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中国で逮捕される日本の“スパイ”が急増、その理由と対策



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中国で逮捕される日本の“スパイ”が急増、その理由と対策

法の不知はこれを許さず:中国ではどのような行為がスパイ活動に当たるのか
2018.8.8(水) 横山 恭三
中国政府、外国人スパイを通報できるウェブサイト開設

中国・北京で外国人スパイへの注意を促す漫画を読む女性(2017年5月23日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO/ GREG BAKER〔AFPBB News

最近の新聞報道によると、中国で長期拘束されている日本人が年々増えているという。
2015年以降、スパイ行為に関わったなどとして日本人8人が相次いで逮捕・起訴されている。
そして、本年7月10日には愛知県の男性がスパイ罪で懲役12年の実刑判決を、7月13日には神奈川県の男性がスパイ罪で懲役5年の実刑判決をそれぞれ受けた。
これら有罪判決を受けた2人以外にも、温泉開発の地質調査中に拘束された男性ら6人が逮捕・起訴されている。8人のうち6人がスパイ罪、2人が国家秘密等窃盗罪などで起訴されている。
菅義偉官房長官は、7月30日の記者会見で次のように述べるなど、日本政府は一貫してスパイ行為への関与を否定している。
「日本政府が中国に、スパイ行為に関与する民間の人を送り込んだという事実はあるのか」との記者の質問に対して、「我が国はそうしたことは、絶対にしていないということを、これはすべての国に対して同じことを申し上げておきたい」
日本の新聞各紙は日本人の動静しか報道していないので拘束された8人という数字が他の国々と比較して多いのか少ないのか分からない。
すなわち、中国で日本人スパイがそんなに多数活動しているのか、あるいは中国がことさら日本人を標的としているかが不明である。
官房長官の日本政府は今回のスパイ行為に一切関与していないという発言を信じるならば、今回身に覚えのないことで身柄を拘束された日本人にとっては青天の霹靂どころか恐怖と不安で生きた心地がしないであろうと推察する。
このように日本人が外国のスパイ対策などに関する法制に無知であるがゆえの不幸な事態に巻き込まれることは二度と起こしてはならない。
1.中国のスパイ対策に関する法制の実態
法律に関する格言に「法の不知はこれを許さず」というものがある。
例えば、日本で自衛隊基地を撮影しても罪にならないからといって、中国で軍事基地を撮影して拘束されても、「中国で軍事基地を撮影することが罪になることだとは知らなかった」では済まされず、スパイ罪で罰せられるということを肝に銘じるべきである。
そのためには、中国を観光または仕事で訪れる日本人は、どのような行為がスパイ容疑に該当するか、関連する法律を知っておかなければならない。本稿ではその点に焦点をあて中国のスパイ対策に関する法律の要点を紹介する。
関連する法律には、刑法、国家秘密保護法、スパイ防止法および軍事施設保護法がある。
各法律の日本語版をインターネットで検索したが見当たらなかったので、各法律の関連条文の要点のみを筆者が翻訳し、以下に紹介する。翻訳の適否について大方のご教授を賜りたい。
(1)刑法(中華人民共和国刑法)
中国は、1979年7月1日制定の旧刑法典を1997年に全面改定した。そして、2015年には一部改定した。
本稿に関連する改定箇所としては第311条がある。同条文では、これまで証拠提出拒否罪がスパイ犯罪のみであったが、今回の改定で、スパイ罪に加えてテロリズム犯罪と過激主義犯罪の証拠拒否罪へと拡大した。
関連する条文の要点は以下のとおりである。
ア.次のような国家安全に危害を及ぼすスパイ行為は、10年以上の有期懲役又は無期懲役に処する。比較的軽度の場合は3年以上10年以下の有期懲役に処する。(110条)
①スパイ組織に参加する又はスパイ組織若しくは代理人の任務を遂行する。
②敵に攻撃目標を指示する。
イ.外国の機関、組織、個人のために国家秘密を不法に入手し、それらを不法に提供する者は、5年以上10年以下の有期懲役に処する。
特に重度の場合は10年以上の有期懲役又は無期懲役に処する。比較的軽度の場合は5年以下の有期懲役、拘留、監視又は政治上の権利剥奪に処する。(111条)
ウ.戦時中に、敵に、武器、装備、軍用物資又は資金を提供した者は、10年以上の有期懲役あるいは無期懲役に処する。比較的軽度の場合は3年以上10年以下の有期懲役に処する。(112条)
エ.上記のスパイ行為等により、国家と人民に対して特別に重度の危害を及ぼした場合は死刑に処すことができる。(113条)
(2)国家秘密保護法(保守国家秘密法)
