北朝鮮のガールズグループ「牡丹峰モランボン)楽団」が北京公演をドタキャン帰国したことにより、北朝鮮と中国の関係が再び険悪となる可能性が出てきた――マスコミの報道には、こうした指摘が数多く見られる。

しかしそれにより、北朝鮮金正恩氏がただちに窮地に立たされるわけではないことは認識しておく必要があるだろう。

北朝鮮は最近、経済官僚に海外でMBA研修を受けさせたり、経済特区の投資誘致計画を公表したりと、経済の部分的開放に動くかのような気配を見せている。北朝鮮が中国に最も期待するのは、恐らくこうした取り組みへの支援なのだろうが、関係悪化は確実にマイナスに作用する。

ただ、それによって北朝鮮の「商売」が停滞したとしても、政治的には大きな影響はない。なぜなら国際政治の大きな流れの中では、中国は北朝鮮の守護者であり続けるからだ。

もっとも、中国は北朝鮮のためを思ってやったわけではなかろう。

国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会(スイス・ジュネーブ)は9日、中国に対する審査に関する報告書を発表、同国では依然として警察署や刑務所などで幅広く拷問や虐待が行われているとして「深刻な懸念」を表明している。つまり、北朝鮮と中国は「同じ穴のムジナ」であるわけだ。

いま、北朝鮮が最も恐れているのは、人権問題が安保理によって国際刑事裁判所ICC)に付託され、金正恩氏が刑事被告人とされる展開だ。そこから逃れる上で、安保理で「拒否権」を持つ中国が、自国と同様に人権問題を抱えているということは、何より頼りになる「安全装置」なのだ。

日本政府は、日本人拉致問題北朝鮮の人権問題に含めながら、11月1日の日中韓首脳会談などでは、北朝鮮問題における中国との連携強化をうたっている。それが間違いとは言わないが、こと人権問題においては、中国と北朝鮮が「利益」を共有しているという事実を決して忘れてはならない。