新型コロナウイルス、最初の感染源ついに判明、やはり武漢の市場から
中国当局(疾病予防控制中心)は、繰り返し否定しきたが、どうやら感染源(ウイルスのヒトへの仲介源)がしぼり込まれてきたようだ。それも中国側のポカによってのこと。自ら語るに落ちたわけだ。はっきり言えば、嘘がばれないように嘘の上塗りを重ねてきたが、ついに嘘をつききれなくなってしまった。 【写真】死者1日2万-中国を待ち受けるコロナ変異株感染爆発、驚愕の試算
意図的だった? ズサン極まりない疫学調査
2019年の11月の末ないし12月の初めには、感染者が発見されていた。1ヵ月後には、感染者の多くが、武漢の駅の南にある大きな市場(主として水産物を扱う武漢華南海鮮批発市場)の関係者とわかり、翌20年の1月1日から閉鎖された市場で、ウイルス探しが始まった。 だが、サンプルの採取法が実にズサンだった。売り場を水で洗い、回収した汚水を区画ごとに分けて大きな容器に入れて運び、PCRによって検査した。 その結果は、ウイルスと売られていた動物とヒトの遺伝子、これら3種の遺伝子が混在する状態が、市場の区画ごとに確認されただけだった。 特定の売り場、特定の動物(商品)、特定の籠や箱や台車にはしぼりこまれなかった。疑われるものごとに拭き取り、個別に収集しなければならないのに、それをやらなかった。と言うか、できなかった。疫学調査の一丁目一番地のワキマエが欠けていた。 意図的にサンプルを破壊したのか、それとも疫学と防疫の水準の低さのためなのか。蔓延から3年を経過した現在から総合的に見ると、両方が原因だったと判断される。結果的には、学術の水準の低さを、国家の威信を一時的に守るのに利用したことになるだろう。 という次第で、市場の南西の区画、イカモノの獣(生きたまま、あるいは肉や臓物)をとくに扱う一角が、ウイルスで汚染されていたことだけは、中国当局も認めざるを得なくなった。そんな中途半端な状況のままが現在も続く。
フランスのウイルス学者が仲介源をタヌキと同定
今年の3月4日、フランスの国立科学センター(CRNS)のウイルス研究者で、大学でも教えるフロランス・デバールが気づいたのだが、インフルエンザ関連のデータ・センター(GISAID、本部はワシントンDC)に、武漢の市場で採取された遺伝子配列データが、中国から2022年6月付で登録されていた。 彼女を中心とするグループは、それらのデータをあらためて調べ、5日後の9日には、コロナ・ウイルスといっしょに8種類の野生動物とヒトの遺伝子が混在しているのを確かめた。野生動物は、タヌキ(日本のそれと同種)、ハリネズミ、ヤマアラシ、タケネズミ、マーモット、ハクビシン、イタチ、ブタバナアナグマだった。それらのうちで、店頭でもっとも多く見つかったのがタヌキの遺伝子だった。 論文では、8種類の野生動物の比率は示されていない。だが、「タヌキを含む野生動物」と筆頭に挙げることによって、売られていたタヌキが感染源だと、限りなく断定に近い表現になっている。検討結果は、論文として3月20日に公開された。 ところが、不可解なことに、中国からの申し出によって、肝心のデータそのものが3月11日に取り下げられた。フランスでのタヌキ同定を、中国当局が察知したからだろう。中国がもっとも隠したいタヌキに関するデータを、うっかり海外に出してしまったのは、科学的には妥当で必須だが、政治的には、つまり、中国の国際的駆け引きにとっては、致命的なポカだった。そのためますます自縄自縛に陥り――嘘のため嘘をつき続けねばならなくなった。
近くに存在する余りにも潤沢すぎるタヌキの供給源
