中国が次なる成長戦略として野心的に進める、高速鉄道計画を中心とした「中国製インフラ」輸出が、世界各地で頓挫や延期などの混乱を引き起こしている。(上海 河崎真澄)
◆水力発電事業も中断
「建設に大幅な遅延が生じる」。米ネバダ州ラスベガスとカリフォルニア州ロサンゼルスを結ぶ高速鉄道計画(全長370キロ)で、米企業のエクスプレスウエストは6月、中国鉄道総公司が率いる中国企業連合に合弁解消を通告した。
同プロジェクトは総投資額127億ドル(約1兆3500億円)。昨年9月の習近平国家主席の訪米時に調印した、中国による初の対米鉄道輸出だ。中国側は「無責任だ」と猛反発したが、米国側はすでに新たな合弁相手を探している。
中国は、日本に競り勝つ形でインドネシアでも高速鉄道計画を受注したが、なんと建設許可も得られない手続き不備のまま1月に着工式に踏み切り、建設遅延など混乱が続く。シンガポールでは納入された都市型鉄道車両のうち、大半でヒビなど重大な欠陥が判明。ミャンマーでは水力発電事業が中断に追い込まれた。
習指導部は、中国を起点に陸路と海路で欧州までインフラ建設で結ぶ「新シルクロード(一帯一路)」構想を掲げている。需要を無視した過剰生産で積み上がった建設資材も、インフラ輸出と組み合わせれば一石二鳥で解消できる狙いだ。
昨年12月に発足した中国主導型の国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)も輸出金融を支える目的だった。だが、そもそもインフラ輸出で経験の少ない中国。にもかかわらず世界各地で一気にプロジェクトを推し進めようとしたため計画遂行はギクシャクするばかり。事業パートナーとして国際的な「信頼」を得られずにいる。
◆「国際的な信頼失墜」
さらに障害となりそうなのが、南シナ海をめぐる仲裁裁判所の裁定を、中国が「紙くず」と全面否定したことだろう。国際法を無視し、自国の主張だけを声高に叫ぶ姿勢が改めて明らかになったからだ。仮に南シナ海で一方的な軍事行動などをとれば、「国際的なビジネス相手として信頼が失墜する」(大手商社幹部)との懸念も広がっている。
中国は今年12月、世界貿易機関(WTO)加盟から15年を迎えるにあたり、通商面で有利になる「市場経済国」に認定するよう日米欧などに迫っている。だが対外トラブルの数々や国際法軽視の行動などで、「国際社会の一員として中国を扱い続けることは難しくなる」(同)のも事実だ。
国際社会にとっては、浙江省杭州で9月に開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議で、議長国の中国との距離感をどう取るかも微妙なところだ。