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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成25(2013)年9月17日(火曜日)
通巻第4022号
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「興隆チャイナと沈没気味なロシア」が上海協力機構の構造変化の基層
習近平の中央アジア四カ国歴訪の意味とアジアの対照的反応
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習近平国家主席はトルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタンの公式訪問をなしてロシアへ飛んでサンクトベテルブルグで開催されたG20首脳会議(サミット)へ。その後、とんぼ返りにキルギスへ現れ、上海協力機構(SCO)首脳理事会に出席したあと、9月13日、キルギスの首都ビシュケクから北京へ帰国した。
同行したのは外交スピーチ・ライターの王滬寧(政治局員、中央政策研究室主任)、首席補佐官にあたる栗戦書(中央書記処書記、中央弁公庁主任)、そして楊潔チ(前外相、国務委員)、王毅外相らだった。
これら同行四人組は中国の外交の中枢である。
とくに注目されたのはガスのパイプラインを敷設してすでに大量のガスを輸入するトルクメニスタン、新しく石油パイプラインを敷設するカザフスタン、ウズベキスタン。そして鉱物資源の産地キルギスの四カ国を習近平が集中して訪問したことはエネルギー外交重視以外の何ものでもない。
第一にこれら四カ国にタジキスタンをくわえての旧ソ連中央アジアイスラム五カ国は、江沢民時代に設立された「上海協力機構」の創設メンバーであり、ロシアの影響力下にありながらも中国へ急傾斜している国々である。
英誌『エコノミスト』は、この現象を「興隆チャイナと沈没気味なロシア」と書いた(同誌、2013年9月14日号)。この上海協力機構の構造変化には留意しておく必要がある。
第二にいずれもイスラム原理主義過激派対策のため、中国との協力を密接にする必要があり、また北京側も新彊ウィグル地区のイララム独立運動との連携を監視するために、強力な関係を当該国家権力者と結んでおく必要がある。これらのネットワーク構築を、彼らは「テロ対策」と称している。
▼自分のテリトリーを侵されたとモスクワは危機感
第三に習近平のアジア歴訪をもっとも警戒したのはモスクワである。
プーチン政権は従来、トルクメニスタンのガスを百パーセント輸入してきた。カザフスタン、ウズベキスタンからもロシア側へのパイプラインを通じて輸入し、巨大な影響力を行使してきたが、中国が購入者として登場して以来、ガス、石油の価格交渉で不利な立場に立たされたからだ。
なぜなら購入者が増えれば、これまでのようにロシアの一方的な価格設定に抵抗できるからだ。
第四に習近平のこんかいの歴訪コースから外れたタジキスタンにしても、ロシアがアフガニスタン侵略の際の軍事基地であったが、以後の関係はしっくりいっていない。
このロシアの不在を衝いて、中国は政府建物の建設を援助したりして強力なバックアップによるロシア影響力の低下を狙っていること。
モスクワにとって、これも不快である。
第五に上海協力機構が、オブザーバーを増やしたことにより、その性格が変更していることも注目点である。
ロシアのプーチン大統領は「上海協力機構」の正式メンバーだが、ビシュケク(キルギスの首都)には オブザーバーとしてアフガニスタンのカルザイ大統領、イランのロウハーニー大統領、モンゴルのエルベグドルジ大統領が加わり、またインド代表、パキスタン代表ならびに関連国際機関と地域機関の代表が参加した。キルギスのアタンバエフ大統領が議長を務め、麻薬撲滅や文化交流の拡大などを決めた。2014年の同会議はタジキスタンのドシャンベで開催されることなども決定した。
他方、中国が影響力を失速中の地域が東南アジア諸国連合(ASEAN)に参加する国々である。
取りわけアセアンのなかでもタイ、ベトナムあたりの経済力は昇竜の勢いをしめしている。
日本は安倍政権誕生以後、明確に「チャイナ・プラス・ワン」を標榜し、生産拠点の分散化をはかってきた。「VIP」と言われるベトナム、インドネシア、フィリピンへのてこ入れが顕著となったうえ、中国の影響下にあるミャンマーへの投資も準備中である。
アジア統括本社をバンコックやシンガポールにかまえはじめた日本の大企業も数え切れない。
▼アセアン十ヶ国にも顕著な対中姿勢の変化
日本の2013年上期(1~6月)の直接投資は、1兆200億円となり、ちなみに対中国投資は4900億円と明確な反転を描いた。
2012年はそれぞれ1兆1500億円と1兆700億円だったから日本の対中投資が激減している事実を浮き彫りにしている。
就中、伸び率は前年比でミャンマー66%、フィリピン15%、インドネシア13%増だった。
対照的に中国はマイナス8%となった。
理由は安全と賃金である。中国の賃金を100とした場合、フィリピン77、インドネシア70、ベトナム44、ミャンマー16となっている。これらの動きは日本の長期的な国益に裨益するばかりか、中国の経済力低下の要因にもなるだろう。
親中派のオーストラリアも、労働党から保守連立政権に交代し、従来の中国重視外交は変更される。
9月7日の総選挙で圧勝した保守連合のアボット新首相(自由党党首)は「豪はあたらしなる」とし、外交の基軸変更はないもののレーガン、サッチャー保守革命路線を鮮明にして中国との距離を置くことを発言している。
というのも、対中貿易依存度が高かった豪は、中国の景気後退の影響をもろに受けてリセッション入りし、石炭、鉄鉱石、鉱物資源の輸出に陰りがでているためである。
また豪へ移住してきた中国人への風当たりが強くなっている。
かくして対中投資を減らしているのは日本だけではない。
すでに欧米金融筋は中国の銀行保有株を売却して撤退し、欧米企業も度重なる中国側の嫌がらせ、法律変更、規制強化に嫌気をさした。
豪リオ・テントは中国駐在トップ四人が拘束され、英国系製薬企業グラクソ・スミス・クラインも同様な使いを受けて中国と訴訟合戦、こうした動きを見て、ついに香港財閥の李嘉誠が逃げの態勢にはいったことは既報の通りである。
これからのアジア地図、大きく変貌する。