中国は2010年に旧国家秘密保護法を改定した。
改正法ではネット業者に対し、ネット上で当局が「国家秘密」と判断した情報の漏洩が発見された場合、ただちに配信を停止し、記録を保存して公安機関に報告することなどが義務づけられた。関連する条文の要点は以下のとおりである。
ア.次に掲げる事項について、その漏洩により国の政治・経済・国防・外交等の分野における安全及び利益が損なわれるおそれがある場合には、国家秘密に指定しなければならない。(9条)
①国家事務の重大な政策決定における秘密事項
②国防建設及び武力活動における秘密事項
③外交及び外事活動における秘密事項並びに対外的に秘密保護義務を負う秘密事項
④国民経済及び社会発展における秘密事項
⑤科学技術における秘密事項
⑥国家安全の擁護活動及び刑事犯罪の調査における秘密事項
⑦国家秘密行政管理部門が指定したしたその他の秘密事項
⑧政党の秘密事項で前項の規定に合致するものは、国家秘密に属する
イ.次の行為の一つを犯した者は、法律に基づき罰せられる。違反行為が犯罪となる場合は起訴され、法律に基づき刑事責任が問われる。(48条)
①国家秘密に属する物件(国家秘密载体)を不法に取得又は所有する
②国家秘密に属する物件を購入、販売、移動又は破壊する
③国家秘密に属する物件を秘密防護手順に従わず、通常郵便又は速達便などで送達する
④関連する当局の許可なく、国家秘密に属する物件を国外へ郵送若しくは配送する又は国外に携行若しくは移動する
⑤不法に国家秘密をコピー、記録又は(データ)保存する
⑥個人的な接触又は手紙のやりとりにおいて国家機密に言及する
⑦インターネットもしくは他の公共情報ネットワーク又は秘密保護措置が適用されていない有線若しくは無線によって国家秘密を送信する
⑧ 国家秘密を扱っているコンピュータ又は他の記憶装置を、インターネット又は他の公共情報ネットワークに接続する
⑨保護措置を講ぜずに、秘密情報システムと、インターネット又は他の公共情報ネットワークの間で情報を交換する
⑩国家秘密情報を保存又は処理するために、国家秘密を扱っていないコンピュータ又は他の記憶装置を用いる
(3)スパイ防止法(反間諜法)
1993年に制定された国家安全法(旧国家安全法)に代わるものとして、スパイ防止法(反間諜法)が2014年11月1日に第12期全国人民代表大会の常務委員会によって制定され、即日施行された。
同法の特筆すべき点は、第36条でスパイ行為を定義していることである。関連する条文の要点は以下のとおりである。
ア.本法が言うところのスパイ行為とは、次のような行為を指す。(36条)
①スパイ組織が実施する、その代理人が実施する、スパイ組織等から資金を援助された者が実施する、又は国内外の機関・組織・個人が結託して実施する、中華人民共和国の安全に危害を与える行為
②スパイ組織又はその代理人からの指示を遂行する行為
③海外の機関・組織・個人が、又は海外の機関・組織・個人が国内の機関・組織・個人と結託して、情報を不法に入手する又は不法に提供する行為
④中国の国家公務員を扇動、誘惑又は買収して国家を裏切るようそそのかす行為
⑤敵に、攻撃目標を指示する行為
⑥その他のスパイ活動
(4)軍事施設保護法(军事设施保护法)
1990年に制定された軍事施設保護法が2014年に改定された。
改正法では軍事施設の保護範囲の拡充や「軍事禁区」「軍事管理区」の定義の詳細化などが行われた。関連する条文の要点は以下のとおりである。
ア.次の建物、場所、設備を軍事施設とする。(2条)
①作戦指揮所(地上及び地下)
②軍用の空港・港・埠頭
③隊舎、訓練場、試験場
④軍用の地下壕・倉庫
⑤軍用の通信、偵察、航法及び観測塔並びに測量、航法及び航路標識
⑥軍用の道路、鉄道、通信回線及び送電回線並びに軍用の送油管及び送水管
⑦国境警備及び海洋警備の管理施設
⑧国務院と中央軍事委員会が指定する他の軍事施設
イ.軍事禁止区域保護のための禁止事項(15条)
①軍事禁止区域への関係者以外の人員、車両、船舶の侵入を禁止する
②軍事禁止区域における撮影、ビデオ撮影、録音、実地調査、測量、スケッチ及びメモを禁止する
ウ.次の行為には、「中華人民共和国治安管理処罰法第23条」(注)の規定が適用される。(43条)
①不法に軍事禁止区域及び軍事管理区域に入り、制止を無視する
②軍事禁止区域には入っていないが軍事施設から一定の距離にある軍事管理区域に入り、軍事施設の安全と効果的な使用に危害を加える行動を行い、制止を無視する
③軍用空港の保護区域に入り、飛行安全と空港施設の効果的な使用に影響する行動を行い、制止を無視する
④軍事禁止区域及び軍事管理区において、不法に撮影、ビデオ撮影、録音、調査、測量、スケッチ及びメモを行い、制止を無視する
⑤その他、軍事禁止区域及び軍事管理区域の管理秩序を乱し、軍事施設の安全活動に危害を及ぼしたが、状況が刑事処分の対象となるには軽微である場合