中国の研究者によると、武漢の市場で売られていたタヌキは、平均すると毎月38匹、1匹の平均価格は63ドル(約8000円)だった。15匹を売れば、大学新卒の月給(12万円)と同じになった。おいしい商売だった。 高価で売れたのは、イカモノの獣肉の味覚や薬効からではない。それを使った料理は贅沢とされ、それを出されるのは歓待、格別な配慮の要請(一種の贈賄)を意味したからだ。 ということは、社会的腐敗がコロナ肺炎の世界的大流行をまねいたと、世界中から糾弾されることになるわけで、それを北京当局が恐れて、武漢の市場の感染情報を隠したがっているのだと疑われても仕方がない。 中国全土の獣肉市場には、広く全国に存在する毛皮獣飼育場から、タヌキやキツネやイタチなどが生きたままで供給されてきた。料理する直前まで生きているのが尊重されたからだ。というわけで、動物が飼育場でコウモリからウイルスをうつされると、ウイルスを持ったまま、動物が人口密集地に持ち込まれ、いともたやすくヒトへの感染源になる。そういう社会体制がつくられていたわけだ。 武漢の市場にタヌキを供給したのは、武漢と同じ省内、湖北省西端の山岳地帯、恩施(エンシ)地区に存在する飼育場群と推定される。飼育数は総計で100万匹とも伝えられる。この地帯は洞窟も多く、そこがコウモリの巣窟になっている。 この疫学モデル――「ウイルス→コウモリ→仲介動物→ヒト」――は、2002年11月から翌年7月にかけてのSARS(重症急性呼吸器症候群)の場合と、パターンが同じだ。 その点からしても、コロナ肺炎の武漢市場タヌキ起源説が、真相にもっとも近いと考えるべきだろう。これ以外の説は、米中の不信と敵意のフェイク・ニュース戦争の産物だ。 トランプ大統領のもとで、武漢の研究所からウイルスが漏れたのが原因と喧伝された。だが、研究所が保存するウイルスと、流行したウイルスとは、遺伝子の並びの細部が異なるので、この説は科学的にはまったく成り立たない。 それに対抗するため中国当局は、輸入した冷凍肉が原因だと、海外に感染源をなすりつけようと盛んに宣伝した。だが、そうした事例は世界中どこにも見られない。いまだに中国当局は海外原因説に固執するが、中国への信頼を損ねる一方だ。
次の新型肺炎はいつ、どこで起こるか
いつ起こっても、おかしくない。場所的には中国の東半分のどこで起こっても、おかしくない。というのは、感染の仲介源となる可能性の高い動物が、毛皮をとるため、中国の東半分、北から南まで、いたるところで盛んに飼育されているからだ。 砂漠と高山地帯を除く全土と言っても過言ではなく、ウイルスを運ぶコウモリの生息地とも完全に重なる。吹きさらしの野外の金網のなかで動物が飼われているので、自由に網の目をくぐってコウモリが動物の餌を盗みに入ってくる。ウイルスは何の障害もなく飼育動物へ伝染する。 シンガポールで発行される新聞「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」(2020年3月4日付け)が伝えるところでは、中国の毛皮業界の従業者は1400万、年間の売り上げ高は5200億元(740億ドル)に達する。 中国皮革協会によると、2021年の毛皮の生産枚数は、キツネが1100万、タヌキが919万、ミンクが687万だった。 タヌキの毛皮の生産地の比率は、河北省が66.51%、山東省が16.94%、黒竜江省が10.66%、その他が5.89%だった。武漢がある湖北省はその他に属する。つまり、武漢周辺よりもはるかに次の新型肺炎が起こりやすい地域がたくさん存在する。 振り返ると、この20年間、中国の感染症対策は本質的にはまったく改善されていない。それが証拠に、たとえば河北省の粛寧県(北京の南100キロメートル)では、昨年の暮れに「国際皮革交易会議」が開催され、年間250億元の売り上げがあったとの報告を基に、地域の人民政府の副秘書長が激励の挨拶をした。当局が音頭をとって、縮小するよりも拡大を策しているのだから、感染症対策に逆行することも甚だしい。二度あることは三度あると、世界中が覚悟していなければならない。 家畜以外は、つまり、野生動物は、市場での売買が禁止されたが、毛皮をはいだ後の肉や臓物がどのように処分されているかについては、はっきりしない。まさか市場の店頭で家畜の肉や贓物のなかにまぎれこんでいるとは、誰も思いたくないが、気になるところだ。 中国は感染症対策を根本的に改めないと、中国自体にとっても為にならないだろう。赤木 昭夫(評論家)
新型コロナの起源はタヌキだった? 再浮上した「動物市場犯人説」の信憑性
03/21 18:00
アサ芸Biz