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中国の南シナ海での活動が止まらない ジレンマに悩む米国

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中国の南シナ海での活動が止まらない
ジレンマに悩む米国

2016年02月26日(金)辰巳由紀 (スティムソン・センター主任研究員)
 中国による南シナ海の軍事化が止まらない。中国は2014年以降、南シナ海においてファイアリークロス礁での人工島の建造や、この人工島に滑走路、港湾施設の建設などを行ってきた。が、これまではこのような建設工事は軍事目的ではないと言い続けていた。
http://wedge.ismedia.jp/mwimgs/e/7/350/img_e71ab63cfe01db2c18a7b4db3e7f7e7c3391757.jpgハリー・ハリス米太平洋軍司令官(Getty Images)

 しかし、ここにきて、先週、米国の保守系メディアであるフォックス・ニュースが、西沙諸島のウッディ島に地対空ミサイルが配備されたという報道を行った。2月22日には、この島にレーダー施設も設置されていることが衛星写真から判明したことが米戦略国際問題研究所CSIS)の報告により明らかになった。

 さらに、2月23日には中国がウッディ島に戦闘機の仁7号及び仁11号を配備したことが確認された。
 

事態の緊迫化を招いているのは中国

 米国は14年以降、中国の南シナ海での動きに強い懸念を表明し続けてきた。今年に入ってからは、1月23日にダボス世界経済フォーラムに出席したアシュトン・カーター国防長官は、スピーチの中で「私は、米中間の衝突が不可避だという立場には与しない。そのような事態が望ましくないことは確実だし、衝突の可能性が高いとも思わない」としつつも「中国が現在取っている措置は、自らの孤立を深めるだけで、我々の誰もが望んでいない方向に事態を動かしている」と述べ、事態の緊迫化を招いているのは中国であることを暗に批判している。今年1月末には、昨年10月末の護衛艦ラッセンに続き、アーレイ・バーク級の護衛艦カーティス・ウィルバーが「航行の自由作戦」のために南シナ海に派遣されている。

 今月に入り中国のこの地域における活動が軍事的性格をますます強めるにしたがって、米国の態度も一層、硬化している。さらに今般、中国がウッディ―島に戦闘機を配備したことが確認されたことで、米国ではにわかに「なぜ今まで米国は中国の行動に影響力を行使することができていないのか」「どうすれば中国の行動に制限をかけられるのか」についての議論が活発に行われるようになってきている。

 中国がウッディ島に地対空ミサイルやレーダーサイトを配備したことが確認された直後の2月23日に米連邦議会の上院軍事委員会で17年度の国防予算について開催された公聴会では、出席したハリー・ハリス太平洋軍司令官が証言の中で「中国は南シナ海を東アジアから第2列島線にかける地域における支配を確立するための戦略的最前線とみなしている」と言い切り、「(中国が南シナ海の施設を軍事化していないと考えるのは)地球が平らだと信じているようなもの」とも発言し話題を呼んだ。

米中外相会談前に異例の公聴会

 注目すべきは、この公聴会が開催されたタイミングと、ハリス司令官の証言の内容だ。この公聴会は23日の午前中、ワシントンで、ジョン・ケリー国務長官が中国の王毅外相と会談する直前に行われた。通常、閣僚級の会談のような重要な外交行事が行われる場合、会談相手の国が関係する政策上の問題が議論される可能性があるような公聴会を開催することは、阿吽の呼吸で議会は控える。たとえ公聴会を開催したとしても、政府側から公聴会に出席する高官は、自分の発言が会談に悪い影響を与えないように一定の配慮をすることが多い。

 しかし、今回は、もともとの目的が「2017年度国防予算に関連してアジア太平洋地域の安全保障情勢について聴取すること」であったとはいえ、米中外相会談がワシントンで行われる直前に、米太平洋軍司令官と在韓米軍司令官が登場する公聴会が予定どおり開催された。しかも、公聴会を主催した上院軍事委員会の委員長は、オバマ政権の対中政策を「弱腰」と厳しく批判しているマケイン上院議員である。公聴会の席上でマケイン上院議員から中国に対して厳しい発言が行われることは十分に予想できた。

