東シナ海尖閣諸島周辺海域を航行する中国海警局の船舶(2013年11月2日撮影、資料写真)。(c)AFP/JAPAN COAST GUARD〔AFPBB News

尖閣諸島をめぐる日本と中国との対立は、中国が同諸島周辺の海域、空域での軍事、非軍事両面でのプレゼンスをさらに強め、優位に立ちつつある――。
 11月中旬、米国議会の中国関連の政策諮問機関がこんな判断を明らかにした。
尖閣諸島を中心とする東シナ海において、中国は南シナ海での行動とは対照的に静かな形で影響力の拡大を進め、日本を圧しつつあるというわけだ。日本にとっては、尖閣諸島の領有権に影響する重大な警告だといえよう。

超党派の政策諮問機関が明らかに

 米国議会の超党派の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」は11月中旬に公表した2015年度の年次報告書のなかで、この判断を明らかにした。
 同委員会は、「米中経済関係が米国の国家安全保障に与える影響」を主体に調査・研究し、その結果を米国政府や議会の対中政策に反映させることを任務として2000年に設置された。以来、一貫して中国の動向を恒常的に測定している。

 2015年度の年次報告書は、「この1年間の中国に関する安全保障・外交政策」という章のなかの「中国の東シナ海での海洋紛争」という項目において尖閣諸島をめぐる動きをとりあげた。そのなかでこの1年の総括として、東シナ海では、南シナ海におけるような国際的注視を集める出来事こそなかったが、中国は東シナ海尖閣諸島をめぐる海洋紛争において、静かなうちにも非軍事、軍事の両面で日本に対する態勢を強化し続けしている」と述べた。つまり、中国が日本に対する立場をこれまでよりも強くしていると指摘している。

軍事作戦に備える中国空軍

 同報告書は、尖閣周辺で中国が優位に立ちつつある動向の根拠として、以下のような諸点を挙げていた。

・2015年7月に日本政府が発表したように、中国は東シナ海日中中間線の中国側水域で、ガス田開発のための海上建造物16基を新たに構築した。建造物は中国側の水域に造られたとはいえ、資源開発に関する日中合意に違反している。中国側はその建造物に軍事用のレーダーやヘリコプター、無人機の発信基地などを設置することが可能である

・2015年1月に国際軍事情報誌「IHSジェーンズ」が公表した映像が示すように、最近、中国は浙江省温州市沖の南麂(ジ)島の軍事基地を強化した。従来のレーダー、通信施設を増強し、ヘリコプターや小型航空機発着の拠点を拡大している。この島は尖閣から260キロほどの距離にあり、沖縄本島から尖閣までよりも100キロも近い。中国側の軍事専門家も、同島が東シナ海、特に尖閣周辺での軍事行動の主要拠点だと認めている。

・2015年7月に日本の防衛省が発表したように、中国軍の航空機の尖閣諸島空域への異常接近により、日本側は2014年1月から2015年6月までの間に合計706回のスクランブル(緊急発進)を実施した。毎日1回以上のスクランブルというのは極めて異様な事態である。また日本政府は、中国の海警などの公的艦艇が尖閣諸島の日本領海に毎月平均7~9回侵入していると発表した。

・2015年5月には、中国人民解放軍空軍の爆撃機を含む飛行大隊が日本の宮古海峡を初めて越えて、東シナ海から西太平洋へ飛行した。この飛行は、中国沿岸を遠く離れた東シナ海の海洋上空で、中国空軍が作戦遂行能力を高めつつある実態を明らかにした。尖閣諸島をめぐって予期される軍事作戦に備えて、中国側が航空戦闘能力を強化していることの例証だともいえる。

「静かなる侵犯の拡大」に対応を

 同報告書は尖閣諸島情勢のまとめとして、中国側が日本との当面の緊張緩和の大枠を崩さないようにしつつも、軍事的、非軍事的両面での態勢強化を静かに進めている点を特に強調し、日本側に警告を発している。
 中国は尖閣諸島での対立に関して、声高な非難や、領海、領空の新たな侵犯というような言動はとらない。しかし、実際には従来の侵犯を静かに強化し、拡大していく戦術をとっているというわけだ。この「静かなる侵犯の拡大」には、日本側こそが新たな対応策を迫られるだろう。