パルデンの会

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中国の人権改善のため、日本にできることはたくさんある」陳光誠氏インタビュー


「中国の人権改善のため、日本にできることはたくさんある」陳光誠氏インタビュー

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僕(右)のインタビューに答える盲目の人権活動家、陳光誠氏(左)

昨年5月に渡米した中国の盲目の人権活動家、陳光誠さん(41)が22日、ロンドンの国際人権団体アムネスティ・インターナショナルで、僕のインタビューに5分だけ答えてくれた。

裸足の弁護士

陳さんは、「一人っ子政策」のため中国当局が中絶や不妊手術を強制していることを告発し、投獄された。そのあと自宅軟禁されたが、昨年4月、塀をよじ登って脱出し、北京の米国大使館に助けを求めた。

「サングラスの人権活動家」といった方が日本ではなじみがあるのかもしれない。陳さんは来月23日から20日間、台湾に滞在する予定だが、すでに中国に残された陳さんの家族への迫害はエスカレートしている。

当局の弾圧を恐れず、民衆救済の在野活動を続けて、「裸足の弁護士」と呼ばれた陳さんにまず、「胡錦濤から習近平に国家指導者が変わり、人権状況にも変化が期待できるか」と尋ねてみた。

陳さんは即座に「何一つ変わらない」と断言した。

次に「欧米諸国は中国との経済関係を優先し、人権問題は二の次にしているが」と質問すると、「人権問題は2番目どころか5番目にも入っていない。欧米のこうした態度が、中国当局による民衆弾圧を許している。このままでは国際社会の民主主義にとってプラスにはならない」と語気を強めた。

「欧米社会が優先する1番目、2番目、3番目、4番目のものは何か」と確認すると、陳さんは表情をほころばせ、「それはレトリックだよ」と笑顔を見せた。

「日本にできることはいっぱいある」

「中国の人権状況を改善するため日本にできることはあるか」と尋ねると、陳さんは「できることはたくさんある。実際に中国で何が起きているか報道する量を増やしてほしい。中国当局に抑圧されている人々を支援するため日本は声を上げることができる」と強調した。

陳さんは「国家の成熟度は、国外で起きていることに人々がどれだけ関心を払うかで測ることができるかだが、中国は内向きだ」と指摘した。

「日本の報道は当局寄りか」という質問に対して、「7~8年前に比べ、日本のメディアは次第に変わってきた。私たちのお互いの努力で状況を変えることができるはずだ」と一段の協力を要請した。

チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世中国当局の対話について、「中国当局は口先だけで対話と言っているが、実際には国内問題だとして取り合わない。中国当局ダライ・ラマ14世と対話すべきだ」と話した。

中国の李克強首相がインドを公式訪問している。

インドは中国を信頼できるかどうかについて、陳さんは「中国が権威主義体制のままなら、中国政府を信頼することはできない。インドを含めた隣国や国際社会が中国に法の支配に従うよう働きかけるべきだ。法の支配は基本的人権を守るツールだ」と指摘した。

「国際社会は中国との人権交渉を公開せよ」

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インタビューに先立つ、アムネスティ・インターナショナル年次報告書の発表会見で、陳さんは「中国当局は民衆の人権活動をまったく気にしていないと考える人がいるかもしれない。しかし、当局は気にしすぎるほど気にしている。気にしていないふりをしているだけだ」とスピーチした。

中国共産党の支配体制について、「民衆のために民衆を代表する民衆が政治を行うのが普通だが、中国共産党は政府の上に立ち、法律をも支配している。そして、誰に対しても責任を取らない。中国当局は安定を維持するため、国防費を拡大し、活動家を拘束している」と指摘した。

中国の人権状況について、「人権問題をめぐる交渉はすべて水面下で行われ、何一つ状況は改善していない。国際社会は中国当局との交渉をオープンにすべきだ」と訴えた。陳さんは、人権を旗印に掲げる欧州連合EU)に対しても交渉経過を明らかにするよう求めている。

チベット焼身自殺は昨年83人以上

発表された年次報告書によると、12年中に少なくとも83人のチベット僧らが抗議の焼身自殺を図った。海外メディアに焼身自殺のニュースを伝えたとして、少なくとも3人が禁錮7年6月などの刑を宣告された。新疆ウイグル自治区でも締め付けが強まり、宗教弾圧も行われているという。

時事通信によると、陳さんは民間団体「台湾関懐中国連盟」の招請で初めて訪台する。立法院(国会)や成功大(台南)で講演する方向で調整している。

沖縄の帰属問題の真意

安倍晋三首相は「侵略」の定義をめぐり「学問的にさまざまな議論があり、絶対的な定義は決まっていない」と答弁し、靖国神社に供物を奉納して、近隣諸国を大いに刺激した。

中国共産党機関紙、人民日報が沖縄県の帰属は「歴史上の懸案であり、未解決の問題だ」とする論文を掲載したことについて、中国人民大学のWu Zhengyu博士は僕の取材に、「まともにとり合ってはだめだ。中国を挑発する日本の政治家を逆に落ち着かなくさせるためだ」と指摘した。

中国国内では少数派と告白するWu博士は「中国は強硬な外交政策で近隣の友だちを失った。中国の外交政策はめちゃくちゃだ」と分析。米国との軍備競争にのめり込んだら、中国は破綻するとの懸念を示す。実際、南シナ海の領有権争いで東南アジア諸国は米国になびき、ミャンマーも中国依存を恐れて、欧米のもとに走った。

価値の外交

日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は、戦時の従軍慰安婦について「当時は軍の規律を守るため必要だった」「世界各国が持っていた」などと発言し、波紋を世界中に広げている。

河野談話村山談話の見直しを求める声はロンドンまで鳴り響いているが、陳さんら中国の人権活動家を支援しようという声はついぞ聞かれない。陳さんは国際社会の協力がなければ、中国の人権状況は改善しないというメッセージを送ってきている。

過去を正当化することに膨大なエネルギーを注ぐよりも、中国に人権状況の改善を迫り、内なる改革を促す方が、日本にとって真の国益にかなうのではなかろうか。台湾のように中国の圧力を恐れず、日本に陳さんを招請する動きがあるのか気になるところだ。

安倍首相も「価値の外交」を掲げるのなら、自ら歴史問題をほじくり返して「歴史修正主義者」のレッテルを同盟国の米国にはられる愚を犯すよりも、中国に対して人権の旗を高らかに掲げる方が随分、筋が通っているように思うのだが。

(おわり)

ロンドンを拠点に活動する国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。日本国憲法の改正問題(元慶応大学法科大学院非常勤講師=憲法)や日英両国の政治問題、国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部で大阪府警・司法キャップを務めるなど大阪で16年間、事件記者を務め、東京で政治部や外信部を経験。2002~2003年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。2012年7月、独立してフリーに。