日産自動車、ゴーン逮捕の真実が隠れる「3つの謎」日産自動車カルロス・ゴーン会長逮捕は、世間に衝撃を与えた。カリスマ経営者はなぜ転落したのか。報道からは、事件の真相をわからなくさせる「3つの謎」が浮かび上がってくる 写真:ユニフォトプレス

ゴーンはなぜ逮捕されたか?
わかりづらい3つの謎を解きほぐす

 2018年11月19日夜、日産自動車カルロス・ゴーン会長が東京地検特捜部に逮捕されました。大企業の現役トップで、しかもカリスマと言われた経営者の逮捕は異例の事態です。
 日産自動車によれば、これまで数ヵ月にわたる内部調査を行い、不正を確認してきたということです。今年6月に導入された司法取引制度のもとで、東京地検に協力をしているそうです。
 一方で、捜査が進んでいることから、日産の西川廣人社長は「お話しできることには限界がある」と語っており、記者会見で公表した以上の情報はなかなか入ってきません。ゴーン会長とグレッグ・ケリー代表取締役については10日間の拘留が決定し、これから不正の詳細が解明されていくことと思われます。
 そこで、次の3つの謎が浮かび上がります。
(1)結局、何が問題だったのか
(2)なぜゴーン会長は内部告発されたのか
(3)これから何が起きるのか
 これらの謎について、判明している情報を中心に今回の事件の謎を紐解いてみたいと思います。
 まず最初に、「何が問題だったのか」ということから解明していきましょう。
 日産自動車によれば、ゴーン会長については内部調査を通じて3つの問題が浮かび上がったといいます。それは有価証券報告書への虚偽記載、投資資金の私的流用、会社経費の不正支出です。
 その中で今回の逮捕における直接の容疑は、有価証券報告書への虚偽記載でした。2011年3月期から2015年3月期までの5年間、投資家に公開される有価証券報告書において、ゴーン会長の報酬は49億8700万円だと情報公開されていたのが、実際は99億9800万円を受け取っていたというのです。上場企業は投資家に向けて正しい情報を開示する義務があるにもかかわらず、あたかも実際は受け取っている報酬が少ないかのごとく虚偽情報を記載したことが、金融商品取引法違反になるということです。

重大な不正でもトップ逮捕が
なかった東芝との違いとは

 しかし、なぜこの違反がここまでの大問題になるのかという、少し謎に感じる素朴な疑問が出てきます。違反したこと自体は法律違反なので逮捕は仕方ないという言い方はできますが、近年の例で言えば、東芝のように大規模な不正会計を行った大企業ですら、現役トップが突然逮捕されるという事態は起きていません。
 東芝の場合は本当は儲かっていなかったにもかかわらず、あたかも儲かっていたかのごとく決算数字を操作したことで、投資家に巨額の損害を与えました。しかしゴーン氏の直接の逮捕容疑である役員報酬の不記載は、それ自体がもし現在開示されている情報通りなら、日産の業績に影響を与えないかもしれません。
 毎年約10億円だと公表していたゴーン会長の報酬が虚偽であり、実際は約20億円だったということですが、それは経費として計上されているのであれば、日産の決算数字は大きくは変わらないことになります。法律に違反しているが、その社会的影響は軽微だというのに、なぜここまで大々的に問題になっているかというと、まだ逮捕の理由にはなっていない残りの2つの不正が関係しているかもしれません。
 1つは、投資資金の私的流用です。報道によれば、日産が投資の目的でオランダに60億円かけて設立した会社が実際は投資活動を行っておらず、この会社を通じてゴーン会長用にブラジルとレバノンに邸宅を購入し、合計で20億円規模の費用を負担しながら、無償で利用させていたといいます。
 これが、記載されなかった約50億円の報酬の一部なのかそうではないのかは、今の情報ではわかりませんが、行った行為自体は大問題です。なぜなら、経営陣に対してベンチャー企業に投資をするという説明で設立した60億円の投資会社が、一切投資を行っていなかったわけです。もし経営陣がコネクテッドカーや自動運転技術、シェアサービスなどの分野に60億円分の投資がなされていると信じていて、その投資の成果による将来の成長をあてにしていたとしたら、日産の未来にマイナスの影響を与えることになるからです。
 また、会社経費の不正支出として、家族旅行などの数千万円の私的経費を日産に肩代わりさせたという話があります。こちらも刑法上は、業務上横領ということになります。

日産「V字回復」の時代なら
巨額報酬も違和感はないが……

 このあたりの情報から、2番目の謎を解明する手がかりが浮かび上がってきます。「なぜゴーン会長は内部告発されたのか」ということですが、会社の私物化が他の日本人経営陣にとって、我慢のならないところまで来ていたということでしょう。
 報道によれば、不記載の形で隠された約50億円のうち40億円は、SAR(株価連動型報酬)の部分だったと言います。日産の場合、役員に付与する各期のSARの上限は株主総会に諮られるものの、実際の支払額は取締役会に一任され、その配分ルールはゴーン会長が決めることになっていたそうです。
 有価証券報告書に記載されている5年間にゴーン会長に支払われたSARの金額はゼロと記載されている一方で、他の役員のSARの報酬額を足し合わせると合計は3億1900万円になります。実際は40億円がSARとして支払われていたという報道通りならば、役員に対する成果報酬の9割以上はゴーン会長が独り占めしていたということになります。
 ゴーン会長は2000年代に瀕死の状態の日産をV字回復させたことから、カリスマ経営者と呼ばれました。その当時の彼の実績に関して言えば、彼が成果報酬の9割を受け取ると聞いても、私はおかしいとは思いません。しかし、2010年代の日産はすでに危機が終わり、役割分担をした経営陣たちの働きで業績が上向いていました。
 にもかかわらず、たとえば西川社長の成果報酬は5年間で1億円ちょっと、それに対してゴーンCEOの成果報酬が40億円というのは、これはゴーン会長が決めたとしても、あまりに自分に貪欲すぎる配分結果だと思います。日本人役員の働きを馬鹿にしているとしか思えません。
 おそらく日産の社内にも、私と同じようにこの配分比率の不公平を感じ取った人間が多数いたのでしょう。ましてやそれでは足らず、家族旅行に数千万円費やしてこれを会社持ちにするというのですから、内部告発が起きるのは仕方がないと思います。まさに「身から出た錆」ということになります。

本丸は日産の存続を
巡る戦いかもしれない

 では、3番目の謎として、日産はこれからどうなるのでしょうか。老害という言葉がありますが、ゴーン会長も20年経って日産を食い物にする「老害」になっていたということです。今回の逮捕とそれに続く解任劇で、その問題自体は除去されることになるでしょう。しかし、もう1つ大きな問題が提起されています。
 それは日産とルノーの合併問題です。長らくフランス政府は、日産をルノーの完全子会社にすべきだという主張をしてきました。これまでの報道では、それにゴーン会長が反対しているという構図が伝わっていました。しかし実際には、ゴーン会長が日産をルノーと合併させる方向で最終調整に動いていたというのです。
 それがおそらく、今回の逮捕と解任劇で簡単ではなくなりました。だとすれば、将来、今回の事件を振り返れば、本丸はゴーンCEOの不正問題ではなくて日産という企業の存続を巡る戦いだった、ということになるのではないでしょうか。