 さらに、この公聴会に出席が予定されていたハリス太平洋軍司令官も、中国に対して厳しい見方をしていることで知られており、公聴会の質疑応答の際に中国について質問されれば、彼が中国に批判的な発言をすることも十分に予想できた。ハリス司令官の証言の内容は、少なくともカーター国防長官は事前に承知していたはずで、公聴会前に「米中外相会談当日の公聴会でもあるし、少し配慮できないか」といって、暗にトーンダウンを求めることもできたはずだ。

 しかし、2月23日の公聴会では、委員である議員からも、政府側の出席者であるハリス司令官からも、中国に対する厳しい発言が出ることが十分に予測できたにもかかわらず、公聴会は予定どおり開催され、ハリス司令官の、中国に対する厳しい発言が含まれた証言も、事前に議会に提出された証言の内容から大幅に変更されることなく行われているのである。

 そして、肝心の2月23日の米中外相会談では、ケリー国務長官、王外相の両者が「協力できる幅広い問題があることを確認した」と、米中が全面対立しているわけではないことを強調する一方で、議論に最も多くの時間が割かれたのは北朝鮮問題と南シナ海問題であった。また、王毅外相は訪米中にカーター国防長官との会談を望んだが、カーター国防長官が拒否したともいわれている。

これまでにないオバマ政権の冷めた対応

 つまり、今回のオバマ政権の中国に対する対応は、これまでにないほど冷めたものだったのである。これまで民主党政権でも共和党政権でも、アメリカは基本的に中国を「アジアの大国」として扱ってきた。その根底には、「中国を大国として扱うことで、中国に大国としての自覚を促し、大局観に立った判断をしてもらう」すなわち、「中国の行動の形を作る(shape)する」ことを目指したいという期待があった。

 その理由は米中関係が抱える複雑さにある。世界経済の安定、地球温暖化問題やイランの核開発問題など、米中が協力しなければ問題解決に向かうことが難しい問題も多いが、その一方で、北朝鮮問題、台湾、人権など、考え方が全く相いれない問題も存在する。考え方が相いれない問題で全面対決すると、協力しなければいけない問題で協力できなくなってしまい、米国の国益を損なう結果となる。であれば、考えが相いれない問題でいかに、全面対決を防ぎつつ、中国の暴走を封じながら協力できる分野で協力をしていくか……これが、歴代のアメリカの政権が抱えている対中政策におけるジレンマだった。

 しかし、最近の中国は、そんな米国の期待を大きく裏切り、経済力の強さを背景に軍事力の近代化を押し進めるだけではなく、力に物を言わせて自国の主張をゴリ押しする行為を続けている。そんな中国に戸惑い、どうやれば中国の行動パターンを変えることができるのか、試行錯誤しているのが、ここ1、2年の米国の対中政策だったように思われる。昨年、習近平国家主席が訪米する直前まで、オバマ政権内でサイバー窃盗を理由に中国に対して厳しい経済制裁を科すべきかどうかが真剣に議論されていたが、あれは、アメリカのそんな試行錯誤の一つの現れだろう。

日本などにはわかりにくい対中政策

 「中国の行動を変えるには、中国が理解する方法でわからせるしかない」。これが米国の、少なくとも、国防当局がたどり着いた結論だろう。しかし、国防予算の大幅な増加が期待できない中、米国一国でできることは限られている。ガイドライン見直しに代表される日米同盟の強化に向けた努力、日米豪安全保障協力の活発化、東南アジアとの安全保障協力の推進、などはいずれも、米国が「アジア太平洋リバランス」政策の下で追求している政策だ。「地域の不安定化につながる」という中国の反発に対しては「中国の行動が、周辺諸国を米国との関係強化に向かわせているのだ」と意に介していないのも、最近、米国に顕著にみられる反応である。

 そうはいっても、軍事衝突のような極端な事態はやはり避けたいのが米国の本音で、そこは中国も同じだろう。なんといっても世界第1位と第2位の経済大国同士である。正面衝突してしまった場合、お互いの経済だけではなく、世界経済全体に与えるダメージは図り知れない。また、中国とロシアが共同歩調を取られては困る問題があるのも事実だ。よく指摘されることだが、一つの問題で全面対決してもかまわないと思いきれるほど、米中関係は単純ではない。今後も米国は日本や韓国、東南アジア諸国などにとってはわかりにくい対中政策を続けることになるだろう。そしてその傾向は、今年11月の大統領選で誰が次期大統領に選ばれても、おそらく、それほど大きくは変わらない。