勝谷氏が入院中で中々動けないところで
支援の 識者たちが記事を書いています。
勝谷誠彦たちの××な日々。
勝谷氏の有料ブログより転載
|
|
|
おはようございます。ヨロンです。
昨日は真冬並みの寒さだったところが多かったようで、東京も寒かったので冬のコートを引っ張り出してきてしまいました。
ゴーン逮捕劇は落ち着く気配はないものの、全体像が見えなくなってきていたので、アゴラ編集長の新田さんに書き下ろしをお願いしました。立場によっても見え方が異なるであろうこの問題の報道を分析するのは難しかったと思いますが、メディア横断という新田さんならではの解説をしてもらえました。
----- :----- : ----- :
「カルロス・ゴーン逮捕劇に見えた新聞各社の残存体力」
勝谷日記の読者の皆様、こんにちは。
アゴラ編集長の新田哲史です。今週は、読売新聞グループ本社、渡辺恒雄会長の死亡説騒動の裏話でも書こうかと思っていた矢先、日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者逮捕というド級のニュースが飛び込んできました。その昔、大事件で新聞が飛ぶように売れたのと同じ構図はネット時代も同じ。アゴラも連日、アクセス数が増加しております。
ただ、正直なところ、アゴラは近年、私を含め政治系の書き手を中心に運営してきたため、経済事件に関しては、特捜関係者、日産関係者などから一次情報をすぐに取れる執筆者がレギュラーでは出入りしていません。そうなるとオピニオン主体での運営にならざるを得ないわけですが、新聞やテレビが書かない視点はどこか、それを模索しつつ、どんな形にせよ、編集責任者として基本作業は、まず本質を外さない情報収集になってきます。
その一つが新聞など報道内容の分析です。新聞やテレビは、最前線で激しい取材競争を繰り広げながらも、お互いのことを直接は論評しません。だからこそ「書き甲斐」が出てきますし、一線の記者たちから離れているからこそ見えてくる構図もあります。
<歴史的特ダネを逃した朝日。底力の読売&日経、苦しい台所の毎日&産経…>
今回の事件、19日夕方の一報は朝日新聞の号外でした。と言ってもスマホニュースに通知される電子版からでした。朝日の取材は確かに先行していました。各社で唯一、羽田に到着したゴーン容疑者の専用機に任意同行を求める特捜部職員たちが入っていく様子をスチールと動画で捕捉。電子版で配信もしました。
しかし、これは現場の朝日記者たちにとっては複雑な心境でしょう。というのも、立派な独自スクープだけに、これまでの新聞社の常識であれば、翌日の紙面まで取っておいたはずです。それを当夜のうちに惜しみなく放出するあたり、他社がいなかったという独占的な一次情報であることへの自信があったからこそですが、もう一つは紙媒体といえども、最近は週刊文春が特ダネ予告をオンラインでやるように、デジタル化の流れが進展してきたと言えます。
本来なら朝日の記者たちはその日の夕刊一面で、「ゴーン会長、逮捕へ」と勝負をかけたかったでしょう。実現していれば歴史的な大スクープとなり得ましたが、これが実現しなかったのは、ゴーン氏の身柄拘束の動きが予想より早まったのか、逮捕するか確信が取れなかったか、あるいは特捜部首脳に特ダネを書くことを通告したら「フライングしたら出入り禁止」などと警告されて二の足を踏むうちに事態が動いたか……今は憶測するしかありませんが、朝日がなぜ事前に情報を収集し、体制を組んで空港にまで人を配置しながら夕刊で勝負できなかったのか、非常に興味があります。いずれにせよ、現場記者は大魚を逃しました。
そして翌日の各紙朝刊。紙面では初報になりますから逮捕容疑の本記があり、前夜に日産本社で行われた西川広人社長の記者会見の模様など、ある意味、ネットニュースでも公知だった情報が改めて掲載されています。
しかし、その中で新たに大きなニュースがあったのは、「司法取引」が適用されていたことです。周知の通り、ゴーン容疑者らの不正を直接担った役員らが捜査協力する見返りに刑事処分を減免することで、一気に捜査が進展したことが明らかになるわけです。大ニュースの喧騒に紛れ、一般読者は気づきませんが、各紙を見比べると、司法取引を書いたのは全国紙5紙のうち、朝日、読売、日経だけ。毎日と産経は落としています。
まず、ここから分かるのは、特捜部の逮捕事実の記者会見では、もちろん明らかにされていない「非公式」情報だということです。同時に、今回の件で特捜部への食い込みぶりが朝日、読売、日経の3社と毎日、産経の2社で開きがあるとわかります。さらに「勝ち組」の3社でも記事の質の差が浮かびます。
