【北京=西見由章】中国の国慶節(建国記念日)の連休期間中、中国の元高官がチベット自治区を家族連れで「視察」したことがネット上で暴露され、「公費を使った家族旅行だ」と批判が高まっている。
 習近平指導部が反腐敗キャンペーンを進める中、引退した高級幹部の特権は手つかずのままで、市民の間には不満がくすぶる。
 今月1~6日にチベット自治区ニンティを「視察」したとされるのは2012年まで約10年間、北京市トップの市党委書記と中国共産党中央政治局員を務めた劉淇氏(73)。5日午後にネット上に掲載された視察の参加者リストには、劉氏とその妻、子供、孫ら親族10人と警護担当者、医師、秘書などの取り巻き6人の計16人の名前が記されていた。内部文書とみられる画像は翌6日、当局に削除された。
 ニンティは世界で最も深い渓谷とされるヤルザンブ大峡谷などを擁する景勝地だ。北京のメディア関係者は劉氏の視察について「彼はすでに引退しており、名義上は視察だが実際は旅行だ」と米政府系メディアのボイス・オブ・アメリカ(VOA)に語り、「李鵬元首相は劉氏よりもぜいたくな視察旅行を行っていた」と証言した。
 習指導部は12年12月、党官僚による税金浪費を戒める8項目の新規定を発表しており、劉氏の視察は規定違反との指摘もある。
 ただ中国の高級幹部は引退後も、現役時の序列や役職に応じて公費による手厚い待遇を受けている。身辺には護衛官、運転手、料理人、医師らが配置され、移動時には専用機や特別列車を利用できるとされる。
 習指導部の反腐敗キャンペーンは、こうした引退幹部の特権には切り込んでおらず、劉氏は慣習に従っただけともいえそうだ。