パルデンの会

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報道にはすべて裏がある 基地返還と新設、沖縄県知事を悩ますジレンマ


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 「北部訓練場なども苦渋の決断の最たるものだ。約4000ヘクタールが返ってくることに異議を唱えるのは、なかなか難しい」
 11月28日、沖縄県翁長雄志知事が就任2年のタイミングにあわせて行った記者会見での発言だ。この発言をめぐり、2014年の知事選以来、ずっと蜜月だった翁長知事と地元紙の関係に亀裂が走っている。

山手線の内側を上回る広さ

 まず、ざっと背景説明をしよう。北部訓練場とは、沖縄本島北部の国頭村と東村にまたがる米海兵隊の演習施設のこと。やんばると言われる本島北部の鬱蒼とした森を利用したジャングル戦闘訓練センターがあり、ベトナム戦争当時は、ここで訓練を受けた兵士が続々と戦地に送り込まれた。その面積は、7543ヘクタールに及ぶ。東京の山手線の内側の面積が約6300ヘクタールであるから、それを上回る広大さだ。
 この北部訓練場の半分以上にわたる3987ヘクタールが近く返還されることになっている。1996年に日米両政府が署名したSACO合意には、その条件が記されている。
 「ヘリコプター着陸帯を、返還される区域から北部訓練場の残余の部分に移設する」
 この着陸帯が現在、東村の高江地区で建設されているヘリパッドだ。返還後に残る3550ヘクタールの用地のなかに6カ所(1つあたり直径45メートル)、高江地区の集落を取り囲むように設置される。
 高江地区では、連日のように基地反対が抗議活動をしているが、政府は全国の都道府県警から機動隊を投入してこれを排除。年内完成を目指して急ピッチでヘリパッドの工事を進めている。12月20日には菅義偉官房長官らが出席して那覇市内で北部訓練場の返還式典が開催される見通しだ。
 これまで翁長知事は、高江のヘリパッド建設工事と北部訓練場の返還については発言を避けてきた。高江にヘリパッドが完成すれば、北部訓練場の過半が返ってくるわけである。工事に反対すれば、「じゃあ北部訓練場は返ってこなくていいのか」との批判を受けるのは必至だ。その一方で、自らの支持基盤である革新系の政党や団体は、ヘリパッドの建設に強く反対しており、同じ姿勢を鮮明に打ち出すよう圧力をかけていた。いわば板挟み状態にあった翁長知事は、ダンマリを決め込んでいたのである。
 「あらゆる手段を使って辺野古には新基地を作らせない」
 翁長知事は14年の沖縄県知事選でそう主張して当選したが、その一方でSACO合意そのものは認める立場を取ってきた。合意には、北部訓練場の他にも普天間飛行場やキャンプ桑江など県内の米軍基地を整理した上で、順次返還するメニューが並んでいる。沖縄の基地負担の軽減につながることが期待される。この合意を否定するのは、沖縄県知事として難しいだろう。 
 ただし、高江のへリパッド建設工事については、知事選の投票日のほぼ1カ月前に開いた政策発表の記者会見で、「オスプレイ撤去と(普天間の)県外移設を求める中で、高江のヘリパッドは連動して反対していくことになる」と発言。口頭ではあるが、明確に反対していた。

旗色を鮮明にしない

 SACO合意は認めるが、辺野古は認めない。そして高江も選挙前には否定したが、当選して知事になると、旗色を鮮明にしない。ここは分かり難い。そもそも彼の反基地姿勢にはどれほどの本気度があるものなのか、疑わしいと見るむきも沖縄では多い。
 そうした中での11月28日の記者会見である。翁長知事が冒頭の発言をすると、すかさず琉球新報の記者がこう突っ込んでいる。
 「知事選の公約会見では高江のヘリパッド建設に反対した。『苦渋の選択』は後退ではないのか」
 翁長知事は論点を逸らして誤魔化している。
 「オスプレイの全面撤回があればヘリパッドも運用しにくいのではないか」
 普天間飛行場に配備されているオスプレイの配備が撤回されれば、建設中の高江のヘリパッドも運用されなくなるのではないか、という意味での発言ではないかと思われる。
 翌日からたいへんである。琉球新報沖縄タイムスの二紙がそろって、1面に「知事ヘリパッド容認」との同じ見出しで、翁長知事批判を大展開。「事実上の公約撤回」と非難した。なかでも琉球新報は、識者のコメントという形式ではあったが、こうまで記している。
 「知事は前知事と同じように『いい正月』を迎えるのだろう。2013年の年末に県民が見た悪夢が再びよみがえった。これで知事は『自ら進んで米軍に基地を差し出した沖縄県知事』として歴史に刻まれることになる。知事を信じて闘ってきた人々への裏切り行為は断じて許されない」(11月29日付『琉球新報』30頁)
 仲井真弘多前知事が、辺野古の埋め立てを承認した時の経緯を引き合いに出し、それと同じだと言ってなじっているのである。
 さらに11月30日付の両紙ともに社説でこの問題を取り上げた。『琉球新報』は、SACO合意を認める知事の姿勢を非難した。
 「辺野古新基地と北部訓練場の新たなヘリパッドを連動させた北部の基地強化がSACO合意の狙いだ。欺瞞に満ちたSACO合意を批判し、辺野古新基地とヘリパッド新設に反対を政府に突き付けることが知事の取るべき態度だ」
 地元紙の激しい知事批判のトーンに慌てた知事の意を受けてであろう。沖縄県の幹部によると、11月30日になって両紙の記者と安慶田光男副知事が話し合いをしたという。「なぜあんなトーンの記事になるのか。知事は公約を違反したわけではない」
 そう言って安慶田副知事は、両紙の批判のトーンを下げようと必死だったそうだ。
なぜこのタイミングでの発言だったのか?
 なぜこのタイミングで、翁長知事があのような発言をしたのか。予算編成の時期に政府側をあまり刺激するような発言をしたくなかったのではないか、というのが、県の職員らのおおかたの見方だ。
 だが、前出の県幹部はこう懸念する。
 「批判の激しさに、知事が公に『会見での発言は誤解だった。高江には断固反対する』とアナウンスし直すようなことになれば、地元紙に屈したも同然ということになる。そうなれば、基地問題で政府との対決路線をいっそう強めていくことにもつながる」
 さしあたって焦点は、12月20日に予定されている北部訓練場の返還式典に知事が出席するかどうか。まだ明らかにされていなが、今回、地元紙に叩かれたことで、なおのこと出席しづらくなったのではないかとの声も聞こえてくる。翁長氏はどう出るのか。