パルデンの会

チベット独立と支那共産党に物言う人々の声です 転載はご自由に  HPは http://palden.org

中国が気をもむ島国の「反乱」 スリランカ

http://parts.nikkei.jp/parts/ds/images/common/st_nikkei_print.gif

中国が気をもむ島国の「反乱」  編集委員 秋田浩之

2015/3/27 7:00
日本経済新聞 電子版
 海洋の要所にある島国の「反乱」に、中国が気をもんでいる。その国とは、インドのすぐ南側にあり、昨年まで親中国だったスリランカだ。
 紅茶の産地として有名なスリランカだが、いちばんの強みは立地条件の良さにある。アジアから中東につながる海上輸送路(シーレーン)のほぼ真ん中にあり、格好の中継地なのだ。
 「スリランカ中国企業のプロジェクトを停止へ」。3月初め、同国発のこんなニュースが、世界に波紋を広げた。
■前政権の目玉プロジェクトにメス
 スリランカ中国企業の支援を受け、最大都市のコロンボ沖で大がかりな開発計画を進めていた。総投資額は約15億ドル(約1800億円)。沖合を埋め立て、海上に商業や住宅、スポーツ施設などを建設するというもので、昨年9月から建設が進んでいた。
関連記事
・3月15日 読売朝刊7面「インド・スリランカ接近、首脳会談」
・3月13日 英BBC(電子版)「China media: Sri Lanka investment.Papers analyse Sri Lanka's decision to suspend a Chinese-funded construction project」
・3月7日 産経朝刊8面「中国支援のコロンボ沖事業中断」
・3月5日 英Reuters(電子版)「Sri Lanka threatens Chinese firm with legal action to stop project」
 この中国の看板プロジェクトに対し、スリランカ政府が「待った」をかけたのだ。理由は「中国側との契約内容の不透明さ」。今後調査を進め、事業の継続を認めるかどうか決めるという。中国側は「妥当に問題を解決してほしい」(外務省)と、スリランカをけん制している。
 なぜ、中国の怒りを買うことを承知で、スリランカはこんな決定を下したのか。きっかけは1月の政権交代にある。同月の選挙で、親中色が濃かったラジャパクサ前大統領が敗れ、シリセナ氏が新大統領に就いたのだ。

 ラジャパクサ前大統領は中国から巨額の投資を受け入れ、インフラ整備などを進めてきた。シリセナ氏はこれが汚職体質を招いているなどと批判、当選した。この経緯もあり“中国べったり”の路線を修正するとはみられてはいたが、いきなり目玉プロジェクトにメスを入れたため、関係者は驚いた。

 それだけではない。「今後はとりやめる」スリランカのサマラウィーラ外相は2月にこう表明し、前政権が認めていた中国軍潜水艦の寄港も、許可しない方針を示した。これが本当なら、中国潜水艦の活動にも影響が及びかねない。
インドのモディ首相(左)とスリランカのシリセナ大統領。インド首相がスリランカ入りしたのは28年ぶりだ(3月13日、コロンボ)=ロイター
 「中国は潜水艦を南シナ海だけでなく、インド洋などでも運用しようとしている。スリランカはそのための大切な寄港地に位置づけている」。日本の安全保障担当者はこう語り、今後のスリランカの出方に関心を寄せる。
 このままスリランカが中国から離れていくとすれば、習近平政権にとっては手痛い
 中国はインドを取り囲むように、ミャンマーバングラデシュスリランカパキスタンなどで、港湾・物流拠点の整備を進めている。この拠点をつなぐと首飾りのようにみえることから、「真珠の首飾り」戦略と呼ばれてきた。
 アジアから中東までの海域は事実上、米海軍の影響下にあるが、中国は「真珠の首飾り」を整え、独自のシーレーンを確保したいと考えているようだ。それにより、消費量が急増している原油や食料、鉱山資源などを安定的に中国に運んでくる狙いだ。
■間隙ついたインド
 ところが、「真珠の首飾り」の中央に位置するスリランカが欠けてしまったら、この戦略に大きな狂いが生じてしまう。
 この間隙を突こうと、すばやく動いたのが、中国に警戒心を抱くインドだ。3月半ば、モディ首相がスリランカを訪れ、関係強化を訴えた。両国は長年、テロ問題でぎくしゃくしてきた経緯があり、インド首相のスリランカ入りは、実に28年ぶりだ。
 もっとも、スリランカとしても、中国との経済的な結びつきは大切であり、一気にインド側に振れるとは考えづらい。アジアから中東のシーレーンをめぐる動向は、日本の利害にも直結する。スリランカ震源地とする中印の攻防から、目が離せない。
秋田浩之(あきた・ひろゆき
1987年日本経済新聞社入社。政治部、北京、ワシントン支局などを経て政治部編集委員。著書に「暗流 米中日外交三国志」。