2014.11.18 11:00
【日本の議論】皇族方の「学習院離れ」が加速する理由 大学の魅力か、時代の流れか
秋篠宮ご夫妻の次女、佳子さまが10月、国際基督教大(ICU、東京都三鷹市)のAO入試に合格し、来年4月から通学されることになった。昨年4月に内部進学した学習院大(豊島区)を中退しての「新たな学びの場」へのご挑戦。これにより、学習院に在学されている皇族方は皇太子ご夫妻の長女、敬宮(としのみや)愛子さま(女子中等科1年)お一方となり、幕末に起源を持つ“皇族の学校”の伝統が風前のともしびとなっている。なぜこうした状況が起きているのか。関係者の話から探った。
学習院では物足りない?
「特に広く教養科目や英語を学びたいというお考えからICUを選ばれた」
ICU合格が発表された10月30日、宮内庁は佳子さまがご進学先に選ばれた理由をこう説明した。
9月に学習院大ご中退が発表されたときには、実は学習院女子高等科3年次にも、学習院大以外を受験されていたことも明らかになった。佳子さまが学習院大で通われた文学部教育学科は、ご入学と同じ昨年4月に新設されたばかりだったが、お引き留めするには至らなかった。
「裏を返せば、学習院では物足りなかったということ。若い世代の皇族方が学習院での教育に満足されない実状があるのは、間違いないだろう」
大正15年に出された皇族就学令(戦後に廃止)では第2条に「皇族男女ハ(中略)学習院又ハ女子学習院ニ於テ就学セシム」と明文化され、名実ともに皇族の学校だった。
昭和天皇に対する当時の乃木希典(まれすけ)院長の姿勢に象徴されるように、特別扱いされがちな皇族方にも一般の子供と同様に厳しく、分け隔てなく接する校風も皇族方の教育に資する土壌とされてきた。
だが、高円宮妃久子さまの長女、承子さまが平成17年に学習院女子大を中退し、最終的に早稲田大をご卒業。三女の絢子さまもご関心がある福祉分野が学習院大になかったため、21年に城西国際大(千葉県東金市)に入り、現在は同大大学院に進まれている。
ただ、このお三方は女性皇族であり、少なくとも高校まで学習院で学ばれている。これに対し、秋篠宮ご夫妻の長男で皇位継承順位3位の悠仁さまは、幼稚園、小学校とも学習院ではなく、お茶の水女子大学付属幼稚園、同付属小学校(文京区)を選ばれた。このことは、皇室の「学習院離れ」を決定づけたといえる。
遅すぎた?改革
「結果として、そういうことになったということ。それ以上でも、それ以下でもない」。常務理事の耀(あかる)英一氏は、ご在学が愛子さまお一人になった現状をこう説明する。
明治時代の院長は、養成したい資質として「道徳・智力・気品・体力」を掲げていたという。「一貫した教育方針で、歴史と伝統を築いてきた。教育方針を今後も変えるつもりはない」。耀氏はこう訴える。
平成18年6月から26年9月まで在任した波多野敬雄(よしお)前学習院院長は「グローバル学習院」の標語を掲げて国際社会で活躍できる人材育成を目指し、国際社会学部(仮称)創設に尽力した。ただ、実際に同学部が開設されるのは28年4月の予定。
橋本氏は「皇族方が国際親善でこれだけ海外に出かけられている時代に、国際関係の学部がないのは不十分だった。もっと早く新学部ができていれば、状況は少し違ったのかもしれない」と振り返る。
ある教育関係者は「学習院の動きは極めて遅いと感じる」と指摘する。新学部の開設は52年ぶり。現在は法学部、文学部、経済学部、理学部の4学部で、眞子さまがICUに進まれた4年前も「選択肢の狭さ」がネックとされていた。
「多くの大学は少子化の波を乗り越えようと、学部の改変や入試改革でアピールしようとしている。学習院には伝統を変えない姿勢を評価する声もあるが、熱意が見えづらい面もある」と、この関係者は話す。
ただ、一般の受験生にとって学習院大の評判が悪いわけではない。
大手予備校「河合塾」教育情報部の富沢弘和チーフ(42)によると、難易度では各大学のアルファベットの頭文字を取った「GMARCH(ジーマーチ)」として、学習院は明治、青山学院、立教、中央、法政と同クラスに分類される。「受験者数も減ってはおらず、人気が落ちているわけではない」と、富沢氏は分析する。
お姉さまのご存在?
一方で、「学習院の努力とは別に、時代の流れからもやむを得ないのではないか」という見方を示すのは、皇室ジャーナリストの久能(くのう)靖氏(78)だ。
天皇、皇后両陛下のお考えもあり、国民が皇室を身近に感じるようになった一方、社会全体に個人の自由をより尊重する風潮が広まっている。
久能氏は「若い皇族方の意識が一般の学生と近くなり、学びの場を自由に選択したいと考えるようになられても、不自然ではない」とした上で、「学習院の利点とされてきた『皇族方を特別扱いしない』というメッセージすら、あえて言われるほど、逆に息苦しく思われるのではないか」とみる。
久能氏がさらに指摘するのは、学習院以外での大学生活を終えられた姉、眞子さまの“成功体験”だ。皇族のICUご進学は初のケースだったが、26年3月のご卒業にあたり、眞子さまは大学生活を「楽しく充実した日々を過ごせた」と振り返られている。
河合塾の富沢氏によると、「オーソドックスな総合大学」の学習院大と、「広く教養を身につけた上で、文系理系にしばられず自ら専門を選択できる」というICU。最も身近な存在である眞子さまのご体験を聞き、「佳子さまも雰囲気の違いを改めて意識されたのかもしれない」。久能氏はこう推測する。
学習院OBの中には「皇后さまが学習院ではなく聖心女子大を卒業されていることも、『皇室=学習院』ではないという意識の変化に影響しているのではないか」との見方を示す人もいる。戦前は皇族方のご結婚もお相手は皇族や華族が普通だったが、戦後は民間ご出身の方が増えた。眞子さまと佳子さまの母、秋篠宮妃紀子さまも、学習院大卒業ではあるものの民間ご出身だ。
では、学習院はどうするべきなのか。
久能氏は「皇族方にも『多くの学校のうちの1つ』と見られるようになってきた以上、学習院は長い人材育成の伝統を踏まえつつも他の学校と同様、学生や保護者が何を求めているかを敏感に察知して改革していくしかないのではないか」と強調している。