論評
中国共産党(中共)は、特定の外国人に対して中国からの出国を禁じている。この政策は法的に曖昧であり、移動の自由、国際投資、外交慣例の観点から少なくとも警鐘を鳴らすものだ。だが、その影響はさらに深刻になり得る。
出国禁止 外国人に迫る新たなリスク
中国では「出国禁止」――特定の人物が国外に出られないようにする措置が、中国人だけでなく外国人に対しても頻繁に適用されている。その理由は「国家安全」に関わるとされるが、定義は極めて曖昧だ。
この制度自体は新しいものではないが、習近平が権力を握った2012年以降に広がりを見せた。特に2018年以降の国家安全関連法の制定・改正に伴い、その適用範囲が拡大した。人権団体セーフガード・ディフェンダーズによると、2016~22年にかけて、最高人民法院のデータベースにおける「出国禁止」の言及件数は8倍に増えたという。
2025年7月には、総合金融サービス会社の米ウェルズ・ファーゴのアトランタ拠点のマネージングディレクターを務めるアメリカ人が中国で出国を禁じられた。当局は「刑事事件に関与している」と述べたが、詳細は明かされていない。この事態を受け、同行は社員の中国渡航を全面停止した。
また同年4月には、米特許商標庁に勤める帰化アメリカ人が成都に到着した際に出国禁止の対象となった。ビザ申請時に米政府職員であることを申告しなかったことが理由とされている。この件は、米国連邦職員が初めて出国禁止にかけられた事例とみなされている。
これは具体的な犯罪容疑とは性質が異なる。むしろ外交官、企業幹部、政府関係者など、経歴や職務上の立場が政治的に意味を持つ人物たちを狙ったものと見られる。その不透明で突発的な適用が不安を掻き立てている。
外国人幹部、外国企業への広範な影響
出国禁止はアメリカ人だけに限らない。日本や欧州企業の経営幹部も対象となっている。アステラス製薬、アストラゼネカ、野村証券、UBS、コンサル企業Krollなどの幹部が捜査や渡航制限を受けている。
場合によっては、法的訴訟に直接関与していない人にまで適用されることもある。デューデリジェンス(企業の経営状況や財務状況などを調査する)会社Mintzが摘発された際には、職員が拘束され、多額の罰金を科された。こうした事例は中国のビジネス環境にさらなる不安を投げかけている。
「人質外交」なのか
中国の出国禁止は「人質外交」として機能しているとの見方もある。場合によっては、対象者本人だけでなくその家族までも国外に出られなくなる。アメリカ人や他国民を足止めすることで、中共がその政府に対して政治的メッセージを送っているのではないか。
確かのその通りのようだ。クリス・カー氏とジャック・ウォルドセン氏が2022年に発表した論文によると、1995年から2019年までの間に外国人128人が出国禁止にかけられ、そのうちアメリカ人は29人、カナダ人は44人にのぼった。さらに、近年は出国禁止を正当化する法律が増加している。
拡張する「国家安全」の定義
背景には、「国家安全」の定義拡大がある。特に反スパイ法などが改正され、中共当局が明確な定義や正当な手続きなしに出国禁止を適用できる余地が拡大した。2023年3月に施行された知的財産に関する法律と同様、出国禁止の乱用は外国人ビジネス関係者に不確実性をもたらしている。
その結果、多くのビジネス旅行者が中国からの出国に問題ないにもかかわらず、米国務省は中国への渡航について「高度な注意」を求める警告を分類している。特に、機密性の高い役割を担う人や、米中の二重国籍を持つ人などはリスクが高いとされる。旅行の際には、クリーンなデバイスを使用する、デジタルフットプリントを最小限に抑える、個人的なリスク要因を評価する、渡航プロトコルを確認するなど、特別な予防措置を取るよう勧告している。
なぜ外国人を出国させないのか?
中国が外国人を国外に出さない理由はさまざまだ。実際の法律違反の追及、情報収集や企業・国家への影響力行使、米中対立の中での外交カード。中共は「出国禁止」の適用対象やタイミングを自国の利益に応じて選んでいる。米中間の緊張の高まりは大きな要因であり、中国は利用可能なあらゆる手段で影響力を得ようとしているように見える。
ビジネスと外交に冷水
このような動きは当然、国際社会の中国に対する信頼を大きく損なっている。外国企業は中国を安全で利益の出る投資先とは見なくなり、巨額の資本流出が続いている。経営幹部が中国駐在を敬遠する傾向も強まっている。二重国籍者は、自分は影響を受けないと考えていても、中共の力は世界のどこにいても及ぶのだという認識が広がっている。
外交面でも、米中間の不信感を増幅させ、通商交渉や地政学的競争の中で溝を深めている。
出国禁止は中共当局による意図的な政策であり、当局はその国際的な代償を深刻には捉えていないように見える。その結果、中国は外国人にとってますますリスクの高い場所となっている。