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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成29年(2017)7月7日(金曜日)弐
通算第5344号
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成29年(2017)7月7日(金曜日)弐
通算第5344号
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「西側文明は危機にさらされている」とトランプ大統領の「ワルシャワ演説」 「生き延びようとするなら、行動しなければならない」
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「この演説はかつてないほどに思想的である」とロシアのメディアが分析した(プラウダ英語版、7月6日)。
中欧十二ヶ国の首脳を集めてワルシャワで開催された「米・中欧サミット」で、トランプ大統領はNATOの防衛義務を果たすと明言し、西側の危機に団結して立ち向かうことを述べた。
「西側の文明はテロリズム、ハッカー、そして官僚主義の肥大化による機能不全などによって危機に直面している。生き残ろうとする意思がこれほど重大な意味を持つ時代はない」と、レトリックで飾られた演説ではなく、具体的行動を示した内容となった。
ポーランドの集会では民衆から熱烈は拍手が起きた。
ロシアのウクライナとシリアにおける軍事行動を非難し、イランの行為を批判する一方で、トランプはNATOの一層の防衛努力を訴えた。
これまで報じられてきた米露緊張緩和のムードに水を差し、明らかにロシアとは一線を画する演説内容だった。翌日に予定されたプーチン大統領との初会合への強い牽制でもある。
NATO諸国の疑念は、米国の防衛関与が低減してゆく不安、ウクライナ問題からの逃避にあり、アメリカンファーストとはNATOへの関与否定に繋がることだった。
しかしトランプはNATO条項第五条を遵守すると確約し、欧州における米軍のプレゼンスは継続されると確約した。同時にロシアとの協調路線は大幅に後退させたことを意味する。
大統領選挙中のロシアによるハッカー妨害を「ロシア一国の犯行だったという証拠はない」としてロシア糾弾を避けてきたトランプだけに、この演説は路線転換にあたると見られる。
▲ポーランド国民はトランプを熱狂的に迎えた
トランプ大統領のワルシャワ演説は、かくしてアメリカンファーストではなく、NATO諸国との共存、共同防衛の重要性を訴える結果となった。
「2018年の米国の中間選挙はプーチンに妨害させない」とも発言し、米議会指導層からも歓迎された。
トランプのワルシャワ演説はクラシスキ広場で行われ、2014年にオバマ前大統領がおこなったザムコウィ広場を避ける演出も行い、またユダヤ人団体はゲット訪問を回避しているとトランプを批判していたが、長女のイバンカが代理にホロコースト記念碑を訪れ献花した。
「欧州防衛はカネの問題ではない。自由を守るという意思の問題である」としたトランプは、NATO諸国のGDP2%の防衛負担義務を果たしていない国々への批判を展開してきた。
トランプは続けてこう述べている。
「中欧諸国はベルリンの壁が崩れてから28年を経過したがまだ経済も精神も完全に回復したとは言えないだろう。そのうえ新しい形態の戦争、ハッカー、テロリズム、危険思想の蔓延と言った見えない脅威に晒され続けている。ロシアの影響力はそればかりかエネルギー供給の面でロシア依存度が高いという脆弱性を抱えている。今後は米国からのガスへの切り替えという選択肢により資源安全保障も考慮されるべきであろう」。
ワルシャワのマリオットホテルに旅装を解いて、16時間滞在したトランプは次の訪問地ハンブルクへ向かった。
□▽◎み□◇□や□▽◎ざ□◇□き◎□◇
産経正論】香港人は共産党の敵か味方か 人民解放軍は反抗する国民を守らない
日本の自衛隊は日本国民を守る。米国軍は米国民を守る。中国の人民解放軍は誰を守るのか。
≪生き残った「民族主義国家」≫
共産主義国家には2つのタイプがあった。ソ連が占領した東欧に生まれた共産主義政権はソ連の傀儡(かいらい)政権であった。
どのような国家でも、政府は軍や警察などの強制力と国民の同意によって支えられている。
