12月18日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙は、「中国が米国の決意を試している」と題する社説を掲載し、中国による米国の無人潜水機奪取を非難しています。社説の論旨は次の通りです。
米海軍艦艇ボウディッチ号の見ている中で行われた米海軍の無人潜水機の中国による窃取は、多くのことを教えてくれる。中国は米国がこれを大げさに騒ぎ立てたとしつつ、週末に無人潜水機を返還することに同意したが、中国海軍の行為は意図的な挑発であった。中国は公海での航行の自由を維持する米国の決意を試している。
人民解放軍(PLA)は以前からこういう危険行為をしてきた。2001年4月、PLAは公海上で米国の偵察機を阻止しようとした。距離測定を誤り、衝突、中国のパイロットは死亡、米軍機は中国に不時着した。10日間の対決の後、中国は乗組員と機体を返還した。2009年3月、PLAは米艦インぺカブル号が曳いていた音響測定器を窃取しようとした。
中国の行動は隣国を威嚇し、東アジアでの覇権を確立する意図を示している。最近、PLAは沖縄と台湾の近くで爆撃演習を行った。日本の対中スクランブル回数は2010年の96回から2015年の571回に急増した。最近中国は、南シナ海の紛争中の岩礁に、約束に反し軍事力を展開した。
中国はこれらの基地近辺を米国の海・空軍が通過することに反対している。無人潜水機の窃盗は、トランプ政権がそういう哨戒を増やせば嫌がらせに会うとの警告かもしれない。中国はまた潜水艦艦隊を急速に拡張している。無人潜水機は潜水艦への対策に資する。
これらすべては、トランプが少なくとも当初は中国にきつい態度をとることを示す中で起こっている。トランプの目標は明確ではないが、アメリカの太平洋でのプレゼンスを強化するために米海軍を再建するとの約束は実施しそうである。中国の指導者は、これらの力の誇示がオバマと同じようにトランプを威嚇すると考えているかもしれないが、逆効果になる可能性がある。
出 典:Wall Street Journal ‘China Tests U.S. Resolve’ (December 18, 2016)
URL:http://www.wsj.com/articles/china-tests-u-s-resolve-1482086206
今回の中国による米海軍の無人潜水機奪取は、米中間の軍事衝突を引き起こしかねない事件でした。習近平の了承を得たうえで行われたものか、あるいは現場の指揮官またはその上司の独断で行われたものか、よくわかりません。中国指導部の上の方の決定でこういう国際法違反行為がなされたというのであれば、問題ですし、そうではなく軍の下のレベルでの決定で行われたというのであれば、文民統制が効いていないことを意味し、これも問題です。
中国側はすでに無人潜水機を米側に引き渡し、「道」に変なものが落ちていたので拾って調査しただけなどと言います。しかし米艦は現場で抗議したとされており、落とし物を拾ったケースではありません。
2001年の偵察機の海南島不時着のケースでは、乗組員と機体を人質にとられている中での交渉でしたが、今回はそういうことはありません。厳重に抗議し、再発防止の約束をさせるべきです。そうすることで、このような危険な行為に指導部であれ、現場であれ、乗り出すことを将来にわたって抑止することを狙うべきでしょう。
声を大にして騒ぎ立てるべき
中国の海洋での不法な主張や、今回のような9点線外での行動は、航行の自由や公海利用の自由に対する挑戦です。こういう挑戦には毅然として対抗していくことが、不測の事態の生起やそのエスカレーションの危険を防ぐために必要です。中国はサラミを切るように徐々に行動をエスカレートし、相手に小さな変化になれさせる戦術をよく用います。民主国家は気が短いところがありますし、記憶も短いですが、中国は気が長いですから、こういう戦術が有効になります。そのことに我々は注意を払うべきでしょう。
なお、ニューヨーク・タイムズ紙は、「無人潜水機の中国による奪取への静かな米国の対応はアジアの同盟国を心配させている」との論説を掲載し、米国のより強い対応が必要だと論じています。その通りです。