特別軍事作戦と称したウクライナ侵攻に絡み、ロシアの「辺境」から出征し、戦死する少数民族が目立つ。多民族、多宗教のこの国で何が起きているのか。モンゴル系のチベット仏教徒やシャーマンらが暮らすブリヤート共和国を訪ねると、ロシア連邦の権力構造の一端が見えてきた。(ロシア極東ウランウデで、小柳悠志、写真も)
◆「V」が掲げられたレーニン頭部像
8月、ロシア極東ウランウデ中心部で、軍事作戦をたたえる幕が掲げられたレーニン頭部像
バイカル湖からシベリア鉄道に揺られてブリヤート共和国へ。中心都市ウランウデに着くと、旧ソ連の革命家レーニンの頭部像が目に飛び込んできた。重さ42トン、ソ連時代の1971年に設置された。周辺には軍事作戦の支持を意味する「V」や「Z」の文字が掲げられている。
「共和国のトップは派兵に熱心だ。クレムリン(モスクワの大統領周辺)の御用聞きだから」。タクシー運転手のユーリーさんはそんな感想を漏らす。
ロシアでは2000年のプーチン政権誕生後、連邦政府の力が肥大化。政権が推す中央官僚が、対抗馬のいない選挙を経て知事に就くケースが多い。知事はモスクワに戻って出世するため、地方での実績づくりに励む。「官僚にとって知事職は政治の登竜門。プーチン大統領の不興を買うことを極度に恐れている」と外交筋は説明する。
8月、ウランウデのシャーマニズム寺院で、世界と家族の平和を祈るモンゴル系住民ら
ブリヤートでモンゴル系は3割。一方、18世紀に女帝エカテリーナ2世の命令で現在のベラルーシからこの地に移住させられたロシア正教会古儀式派の信徒や、ソ連の独裁者スターリンに迫害された朝鮮民族もいる。政治抑圧の犠牲者が多い土地柄、お上に逆らう声は出ず、軍事作戦に賛成する宗教も多い。
ある宗教家は「ロシアは体制になびいて生き延びるか、弾圧で死ぬかの2択しかない。普通は前者を選ぶ」と語った。
◆首都モスクワの戦死者はわずか24人
メディアゾーナが分析した地域別の戦死者数トップは、イスラム系のダゲスタン共和国。プーチン氏が9月21日に動員令を発動すると抗議デモが起きた。極右的な言動で知られるイスラム系のチェチェン共和国、カディロフ首長も「既にチェチェンから多くの兵を出した」として、動員発動を見送った。住民の反発を恐れたとみられる。
一方、ロシアの人口の10%を占める首都モスクワの戦死者は24人にとどまる。契約兵に志願する人間は少なく、「まともな職があれば軍事作戦に参加するはずがない」(モスクワの60代男性)との声も。
独立系メディア、メドゥーザによると、動員令でモスクワに割り当てられた人数は全国のうちのわずか1%。メディアの目が行き届かず、反体制派が少ない辺境から兵士を駆り出す意図があるとしている。