韓国が「イスラム国」に気をもむ事情 2015/1/29 7:00
- 日本経済新聞 電子版
電子報道部次長 山口真典
「日本人の人質事件は、イスラム国の脅威が対岸の火事ではないことを物語っている」(韓国中央日報の26日付社説)。中東の過激派「イスラム国」を名乗る組織の動向に、お隣の韓国内でも高い関心が集まっている。その背景には、ストレスの強い韓国社会への不安と不満がくすぶっている。
キム氏は中学校を中退し、自宅に引きこもっていたとされる。フェイスブックには出国前に「この国と家族から離れて新しい人生を送りたい」と書き込んでいたとも報じられた。その後、韓国のネット上では「部屋に閉じこもる我が子がイスラム国に抱き込まれるのでは」と懸念する親たちの書き込みが相次いだという。
昨年11月のこのコラムで紹介したが、韓国の若者の多くはどんなに努力しても明るい未来を描けない、という不安とストレスにさらされている。幼い頃から夜遅くまで塾に通って激しい受験競争を経験し、たとえ有名大学に入っても希望する企業に就職できる保証はない。大企業でも30代後半になると、多くの人が「名誉退職」と呼ばれる肩たたきの不安にさいなまれる。
こうした現実から逃れるため、SNSやゲームに没頭しネット依存症に陥る若者が増えて、深刻な社会問題となっている。ある友人は子息のネット依存症を治療するため、数年間休職してネットがない環境を確保できる海外に移り住んだ。朝鮮日報のコラムでは、イスラム国に魅せられる若者に関して「過激な思想に惑わされない健全な社会を韓国が形成しているという自信が持てない」と嘆く。
若者の海外志向が強いことも、こうした社会の閉塞感が影響している。韓国外務省の「在外同胞現況」によると、海外に住む韓国人の総数は直近の2013年度調査で約701万人。約5000万人という人口規模から考えると割合はかなり高い。このうち中東地域は約2万5000人だが、07年の約6400人と比較すると6年間で4倍近くに急増した。
それに伴って韓国料理店やクリーニング店など、韓国人相手の商売を営むために海外に移る人も増えている。「このままでは自分も子供も将来に希望が持てない」という動機で、家族と共に海外に働き口を求めた知人も少なくない。彼らは祖国を嫌っているわけではないが、競争の激しい社会への疎外感を異口同音に語っていた。