【新聞に喝!】「族」の表現は侵略者の視点 元東大史料編纂所教授・酒井信彦
ただし、それらの記事で、各紙そろって「ウイグル族」という表現が使われていたことは、極めて問題がある。
そもそも、日本語で「~族」というのは、「~人」のような高度な文化や歴史、国家といった組織を持ったことのない、より下位の部族段階の人間集団を意味する言葉だ。例えば、アメリカのインディアン(今はアメリカ先住民と表現する)のアパッチ族や、南米アマゾンのヤノマミ族と言ったふうに。
では、なぜ中国では「族」と表現するのか。それは、中国は56の民族で構成されているが、すべてを統合する「中華民族」という概念を作っているからだ。そのため、個々の民族を「~人」とは言わず、「~族」と表現する。したがって、日本で普通「中国人」と称し、正確には「シナ人」というべき人間集団も、「漢族」というわけである。
つまり、中国は「中華民族」として単一民族国家であると主張しているわけであり、その目的は、チベット人やウイグル人らに、分離独立をさせないようにするためだ。この中華民族主義は、習近平国家主席が目標に掲げた「中華民族の偉大な復興」にも表れているが、共産党が創造したものではなく、古くは孫文が提唱していた。