パルデンの会

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消されゆくチベット 渡辺一枝 著


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【書評】

消されゆくチベット 渡辺一枝 著

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◆強まる圧迫、文化破壊

[評者]吉田司=ノンフィクション作家

 北京五輪の二〇〇八年、民族の自由と平等を求める僧侶と市民のデモ騒乱が聖都ラサからチベット全土に広がったあの「フリーチベット!」の叫びを覚えておられるだろうか。聖火リレーが日本の長野県を走る時、出発地とされた善光寺がそれを辞退し、チベット仏教徒への友情を示したあの日のことを。

 あれから五年、チベットで何が変わったか。〇九年から一二年までに抗議の焼身自殺をはかった者百人。民族の魂を歌うチベッタン・ポップスは発禁処分となり、歌手は拘束され多くが行方知れず。さらに、ラサ市内のチベット仏教の聖地ジョカン寺の周辺で大規模な再開発が進み、伝統的な町並みがコンクリートの街に様変わりしているという。文字通り「消されゆくチベット」状態なのだ。

 ただし本書は、そうした<新植民地主義>とも批判される中国の少数民族への圧迫(宗教や言論への弾圧・天然資源の収奪)だけをルポしたのではない。地球を覆う経済グローバル化の拝金主義の波がチベット高原の牧畜民の自給自足の暮らし(羊やヤクの毛で布を織り、肉と乳、バター、チーズを得るつつましやかな人間文化)を汚染・駆逐してゆく姿を複眼の思考でリアルに写し出している。それでも「(抵抗の)歌は止(や)まない。新しい歌が次々に生まれている」という一行が泣かせるのだ。

    ◇
 わたなべ・いちえ 1945年生まれ。作家。著書『わたしのチベット紀行』など。
集英社新書・798円)

◆もう1冊

 ピエール=アントワーヌ・ドネ著『チベット 受難と希望』(山本一郎訳・岩波現代文庫)。中国の同化政策をリポート。