しかし、東欧の共産主義政権に国民の同意はなく、ソ連軍という強制力によって支えられていた。強制力が無くなると東欧の傀儡政権は崩壊した。他方、アジアの共産主義国家は共産党が民族主義を掲げて自力で政権を取った民族主義国家である。国民は共産党が掲げる民族主義に同意した。
世界の労働者が団結して資本主義と戦う共産主義にとって、「一民族一国家」を目指す民族主義は否定されるべき思想である。民族主義は階級闘争を否定し、労働者と資本家を分けず、他民族と自民族を区別し、自民族の利益を極大化する思想である。
それでは民族とは何か。民族は遺伝子で決まる人種とは異なり、「運命共同体」であると信じている人間の集団である。近代国家が成立すると国民が民族になった。国家は教育を通じて国民は共通の運命の下にあると教えるからである。「民族はその構成員が満場一致的にそうであると信じるがゆえに民族である」と言われる。民族の定義は曖昧だが、人間は民族を単位として戦ってきた。
≪「抗日」が国民の心をとらえた≫
民族主義的共産主義国家はどのようにして政権を取ったのか。
多くの共産主義国家では、共産党が政権を取る前、共産主義者は多数派ではなかった。ゆえに、共産主義者が選挙など民主的な方法で政権を取ることは難しかった。
国内の共産主義者対反共主義者の争いは国内の支持者の数が勝敗を決定する。国内の共産主義支持者も反共主義支持者も同じ国民であり同じ民族である。もし共産党が民族主義者に変身すれば、共産主義支持者だけではなく反共主義支持者を含む全国民(民族)の支持を期待することができる。
他方、反共主義者が民族主義者に変身することに失敗すれば、全国民(民族)の支持を得られない。従って、民族主義者に変身した共産党は変身できなかった反共主義者よりも支持者の数で優位に立ち、国民の支持を争う内戦に勝利することができた。
中国では、1920年代から30年代にかけて中国共産党が反共主義者の国民党と政権を争ったが、34年には国民党の攻撃によって共産党は豊かな沿岸部の根拠地を失い、不毛の内陸部へ撤退した。共産党軍の兵力は10分の1に減少した。ところが、37年に日中戦争が始まると、沿岸部に侵攻した日本軍の攻撃によって国民党は大きな打撃を受けた。国民党の攻撃で崩壊の危機に瀕(ひん)していた共産党にとって、日本軍の侵攻は起死回生のチャンスだった。
沿岸部で日本軍と戦っていた国民党は、強力な日本軍との戦いを避け「安内攘外(じょうがい)」(まず国内の共産党を平定し、その後で外敵の日本軍を打倒する)を主張した。しかし、日本軍に負け続ける国民党の評判は悪かった。
他方、沿岸部で戦う日本軍の手が届かない内陸部にいた毛沢東は、日本軍との戦いを声高に叫び民族主義(抗日民族統一戦線)を主張して、外国の侵略に反発する中国人の心をとらえた。ただし、日中戦争における約2800回の戦闘のうち、共産党軍が参戦したのは8回だけだった。日本軍は米軍に敗れ日中戦争は終わった。
日本軍の侵略によって覚醒した中国人の民族主義が、共産主義ではなく民族主義を唱えた中国共産党を、日中戦争後の国共内戦で政権の座に押し上げたのである。まさに毛沢東が述べたように「日本軍の侵略は中国革命の母」(『毛沢東思想万歳』)であった。
≪拡大するイデオロギー的矛盾≫
現在の中国共産党政権にとって民族主義と経済発展が正統性の根拠である。しかし、経済発展は不安定になりつつあり、共産党が自信を持って頼れる正統性は民族主義である。ところが、共産主義は理論的に民族主義を否定する。中国共産党はそのイデオロギーに深刻な矛盾を抱えている。
例えば、共産党政権を支える大黒柱である軍隊を見ると、共産主義を目指した内戦時代は労働者と農民を守る「工農紅軍」であり、中国人の資本家や地主は敵であった。民族主義を掲げた日中戦争の時代には国民を守る「国民革命軍」になり、現在は「人民解放軍」である。数百人以上の国民が死亡した天安門事件(89年)で人民解放軍が発砲した国民は人民の敵である。共産党に反発する香港人は「人民内部の矛盾」ではなく打倒すべき「敵対的矛盾」である。人民解放軍は共産党を支持する人民を守るが、反抗する国民(民族)を守らない。
中国共産党が民族主義を高く掲げれば掲げるほど、共産党のイデオロギー的矛盾は拡大していくことになる。(東京国際大学教授・村井友秀 むらいともひで)
『台湾の声』 http://www.emaga.com/info/3407.html より転載
≪生き残った「民族主義国家」≫
共産主義国家には2つのタイプがあった。ソ連が占領した東欧に生まれた共産主義政権はソ連の傀儡(かいらい)政権であった。
