パルデンの会

チベット独立と支那共産党に物言う人々の声です 転載はご自由に  HPは http://palden.org

中国にすり寄る韓国と日本に歩み寄る北朝鮮の不思議 変わる朝鮮半島情勢の背後でうごめく中国の深謀遠慮


http://diamond.jp/common/images/v1/article/close-btn.gif
【第331回】 2014年6月10日 真壁昭夫 [信州大学教授]

中国にすり寄る韓国と日本に歩み寄る北朝鮮の不思議      変わる朝鮮半島情勢の背後でうごめく中国の深謀遠慮

中国に近づく韓国と日本に近づく北朝鮮
朝鮮半島をめぐる不可思議な動きの背景

最近北朝鮮が、わが国の拉致被害者の調査に関して歩み寄りの姿勢を示している。そうした北朝鮮の動向を見ると、どうも朝鮮半島の情勢に変化が起きているように思う。いつものように門外漢の経済学者が、そうした変化について雑感を述べる。
北朝鮮は以前にも、うわべだけ歩み寄りのスタンスを示したことはあった。しかし、その都度適当な理屈をつけて歩み寄りを覆してきた。今まで期待が裏切られてきた経緯から考えると、どうしてもその不安を払拭することはできない。
 何故、今になって北朝鮮がわが国に対する姿勢を変えたのだろか。おそらく、彼ら側にそうせざるを得ない、あるいはそうした方が得だと考える事情があるのだろう。その疑問を解くカギは、どうも中国との関係にありそうな気がする。
 足もとの北朝鮮の農業生産は、不純な天候などもあり、落ち込んでいると言われている。ただ、農産物の不作などは今までにもあったことで、今回に限ったことではない。また、わが国をはじめ世界からの制裁措置も今に始まったことではない。
 それよりも不自然に見えるのは、金正恩がリーダーの座についてから、まだ一度も北京を訪れていないことだ。その理由の1つに、中国とのパイプ役を担っていたと見られる側近、張成沢の粛清があったとの見方がある。
 今回の北朝鮮のスタンスの背景には、北朝鮮・中国間の関係のこじれがあると考えると、疑問の多くが解消されるような気がする。
朝鮮半島は、世界の安全保障に関してとても重要な位置にある。米国とロシア、そして近年台頭が目覚ましい中国のパワーがぶつかるポイントなのである。そこに一種の緩衝帯が存在する。
 具体的には、北朝鮮と韓国がパワーの衝突を和らげる役割を担っている。両国のお蔭で、3つの大国の勢力が直接ぶつかり合うことは避けられている。そのため、中国やロシアにとって北朝鮮は戦略的に大切な存在であり、韓国は米国にとって重要な役割を担っている。
 その両国が、最近今までとは違った行動を取り始めている。韓国は中国にすり寄る姿勢を盛んに示す一方、北朝鮮はわが国に対して歩み寄りの姿勢を示している。それは従来の枠組から考えると、「反対サイド」に近づく行動だ。

なぜこれまでの「反対サイド」に?
情勢変化の背景に見える中国の発言力

 韓国は、近年貿易取引で最も重要なポジションを占めるようになった中国に積極的にすり寄っている。それには、短期的に相応のメリットがあるはずだ。しかも、政治基盤が揺らぎつつある朴政権にとって、日本を敵役にすることは有効な行動に見えるだろう。
 一方、北朝鮮金正恩にとって中国との関係は重要なのだが、さりとて中国に支配されるような体制にはしたくない。そのため金正恩は、中国と太いパイプを持っていたナンバー2の張成沢を粛正することによって、その姿勢を示す方法を選んだ可能性がある。
北朝鮮のそうした行動は、中国のプライドを大きく傷つけたことだろう。その粛清以降、中国の北朝鮮に対する姿勢が大きく変わった。中国と北朝鮮の貿易量は縮小、特に中国からのエネルギーなどの輸出はかなり減少しているようだ。
北朝鮮とすれば、日本に対してメリットを与えることで経済制裁を解き、経済的な恩恵を享受することができる。さらに北朝鮮が、中国の敵方である日本に対して譲歩の姿勢を示すことで、中国の北朝鮮に対するスタンスを変えさせることができるかもしれない。
 こうして考えてくると、最近の朝鮮半島情勢の変化の背景に、中国の存在があることがわかる。中国は13億人という莫大な消費潜在力を抱える大国であり、欧米諸国にとって無視できない消費地になっている。
 また、中国は長年高成長を達成してきたことで経済の実力をつけており、世界経済にとって重要な存在にのし上がっている。しかも、世界最大の外貨準備を持ち、多額の米国債を抱えている。ある意味では、中国は米国経済の心臓を掴んでいるとも言える。