朝日は2面の「時事刻々」で司法取引について解説。刑事訴訟法の大学教授のコメントも詳しく載せています。大学の先生からの話を引き出すには記者がそれだけ事前に準備し、緊急事態でなければアポを取り大学の研究室などで話を聞いたり、あるいは電話取材であっても常識的な時間にやることが多いと考えると、朝日はやはり司法取引で捜査が動いていたことを相当早くからキャッチしていた可能性を感じます。
ライバルの読売は、大学教授のコメントは載っておらず、1面本記記事の第2段落とサブの見出しで触れるにとどまりました。持ち前の司法取材の底力を発揮して、司法取引をした事実だけはなんとか掴んで紙面に突っ込んだ印象です。
一方、日経は、司法取引については3面の記事で「司法取引適用か」と小さな見出しで断言するまでには至らず。裏を取りきれなかったのでしょう。ただ、2人の大学教授に逮捕容疑となった金融商品取引法(金商法)に詳しい大学教授や、元検事の弁護士の見解は抑えており、当初、ネットで取りざたされた「金商法は入り口で、特別背任容疑が本丸」という疑問に答えるように、特別背任容疑の適用がこのケースで難しい可能性に言及。この辺りは「理論派」の日経らしく法的な解説はそれなりに充実しています。
朝日に捜査情報の取材で出遅れた日経ですが、そこは企業取材の太いパイプを有する強みがあります。「飛び道具」とばかりに日産本社の情報源を抑えてきました。特捜部幹部がこの時点では、朝日の記者にも明らかにしていない、ゴーン容疑者の「私的流用」の中身について各社で唯一言及。日産の内部調査の概要を掴み、海外子会社を通じて、外国に高級住宅を購入していたことをどこよりも早く書いていました。本筋で先行した朝日もこれは20日の夕刊で追いかけざるを得ませんでした。
特捜部に強い朝日がリードし、同じく特捜取材で負けない読売が食らいつく。日経は企業取材の強みで巻き返し、ネタによってはリードするという展開。特捜事件や警察の捜査二課事件(贈収賄・知能犯など)取材レースは、初動でほぼ決まることを考えると、今回の事件はこのまま朝日と日経がリードし、たまに読売が捜査情報でやり返す構図でいきそうな予感です。
一方、「負け組」の毎日、産経。これは取材レースで後れを取っただけでなく、背景に新聞社の経営体力の差がいよいよ表面化してきた表れのように思います。この日記の読者にも両社の関係者がいるはずなので大変恐縮ですが、事実として認めざるを得ないと思います。
毎日については私が新聞社に在籍していた2010年ごろの時点で、すでにハイヤーを使った夜回り取材の回数を、経費節減で減らす動きがあったと聞きました。今は当時よりも経営状態は厳しいはず。おそらく現場記者は取材に行きたくても行けない、取材記者の数でも劣るなど、厳しい現実に直面してものすごく悔しい思いをしているに違いありません。
そういえば産経新聞を巡っては、FACTAが今月発売の12月号で「2020年10月をめどに、販売網を首都圏と関西圏などに限定、縮小する方針を固めた」と報じて、マスコミ関係者に「いよいよそのときが来たか」と衝撃が走ったばかりです。
「全国紙」の看板下ろす産経
毎日、産経の記者たちには一矢報いる特ダネを期待したいところですが、そもそも経営的な視点で見れば、体制で大きく上回る勝ち組3社と同じやり方で戦いを挑むこと自体が無謀ともいえます。調査報道の充実化など、経営側が取材体制を大胆に改革するきっかけにむしろ繋げて、生き残ることの方が大事ではないでしょうか。
<特捜部、日産…紙面を使ったポジショントークに気をつけろ>
そして、こうした報道分析や報道論評をしておくことは、もう一つ重要な意義があります。今回のような特捜部による事件は、検察主導のリークによる世論操作が横行し、ある種の情報戦になりがちだけに、リーク元の思惑を視野に入れる読み解きをするための視点を得る必要があります。
リークの実態ですが、これは経験に基づくものです。社会部記者を1年余りの短い期間だけ務めましたが、たまたま配属初日に村上ファンド事件の取材班に加わる機会がありました。そしてその時、報道機関が「世論操作」される側に回るリスクも実感しました。
私は村上氏と付き合いのあった経営者、投資家らの取材担当だったのですが、のちに村上氏が公判でインサイダー取引の無罪を主張し、一部、無罪説を書いた記者がいたように立件はセンシティブなところもありました。証券会社に勤務経験のある新興企業幹部が村上氏有罪ありきで進む世論に懐疑的な意見をし、それを取材メモにして報告しても、私の取材内容は全く紙面化されることはありません。
まあ、下っ端記者が聞いてきた「異論」など所詮そんなものなんですが(苦笑)、特捜部担当の先輩記者が夜回りで取材した本筋の話をベースに連日紙面が埋まっていく現実を目の当たりにしながら、「推定無罪」などというのは建前に過ぎず、取材先の捜査機関とある種、一体的にならざるを得ない記者クラブというシステムが一方的に世論を形成していく怖さを感じた次第です。