どのような国家でも、政府は軍や警察などの強制力と国民の同意によって支えられている。
しかし、東欧の共産主義政権に国民の同意はなく、ソ連軍という強制力によって支えられていた。強制力が無くなると東欧の傀儡政権は崩壊した。他方、アジアの共産主義国家は共産党が民族主義を掲げて自力で政権を取った民族主義国家である。国民は共産党が掲げる民族主義に同意した。
世界の労働者が団結して資本主義と戦う共産主義にとって、「一民族一国家」を目指す民族主義は否定されるべき思想である。民族主義は階級闘争を否定し、労働者と資本家を分けず、他民族と自民族を区別し、自民族の利益を極大化する思想である。
それでは民族とは何か。民族は遺伝子で決まる人種とは異なり、「運命共同体」であると信じている人間の集団である。近代国家が成立すると国民が民族になった。国家は教育を通じて国民は共通の運命の下にあると教えるからである。「民族はその構成員が満場一致的にそうであると信じるがゆえに民族である」と言われる。民族の定義は曖昧だが、人間は民族を単位として戦ってきた。
≪「抗日」が国民の心をとらえた≫
民族主義的共産主義国家はどのようにして政権を取ったのか。
多くの共産主義国家では、共産党が政権を取る前、共産主義者は多数派ではなかった。ゆえに、共産主義者が選挙など民主的な方法で政権を取ることは難しかった。
国内の共産主義者対反共主義者の争いは国内の支持者の数が勝敗を決定する。国内の共産主義支持者も反共主義支持者も同じ国民であり同じ民族である。もし共産党が民族主義者に変身すれば、共産主義支持者だけではなく反共主義支持者を含む全国民(民族)の支持を期待することができる。
他方、反共主義者が民族主義者に変身することに失敗すれば、全国民(民族)の支持を得られない。従って、民族主義者に変身した共産党は変身できなかった反共主義者よりも支持者の数で優位に立ち、国民の支持を争う内戦に勝利することができた。
中国では、1920年代から30年代にかけて中国共産党が反共主義者の国民党と政権を争ったが、34年には国民党の攻撃によって共産党は豊かな沿岸部の根拠地を失い、不毛の内陸部へ撤退した。共産党軍の兵力は10分の1に減少した。ところが、37年に日中戦争が始まると、沿岸部に侵攻した日本軍の攻撃によって国民党は大きな打撃を受けた。国民党の攻撃で崩壊の危機に瀕(ひん)していた共産党にとって、日本軍の侵攻は起死回生のチャンスだった。
沿岸部で日本軍と戦っていた国民党は、強力な日本軍との戦いを避け「安内攘外(じょうがい)」(まず国内の共産党を平定し、その後で外敵の日本軍を打倒する)を主張した。しかし、日本軍に負け続ける国民党の評判は悪かった。
他方、沿岸部で戦う日本軍の手が届かない内陸部にいた毛沢東は、日本軍との戦いを声高に叫び民族主義(抗日民族統一戦線)を主張して、外国の侵略に反発する中国人の心をとらえた。ただし、日中戦争における約2800回の戦闘のうち、共産党軍が参戦したのは8回だけだった。日本軍は米軍に敗れ日中戦争は終わった。
日本軍の侵略によって覚醒した中国人の民族主義が、共産主義ではなく民族主義を唱えた中国共産党を、日中戦争後の国共内戦で政権の座に押し上げたのである。まさに毛沢東が述べたように「日本軍の侵略は中国革命の母」(『毛沢東思想万歳』)であった。
≪拡大するイデオロギー的矛盾≫
現在の中国共産党政権にとって民族主義と経済発展が正統性の根拠である。しかし、経済発展は不安定になりつつあり、共産党が自信を持って頼れる正統性は民族主義である。ところが、共産主義は理論的に民族主義を否定する。中国共産党はそのイデオロギーに深刻な矛盾を抱えている。
例えば、共産党政権を支える大黒柱である軍隊を見ると、共産主義を目指した内戦時代は労働者と農民を守る「工農紅軍」であり、中国人の資本家や地主は敵であった。民族主義を掲げた日中戦争の時代には国民を守る「国民革命軍」になり、現在は「人民解放軍」である。数百人以上の国民が死亡した天安門事件(89年)で人民解放軍が発砲した国民は人民の敵である。共産党に反発する香港人は「人民内部の矛盾」ではなく打倒すべき「敵対的矛盾」である。人民解放軍は共産党を支持する人民を守るが、反抗する国民(民族)を守らない。
中国共産党が民族主義を高く掲げれば掲げるほど、共産党のイデオロギー的矛盾は拡大していくことになる。(東京国際大学教授・村井友秀 むらいともひで)
『台湾の声』 http://www.emaga.com/info/3407.html より転載