中国経済の減速映し、浮揚力失う日本株
編集委員 前田昌孝
- 2015/7/29 5:35
- 日本経済新聞 電子版
東京株式相場が浮揚力を失っている。中国株が再度急落し、中国の景気減速が世界経済に影を落としそうなためだ。24日に発表された中国の7月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は48.2まで低下した。中国の需要の伸び悩みで世界の商品価格も下落が目立つ。28日にはファナックが中国での設備投資が不透明との理由で、2016年3月期の純利益見通しを23%減に下方修正したが、今後、同様の企業が出てくる可能性もある。
日経平均株価は21日に2万0841円と、6月24日に記録した年初来高値の2万0868円まであと一歩に迫りながら、上回ることができなかった。22日以降は米国株が決算発表への失望感から下落し、東京市場も小口売りで安くなった。今週は27日に上海総合指数が8.5%安と約8年ぶりの大きさで急落し、東京市場も足を引っ張られた。28日も上海総合指数を見ながら乱高下し、結局、小幅続落した。
米国の主な上場企業の4~6月期決算は表の通りだ。アップルは増収増益だったが、今後の売上高見通しが市場の事前予想を下回り、株式市場で失望売りを招いた。マイクロソフトは過去最大の損失計上が響き、IBMやヤフーも業績不振で失望売りを浴びた。建設機械大手のキャタピラーの4~6月期は中国事業の不振で純利益が前年同期比29%減になった。
表に掲げた10社で決算が高く評価されたのはアマゾンぐらいだ。売上高が市場予想を上回り、純損益も黒字転換した。スタンダード・アンド・プアーズ500種の採用企業の合計では、12年4~6月期以来の減益になる可能性がある。この理由として「多くの米国企業が原油などの資源価格下落、ドル高、新興国経済低迷に伴う海外事業の不振を挙げている」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券)という。
発表翌日 の株価騰落率(%) | ||||||
売上高 | 純利益 | 1株 利益 | 売上高 | 純利益 | 1株 利益 | |
13.195 | 2.706 | 0.55 | 13.831 | 2.796 | 0.55 | -1.3 |
20.813 | 3.449 | 3.5 | 24.047 | 4.137 | 4.12 | -5.9 |
49.605 | 10.677 | 1.85 | 37.432 | 7.748 | 1.28 | -4.2 |
22.180 | -3.195 | -0.4 | 23.382 | 4.612 | 0.55 | -3.7 |
1.243 | -0.022 | -0.02 | 1.084 | 0.270 | 0.26 | -1.2 |
16.333 | 1.652 | 1.73 | 17.191 | 1.790 | 1.84 | -7.0 |
12.317 | 0.710 | 1.16 | 14.150 | 0.999 | 1.57 | -3.6 |
32.754 | -1.135 | -0.13 | 32.260 | 3.545 | 0.35 | 0.7 |
7.686 | 1.300 | 2.02 | 8.134 | 1.267 | 1.91 | -3.8 |
23.185 | 0.092 | 0.19 | 19.340 | -0.126 | -0.27 | 9.8 |
中国経済の減速は、米国企業の収益悪化要因になるだけではなく、さまざまな経路で世界経済に波及する。日本では中国への輸出が一段と減る。日本からの輸出が伸びないのは中国向けと欧州向けだけだ。中国と関係が深い東南アジアの景気を悪化させる。中国の需要伸び悩みは国際商品の市況軟化をもたらし、資源国の経済を圧迫する。いずれも日本の輸出関連企業の収益にマイナスだ。
実際、世界の商品先物価格から計算しているCRB指数は27日に202.69と、リーマン・ショック後の09年3月2日につけた200.34とほぼ同水準まで下げた。原油や1次産品の値下がりは世界経済にプラス面もあるが、先に表れるのは資源関連の企業の業績悪化や資源国の景気低迷だ。資源貿易などで中国依存度を高めた国々にとっては試練の局面を迎えたといえるだろう。
24日に財新/マークイットが発表した中国の7月のPMIが48.2と市場予想に反して前月の49.4から低下し、昨年4月以来の低水準になったことも、中国経済の停滞ぶりを物語る。中国の4~6月期実質GDP成長率は15日に前年同期比7.0%増と発表されたが、「そんな力強さは感じない」との声も多い。28日のファナックの業績見通し下方修正は、中国の成長力に対する疑念を端的に示している。
中国の景気減速は長期に続く可能性もある。日本総合研究所によると、中国企業の債務は急膨張し、非金融企業債務残高の対名目GDP比は日本のバブル期を上回る水準だという。このため、金融緩和の効果が限定的で、企業の資金需要も盛り上がらない。「当局がインフラ投資の加速と持続的な住宅市場てこ入れ策を打ち出し、景気失速を回避する局面が長期化する見通しだ」という。
中国は1人当たりGDPが8154ドル(2015年の国際通貨基金の予想)に達し、世界の工場としての役割を終えたにもかかわらず、「世界で活躍する企業が見当たらない点で日本の1970年代とは異なる」(シティグループ証券の藤田勉副会長)との指摘もある。上海市場も時価総額の構成比は金融株39%、通信17%、情報技術(IT)13%という具合で、基幹産業が育っていない。
中国景気の減速に加え、もう一つ、日本の8月相場を重苦しくしそうなのが、米国の利上げ時期をめぐる思惑だ。7月28~29日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)ではイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の記者会見の予定はなく、声明文を公表するだけなので、9月利上げの蓋然性が高まるだけの材料は得られない可能性も大きい。
それでも声明文に米国景気の明るさを強調する表現が盛り込まれていたり、30日発表の米GDPが景気拡大を裏付けていたりした場合には、9月利上げ開始の思惑が膨らみ、米国の10年国債利回りが徐々に上昇する展開もありうる。米国の金利上昇→米国株安→日本株安という流れと、日米金利差拡大→円安→日本株高という流れの2つが考えられるが、中国を含む新興国経済が米国の利上げで苦しくなることを加味すると、慎重に見ていたほうがいいかもしれない。
ところで、8月相場は夏枯れでさえない印象があるが、経験則は異なり、値上がりする年も多い。戦後66年間の8月相場を振り返ると値上がりが35回、値下がりが31回を数える。最も大きく上がったのは49年で20.9%の上昇を記録し、最も大きく下がったのは90年で16.3%の下落を記録した。平均騰落率は0.7%のプラスだ。