米国の発言力低下がチャンスに
韓国を歓迎し北を牽制し始めた中国

 米国経済の実力が低下傾向を辿り、国際的な発言力が低下していることは、中国にとって中華思想を振りかざすチャンスを与えられていると考えられる。習近平主席としては、その好機を逃す手はない。それに乗じて、ますます中国の国益を実現することに邁進することだろう。

 そうした中国の行動は、東シナ海南シナ海の領有権問題などに如実に表れている。その表れの1つが朝鮮半島情勢の変化と考えると、いくつかの謎が解ける思いがする。中国は、国内の経済基盤がやや脆弱な韓国との貿易量を増やすことで、韓国が中国にすり寄って来ることを歓迎している。

 一方、パイプ役を粛正した北朝鮮にはやや懲罰的な姿勢を示し、エネルギーなどの供給を抑えたり、金主席の訪中に首を縦に振らなかったりしている。ただ、それによって、北朝鮮が本当の意味で積極的に日本に近づかないことは、十分に承知しているはずだ。

朝鮮半島での中国のプレゼンスが拡大する一方、覇権国である米国の影が薄くなっていることは否めない。韓国は米国の心配をよそに中国に近づき、わが国は、北朝鮮との約束に従って制裁措置を解除することになるかもしれない。ウクライナアフガニスタンなどの問題を抱えるオバマ政権には、現在積極的に朝鮮半島に口を挟む余裕がないのかもしれない。

足もとの中国経済を見ると、政府の経済対策の効果もあり、とりあえず持ち直しの兆しが見え始めている。悲観派が懸念していた大きな落ち込みを、回避することはできると見る。

ただし中長期的に見ると、人口構成や技術の蓄積などの要因から考えて、中国経済の高成長段階は終了している。しかも現在、国内には不動産バブルやシャドーバンキングなどの無視できない問題を抱えている。それらは、いずれ中国経済を下押しする要因になる。そのため、中国経済に関しては長期的に明るい絵は描きにくい。

中国経済の成長が鈍化すると、国民所得の伸びも鈍化し、消費地としての潜在力は低下せざるを得ない。そうなると、欧米諸国からの風当たりも強くなるだろう。そうした状況下、人口の多くが十分な経済的な蓄積を持たずして、高齢化ステージを迎えることが予想される。それは無視できない問題だ。

 もともと中国は民主化が遅れ、共産党一党独裁体制の下で創出する経済的な富を、公平に分配するシステムを持ち合わせていない。多くの富は、一部の共産党幹部や国営企業などの経営者の間で占められている。経済が高成長している間は、少ないながらもパイの分配に預かれる人が多いため、国民の不満は溜まりにくい。

もしも中国のプレゼンスが低下したら?
日米中韓朝の思惑入り乱れる今後の展開

 しかし、経済力に陰りが見え始めると、国民の不満が爆発しやすくなる。しかも、現在のように多額の軍事支出を続けることは難しくなる。結果として、近隣諸国から激しい反発を買うような、強圧的な行動を取ることは困難になるはずだ。つまり、中国のプレゼンスが徐々に低下するのである。

 それは、今すぐに起きることではない。しかし、そうした状況になる可能性は高い。そのとき、北朝鮮や韓国はどのような行動をとるのだろうか。
北朝鮮については、金王朝が長期的に現体制を維持できるか否かが最大のポイントだ。おそらく何かのきっかけで、金王朝が崩れることが予想される。そのときまで中国の勢いが持続していると、おそらく新「中国が主導する国」ができる可能性が高いだろう。
 一方、韓国は長期間にわたって中国に頼ることは難しいだろう。中国経済の鈍化や安全保障上の配慮もあり、いずれかの段階で欧米諸国サイドに復帰することになる可能性が高い。少なくとも、現在の朴政権がとっている親中国の姿勢を続けることは、難しいと考える。