた。7月になると軍で実権を握っていた李英鍋総参謀長が解任された。中国派が実権を奪う粛正人事と見られた。

 ところが11月に形勢は逆転。金正覚防相は解任され、軍で最強硬派とされる金格植大将が就任。中国の動きに危機感を覚えた愛国派が巻き返した、と見られた。ミサイル発射や核実験など対外緊張を煽る挑発行動は金格植防相の下で進められた。

金正恩体制は、ナンバー2の金永南最高人民会議常任委員長、国際関係は金永日朝鮮労働党書記が統括し、表向きは文民体制が敷かれているが、軍が隠然たる力を持っている。軍の内部は複雑で外からうかがい知ることが出来ないが、表面に現れた動きを見る限り、親中派と愛国派に割れ抗争がつづいている。

 というより金正恩体制そのものが中国との関係がギクシャクし、それが軍内部の抗争と連動していると専門家は見ている。
「最近の北朝鮮は中国の嫌がることばかりやっている。金正恩体制になって反中国感情が一挙に吹き出たとしか思えない」中国ウオッチャーの一人はそう指摘する。

 中国は朝鮮戦争でいっしょに米軍と戦った同志。国際社会の厳しい制裁でも、国境を渡って中国から入ってくる物資や食糧で北朝鮮は息をついてきた。その中国が5月、金融制裁に加わり中国の主要銀行から北朝鮮への送金をストップした。カネの流れを断たれる打撃は大きい。3月には原油の供給が止まっていた。中国との間で相当なもめ事が起きていたようだ。

 その一つがミサイル実験を巡るゴタゴタだ。中国は「思いとどまってほしい」と警告したが、北が強行したことで習近平総書記の面子が潰された。米中間では北朝鮮は中国が影響下に置くことが黙約になっている。中国が抑えきれなかったことは、米国へのカードを失う形になった。

金正恩はお飾り

北朝鮮軍内部での中国派粛正は、金体制が独自行動=暴走へと進む兆しではないかと懸念が広がり、原油・金融という厳しい制裁が始まった。中国のことだから原油もカネも裏ルートから北に流れ込んでいると見られるが、強硬な姿勢は北朝鮮を追い詰めた。

 核の標的を米国や日本に向け、今にも発射しそうな宣伝を繰り返していた北朝鮮が、軟化した背景には中国の強い姿勢が影響したと思われる。関係が悪化しても中国から離反して北朝鮮は政権を維持できない。妥協の道を探った結果が、軍事挑発の中止となって現れた。5月になって金格植防相が任を解かれ、かつて務めた参謀総長へと回された。

 日本では北朝鮮の敵は米国で、中国が兄貴分と見られがちだが、朝鮮半島国民感情はそれほど単純ではない。朝鮮は古くから中国の属領とされ従属関係にあった。毛沢東の革命政権が出来て友好国になったが、朝鮮族は中国にも多く、地続きの保護領のような扱いだった。中国が市場経済化し、取り残された北朝鮮は中国にとっても厄介者になっていた。

 親密化する米中関係を受け、何かと口出しが多くなる中国に、憤懣が溜まっていた。北朝鮮への制裁が厳しくなるほど、対外的融和を模索する文民派は後退し、愛国主義を振りまく軍の力が増している。
 経験の浅い金正恩は最高司令官であってもお飾りに過ぎない。その足元での権力闘争。まるで天皇の威光を借りて、公家や薩長が幕府を相手に権力争いした明治維新のような混沌が政権内部で起きている。
 困ったことに核という物騒なものを振りかざしての立ち回りである。

北の狙いは中国依存からの脱却

 日本の外交は、好き嫌いで動きがちだ。ロシア、中国、北朝鮮、韓国といった「歴史認識」を問われる国との外交は、嫌悪感や自己正当化が先に立ち、合理性を踏み外しがちだ。だが、たとえ嫌いな相手でも日本の不利益を取り除くためには交渉が欠かせない。
 相手の情報を取ったり、深く懐に入り込み相手の政策を変えるためには何をすればいいのか。好き嫌いを超えた冷静は戦術が求められる。日本にとって外交カードとなるのは経済協力だ。カネ・技術・物資を敵はほしがっている。その見返りに何を引き出すか、そこが大事なのだ。
 日本では「独裁政権を助けるのか」「カネや物資は人々に届かないがら止めろ」という意見が支配的だ。経済協力は独裁者を喜ばすためにやるのではない。喜ぶかもしれない。仮に喜んだとしても、結果として日本国民の安全が確保されれば外交として成功である。
 今回は中国が動き、あるいは裏で懐柔した結果、北朝鮮は軍事挑発を緩めた。北の内部では中国への憤懣が渦巻いているだろう。日本への接触は中国依存から抜け出る方策の一つとして取られた、と見るのが妥当だろう。

 米国からは「北朝鮮包囲網を破るな。行動は慎重に」というメッセージが届いている。「外交が出来ない日本にちょろちょろされては迷惑」「拉致問題しか眼中にない日本には期待できない」というのが他国の反応だろう。確かに安倍外交に大局観を期待するのは無理かも知れない。今回も、北朝鮮の一本釣りに官邸が動いた、ともいわれている。

 だが「日本の経済協力」を高く売れる好機でもある。北朝鮮は日本をいま必要としている。ロシアが体制転換で苦しんでいるとき、資金のほしさに北方4島の協議を持ちかけてきたことがある。あの時が4島返還のチャンスだった、と後になって日本は気付いた。

日本が影響力を及ぼすのは「今」

 北に日本が影響力を及ぼす端緒はまさに今なのだ。
 中国を頼れず韓国とも関係は冷えている。窮余の一策として日本に支援を求めてきた。日本に有利な状況下での外交ができる。援助を有効に使うなら「今でしょ!」、である。

 当面の目標は日中平壌宣言に立ち返ることだ。日本に核の脅威を与えないという約束を取り付け、国交回復交渉への道筋をつけること。制裁を求める国連決議など留意すべきことはある。まずは「北の駐日大使館」である朝鮮総連会館の売却で日本政府が「誠意」を示すことから始まるのが自然だろう。

 対話の窓口を開きながら、核の照準を外させ、拉致の進展をはかるのが望ましい。

 地図を逆さにして大陸から眺めると、日本海は大きな池のような内海だ。朝鮮半島、ロシア沿海州、日本列島に囲まれ、中国の東北地方が後背地として控えている。紛争と未開の還日本海経済圏は、国が向き合うことで豊饒の海となる可能性を秘めている。天然ガスや鉱物資源も豊富だ。近隣との友好が新たな需要や生産を生む。外交が成長戦略だ。政治体制を変えるのは武力による威嚇ではない。人や情報の交わりである。安倍首相はその扉を開けるだろうか。