さらに今回の事件は、特捜部によるポジショントークもあるでしょうが、ゴーン容疑者が日産とルノーの経営統合に本腰を入れ始めたとされる矢先での出来事ですから、経営統合に反対する日産社内の反ゴーン一派による思惑も報道に絡んでくる複雑な様相を呈するでしょう。日産、ルノー、三菱の三社アライアンスというグローバル経営の自動車会社が舞台の事件ですから、当然、外電にも目を向けなければいけません。
実際、英フィナンシャルタイムス(FT)が日本時間の21日午前、ゴーン容疑者が日産、ルノーの経営統合を計画していたと断定する記事を配信し、それまで微妙に経営統合説を明言しなかった日本国内のメディアも一気にシフトしようとしています。
日産・ルノー統合を計画していたゴーン氏:FT
(日経掲載の日本語版、リンク先は有料会員のみ)
情報戦の最前線にいる記者は、目の前の「エサ」に本能的に飛びつかざるを得ない部分もあります。そういうとき、長年の経験や豊かな見識で今回の実相を分析、あるいは精度の高い推理ができる専門家やフリージャーナリストの発信を見逃せません。ネットメディアはその舞台でもあります。
朝日新聞の元記者で、自動車業界に詳しい井上久男さんは「第一人者」です。著書『自動車会社が消える日』(文春文庫)は、自動運転など自動車業界を取り巻く一大革命の荒波に直面する業界の状況を深く掘り下げて伝えたオススメです。ゴーン容疑者逮捕の翌朝、現代ビジネスで掲載された井上氏のコラムは、それを読んだ日産の関係者が「この記事がもっとも実相に迫っている」と感想を漏らしたと私も知人経由で仄聞しています。
(現代ビジネス)ゴーン追放はクーデターか…日産内で囁かれる「逮捕の深層」
カルロス・ゴーン逮捕は攘夷派の反撃か !?(特別寄稿)
http://agora-web.jp/archives/2035812.html ;
新田哲史(にったてつじ)
1975年生まれ。読売新聞記者(運動部、社会部等)、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に「朝日新聞がなくなる日-“反権力ごっこ"とフェイクニュース」(共著、ワニブックス)、「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」(ワニブックス)、「ネットで人生棒に振りかけた!」(アスペクト)。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
(c)2018世論社、All Rights Reserved.
問合せ(メールの未着など):info@katsuyamasahiko.jp
情報提供・感想:stealth@katsuyamasahiko.jp
発行:株式会社 世論社
ゴーン逮捕の真実が隠されているかもしれない「3つの謎」
ゴーンはなぜ逮捕されたか?
わかりづらい3つの謎を解きほぐす
一方で、捜査が進んでいることから、日産の西川廣人社長は「お話しできることには限界がある」と語っており、記者会見で公表した以上の情報はなかなか入ってきません。ゴーン会長とグレッグ・ケリー代表取締役については10日間の拘留が決定し、これから不正の詳細が解明されていくことと思われます。
そこで、次の3つの謎が浮かび上がります。
(1)結局、何が問題だったのか
(2)なぜゴーン会長は内部告発されたのか
(3)これから何が起きるのか
これらの謎について、判明している情報を中心に今回の事件の謎を紐解いてみたいと思います。
まず最初に、「何が問題だったのか」ということから解明していきましょう。
その中で今回の逮捕における直接の容疑は、有価証券報告書への虚偽記載でした。2011年3月期から2015年3月期までの5年間、投資家に公開される有価証券報告書において、ゴーン会長の報酬は49億8700万円だと情報公開されていたのが、実際は99億9800万円を受け取っていたというのです。上場企業は投資家に向けて正しい情報を開示する義務があるにもかかわらず、あたかも実際は受け取っている報酬が少ないかのごとく虚偽情報を記載したことが、金融商品取引法違反になるということです。
重大な不正でもトップ逮捕が
なかった東芝との違いとは
しかし、なぜこの違反がここまでの大問題になるのかという、少し謎に感じる素朴な疑問が出てきます。違反したこと自体は法律違反なので逮捕は仕方ないという言い方はできますが、近年の例で言えば、東芝のように大規模な不正会計を行った大企業ですら、現役トップが突然逮捕されるという事態は起きていません。
