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西日本新聞朝刊 チベット、抑圧との戦い 「太陽」覆われ民族分断 監視密告、身を焼き抗議 チベット族自治州ルポ




チベット、抑圧との戦い 「太陽」覆われ民族分断 監視密告、身を焼き抗議 チベット族自治州ルポ

2018年03月04日06時00分

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布で覆われた写真。近くにいた僧侶は「ダライ・ラマ法王の写真だ」と語った=青海省写真を見る  左は パンチェンラマの写真
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青海省チベット寺院には、お堂にダライ・ラマ14世の写真を飾っているところもある。警察に見つからないよう常に注意を払っているという写真を見る
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金色の仏像がろうそくの明かりに揺れる。2月初め、中国青海省にあるチベット寺院。荘厳なお堂の片隅に、その写真はひっそりと掲げられていた。隣にある高僧の写真より大きいにもかかわらず、布で覆われ中身が分からない。もしやと思い近くの僧侶に尋ねると、小さくうなずいた。「そうです。ダライ・ラマ法王の写真です」
チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世(82)はチベット族にとって「太陽のような存在」とされる。しかし、中国政府はチベットの独立を目指す「悪魔」と敵視。肖像写真は公共の場だけでなく、自宅に飾ることさえ許されない。「見つかったら拘束される。それでもみんなが祈る場を守りたい」。僧侶は小声で思いを語った。
チベット自治区ラサでは2008年3月、宗教の自由を求める僧侶や住民による大規模な暴動が発生。危機感を募らせた中国政府はチベット族の愛国教育を徹底し、監視を強めてきた。あれから10年。「新時代の社会主義」を掲げ、中華民族の復興を目指す習近平指導部にあらがうように、チベット族の宗教と文化を守る戦いは今も続く。
民族衣装や工芸品が並ぶ寺院近くの土産物店。ダライ・ラマの写真がないか尋ねても、店員は「ない」と素っ気なかった。しかし、こちらが漢族でないと分かると奥から数枚を取り出した。1枚15元(約250円)。1日5、6枚は売れるという。「いくら政府でも、私たちの“太陽”までは奪えない」。 ダライ・ラマを意味する隠語を使いながら店員が語気を強めた。
 
写真には若い僧侶が写っていた。小豆色の法衣をまとい、ノートパソコンをのぞき込んでいる。その表情は穏やかにも、思い詰めているようにも見える。

「これは焼身抗議をする数日前に撮ったものだ」。中国青海省黄南チベット族自治州。土ぼこりの舞う山あいの集落で、僧侶を幼い頃から知るというチベット族の男性が語りだした。
僧侶はジャミヤン・ロセルさん。昨年5月下旬、チベット族に対する中国当局の圧政に抗議し、路上でガソリンをかぶって自らに火を放った。直前に殺鼠(さっそ)剤とガソリンを飲み、決死の覚悟で臨んだ行動だった。焼身抗議に身を投じたチベット族は2009年から数えて150人超。大半は10~20代で、ジャミヤン・ロセルさんも25歳だった。
一報を受けた男性は、その1年前の出来事を思い出したという。過去の焼身抗議の動画を自らの交流サイトに掲載したとして、ジャミヤン・ロセルさんが警察に連行されたのだ。約1週間で釈放されたが、「いつか自分も、と考えていたに違いない。気持ちに気付いてやれず本当に悔しい」。男性は絞り出すように言葉をつないだ。
「7、8歳の頃に出家して修行一筋。とにかく真面目な性格だった」というジャミヤン・ロセルさん。何が焼身抗議の引き金になったのかは分からないが、「炎に包まれても訴えたい気持ちは、チベット族なら誰にでもある」と男性は話す。自治州には漢族が大量に流入し、漢字の看板があふれる。学校ではチベット語の授業が制限された。言葉や文化が失われていく現状に危機感は強い。
再三の申し出にもかかわらず、ジャミヤン・ロセルさんの遺体は遺族の元には戻ってこなかった。発生直後に警察が立ち入りを規制したため、焼身抗議の動画や写真も残っていない。「まるで何もなかったかのようだ」。男性の言葉にやるせなさがにじんだ。
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2期目に入った習近平指導部は汚職撲滅を目指す「反腐敗運動」に続き、犯罪組織の取り締まりキャンペーン「掃黒除悪」を打ち出している。チベット自治区ではダライ・ラマ14世とのつながりや、寺院を拠点とする活動も対象となった。キャンペーンに乗じて少数民族への抑圧は続く。
青海省は昨夏、チベット寺院への抜き打ち検査を実施。ある寺院は深夜に訪れた警察官にダライ・ラマの写真を見つけられ、お堂の中に複数の監視カメラを設置されたという。
海外メディアへの監視も厳しい。青海省での取材中、黒塗りの車が後ろから付けてくるのに気付いた。チベット寺院では観光客を装った男性がそばから離れず、時折こちらにカメラを向けてきた。「外事弁公室」という外国人に応対する地元機関の役人たちだ。
チベット族の中にも当局と通じている“スパイ”がいる。焼身者の親族や関係者に近づく者がいないか、常に見張っている」。チベット族の知人が教えてくれた。ジャミヤン・ロセルさんの関係者を探し回った時に通報されたようだ。
「よほど親しくないと親族の間でもダライ・ラマの話はできない。疑心暗鬼が広がり、チベット族の社会はズタズタになっている」。知人が深いため息を漏らした。 (黄南チベット族自治州・川原田健雄)
 
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5日に開幕する全国人民代表大会全人代=国会)で習氏は国家主席に再選出され、2期目を本格的にスタートさせる。「中国の特色ある社会主義は新時代に入った」と宣言した習氏は中国をどこに導くのか、随時検証する。
=2018/03/04付 西日本新聞朝刊=
 

貼り付け元  <https://www.nishinippon.co.jp/nnp/world/article/398630/>