http://www.newsweekjapan.jp/images/header/logo.gif
最新記事
背景に中国国内における江沢民告訴――中国で入国拒否されたミス・カナダ
入国拒否されたミス・カナダのアナスタシア・リン
中国系カナダ人のアナスタシア・リンさんは、12月19日に中国の海南島三亜市で開催されるミス・ワールド世界大会に参加するため中国に入国しようとした。ところが駐カナダの中国大使館はリンさんのビザを発給することを拒否した。そこで香港経由で中国入国を試みるため中国政府の特別行政区で入国要件が異なる香港に行った。それでも中国大陸への入国は拒否されてしまった。
中国出身のリンさんは13歳のとき、父親と離婚した母親とともにカナダへ移住。トロント大学で演劇を学び、在学中から中国の人権問題をあつかう映画やテレビ番組に出演してきた。カナダ映画『最前線(原題:The Bleeding Edge)』で、リンさんは収監される法輪功学習者を演じている。今年7月には米議会の公聴会で、法輪功学習者に対する中国政府による迫害や臓器狩りの実態について証言したこともある。
臓器移植ドナーと死刑執行の数を合わせても数万件の移植手術件数に満たないのはなぜか。
中国政府に聞きたい」(「大紀元」)など、中国の人権問題と言論弾圧に関心を向けるように訴えた。
法輪功学習者による江沢民告訴と新「行政訴訟法」
これまでの訴訟法では、多くの人民からの訴えを訴訟として受理することが少なく、もっぱら「上訪」(サン・ファン)という陳情者の受付箱や受付窓口で処理することが多かった。処理すると言っても、陳情書を受け取るだけ受け取ってゴミ箱に捨てるか、陳情を聞くだけ聞いて無視する、あるいは追い払うという情況がほとんどだ。最近はインターネットを通して「上訪」ボックスに投稿するケースも見られる。特に法輪功学習者が訴えた場合は、それを受理しないどころか、必ず逮捕され、拷問や生きたままの(第三者への移植のための)臓器摘出などにより死に至る者が多かった。
しかし、習近平政権は反腐敗運動を展開するに当たり、「依法治国」(法によって国を治める)を政権スローガンの一つにしている。中国政府に対する暴動やデモは、大小合わせると年間18万件に上ると清華大学の教授は計算して出しているくらいだ。これを放置すれば、反政府暴動が本格化するのは時間の問題だろう。特に悪化する一方の大気汚染は、貧富の別なく、すべての中国人民を「息ができない」現状に追い込み、環境汚染をここまで放置して利益ばかりを追及してきた党幹部への不満は限界に達している。
江沢民元国家主席により1999年6月10日から激しい迫害を受けてきた法輪功学習者たちは、中国全土で競って江沢民を告訴する運動を起こし、いま現在、法輪功学習者の直接の被害者が原告となって中国の最高人民検察院(最高検察庁)や最高人民法院(最高裁判所)に告訴した原告の数は中国国内で20万人に達しているという。また被害者に同情して署名活動をし告発状を最高人民検察院や最高人民法院に送った数は、それぞれ38万8千人分(最高人民検察院)および32万2千人分(最高人民法院)となっているとのこと。このデータは配達証明などにより確認された数字であることを、筆者は直接、法輪功関係者から聞き取った。かれらによれば、さらに国外からの原告の人数も合わせれば、百万人に達しているという。
すでに牢獄にいる薄熙来や周永康らは、この法輪功迫害に関して協力した見返りに江沢民から多くの恩恵を受けて出世した連中だ(薄熙来と法輪功の関係に関しては『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』に、周永康と法輪功の関係に関しては『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』に詳述した)。
つまり習近平政権にとっては、中国政府に対する国内のさまざまな不満要素のはけ口は創ってやり、法輪功学習者の告訴により江沢民を結果的に窮地に追いやりはするが、かと言って、「精神的な力」を持ち得る法輪功が幅を利かせては困るので、あくまでも邪教として徹底的に取り締るということなのである。
カナダのアナスタシア・リンさんの入国拒否は、この線上にあったと言っていいだろう。
江沢民を「生かさず、殺さず」
おまけに江沢民の腹心は曽慶紅以外すべて投獄されているので、江沢民には彼のために動いてくれる部下がすでにいない。
だから、このまま放っておけばいいのだが、まだ江沢民の息子・江綿恒が綱渡りをしながら生きている。その孫も、チャイナ・セブン(習近平政権の中共中央政治局常務委員7人)の党内序列ナンバー5の劉雲山の息子と結託しながら、まだ「商売」に励んでいる。
そこで江沢民を「生かさず、殺さず」の状態に置きながら、プレッシャーも与えつつ、かつ法輪功が活躍する余地はもぎ取っておくというのが、習近平の魂胆だ。法輪功は何よりも「精神的力」で横につながっている。中国政府にとって、これほど好ましくない存在はない。金で心を買うことはできても、尊厳は買えないからだ。
しかしかつて法輪功学習者が増えたのは、中国の医療制度が充実していないために、健康を保つ目的で気功を始めたのが原因だったことは確かだとみなしている。改革開放により、それまで国家によって守られていた「揺りかごから墓場まで」の生涯保障制度は崩れ、その一方で近代国家としての医療制度の充実も進まない時期が長く続いた。気功を通して健康を保とうという動きはまたたく間に中国全土に広がった。中南海の中にも学習者がいた。問題は、気功の修練の中には「精神の安定」や「自由な精神の拠り所」を求めるという出発点があるということだ。これは中国共産党が「信仰」として強要している社会主義の核心的価値観と相いれないという要素を持っているだけでなく、「精神的に横につながると反政府運動になる危険性を持っている」という警戒心から弾圧を始めたという事実は認識しておいた方がいいだろう。
http://ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&ASIN=4106106426&Format=_SL160_&ID=AsinImage&MarketPlace=JP&ServiceVersion=20070822&WS=1&tag=newsweekjapan-22http://ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=newsweekjapan-22&l=as2&o=9&a=4106106426
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)