東芝の場合は本当は儲かっていなかったにもかかわらず、あたかも儲かっていたかのごとく決算数字を操作したことで、投資家に巨額の損害を与えました。しかしゴーン氏の直接の逮捕容疑である役員報酬の不記載は、それ自体がもし現在開示されている情報通りなら、日産の業績に影響を与えないかもしれません。
毎年約10億円だと公表していたゴーン会長の報酬が虚偽であり、実際は約20億円だったということですが、それは経費として計上されているのであれば、日産の決算数字は大きくは変わらないことになります。法律に違反しているが、その社会的影響は軽微だというのに、なぜここまで大々的に問題になっているかというと、まだ逮捕の理由にはなっていない残りの2つの不正が関係しているかもしれません。
1つは、投資資金の私的流用です。報道によれば、日産が投資の目的でオランダに60億円かけて設立した会社が実際は投資活動を行っておらず、この会社を通じてゴーン会長用にブラジルとレバノンに邸宅を購入し、合計で20億円規模の費用を負担しながら、無償で利用させていたといいます。
これが、記載されなかった約50億円の報酬の一部なのかそうではないのかは、今の情報ではわかりませんが、行った行為自体は大問題です。なぜなら、経営陣に対してベンチャー企業に投資をするという説明で設立した60億円の投資会社が、一切投資を行っていなかったわけです。もし経営陣がコネクテッドカーや自動運転技術、シェアサービスなどの分野に60億円分の投資がなされていると信じていて、その投資の成果による将来の成長をあてにしていたとしたら、日産の未来にマイナスの影響を与えることになるからです。
また、会社経費の不正支出として、家族旅行などの数千万円の私的経費を日産に肩代わりさせたという話があります。こちらも刑法上は、業務上横領ということになります。
日産「V字回復」の時代なら
巨額報酬も違和感はないが……
このあたりの情報から、2番目の謎を解明する手がかりが浮かび上がってきます。「なぜゴーン会長は内部告発されたのか」ということですが、会社の私物化が他の日本人経営陣にとって、我慢のならないところまで来ていたということでしょう。
報道によれば、不記載の形で隠された約50億円のうち40億円は、SAR(株価連動型報酬)の部分だったと言います。日産の場合、役員に付与する各期のSARの上限は株主総会に諮られるものの、実際の支払額は取締役会に一任され、その配分ルールはゴーン会長が決めることになっていたそうです。
有価証券報告書に記載されている5年間にゴーン会長に支払われたSARの金額はゼロと記載されている一方で、他の役員のSARの報酬額を足し合わせると合計は3億1900万円になります。実際は40億円がSARとして支払われていたという報道通りならば、役員に対する成果報酬の9割以上はゴーン会長が独り占めしていたということになります。
ゴーン会長は2000年代に瀕死の状態の日産をV字回復させたことから、カリスマ経営者と呼ばれました。その当時の彼の実績に関して言えば、彼が成果報酬の9割を受け取ると聞いても、私はおかしいとは思いません。しかし、2010年代の日産はすでに危機が終わり、役割分担をした経営陣たちの働きで業績が上向いていました。
にもかかわらず、たとえば西川社長の成果報酬は5年間で1億円ちょっと、それに対してゴーンCEOの成果報酬が40億円というのは、これはゴーン会長が決めたとしても、あまりに自分に貪欲すぎる配分結果だと思います。日本人役員の働きを馬鹿にしているとしか思えません。
おそらく日産の社内にも、私と同じようにこの配分比率の不公平を感じ取った人間が多数いたのでしょう。ましてやそれでは足らず、家族旅行に数千万円費やしてこれを会社持ちにするというのですから、内部告発が起きるのは仕方がないと思います。まさに「身から出た錆」ということになります。
本丸は日産の存続を
巡る戦いかもしれない
では、3番目の謎として、日産はこれからどうなるのでしょうか。老害という言葉がありますが、ゴーン会長も20年経って日産を食い物にする「老害」になっていたということです。今回の逮捕とそれに続く解任劇で、その問題自体は除去されることになるでしょう。しかし、もう1つ大きな問題が提起されています。
それは日産とルノーの合併問題です。長らくフランス政府は、日産をルノーの完全子会社にすべきだという主張をしてきました。これまでの報道では、それにゴーン会長が反対しているという構図が伝わっていました。しかし実際には、ゴーン会長が日産をルノーと合併させる方向で最終調整に動いていたというのです。
それがおそらく、今回の逮捕と解任劇で簡単ではなくなりました。だとすれば、将来、今回の事件を振り返れば、本丸はゴーンCEOの不正問題ではなくて日産という企業の存続を巡る戦いだった、ということになるのではないでしょうか。