(注)第 23 条の罰則は、警告又は200元以下の罰金で、情状が比較的重い場合は、5日以上10日以下の拘留と500元以下の罰金の併科である。

エ.次の行為に該当し、犯罪を構成すれば、法律に基づき刑事責任が問われる。(46条)
①軍事施設を破壊する
②軍事施設の装備・物資・器材を窃盗、略取又は強奪する
③軍事施設の秘密を漏えいする
④海外の機関・組織・個人のために軍事施設の秘密を不法に入手し、不法に提供する
⑤軍用固定無線施設の電磁環境を破壊し、軍用無線通信を妨害し、その影響が重大な場合
(6)その他、軍事禁止区域及軍事管理区域の管理秩序を乱し、軍事施設の安全活動に危害を及ぼし、その影響が重大な場合
オ.武装警察部隊所属の軍事施設及び国防関連産業の重要な武器装備に関する研究・生産・試験・貯蔵等の施設の保護についてもこの法律の規定が適用される。
以上が中国に行く日本人が最低限知っておくべき法律・条文の要点である。
2.日本が採るべき対策など
中国で長期拘束されている日本人が年々増えているという事実に対して日本はどう対処すべきか。
まず、日本人のスパイ・リテラシーを向上することである。筆者が考えるスパイ・リテラシーには3つの側面がある。
1つ目はスパイ活動(諜報、謀略、宣伝工作など)に対する理解力である。
2つ目はスパイ対策活動(防諜)に対する理解力である。
3つ目はスパイ活動の意義に対する理解力である。
諜報、防諜という用語は読者の方々には聞きなれないかもしれないが、旧軍で用いられていた。
そこでは諜報とは、その行為の目的を秘匿して行う情報収集活動であり、防諜とは、相手の我に対するスパイ活動を阻止・破砕する活動であり、防諜意識向上のための教育・啓蒙等(消極的防諜)と外国の非合法的な諜報活動等を探知・逮捕(積極防諜)から構成されるとされた。
3つ目のスパイ活動の意義は、国家の外交政策、防衛政策等の立案・遂行の前提条件は相手国の国情を知ることであるとされた。
すなわち、「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」ということである。
諸外国では、スパイ活動は政府の通常の機能であると考えられており、そのため、行政機関の1つとしてスパイ組織を保有し、国外におけるスパイ活動を行っている。
戦後、日本ではスパイ活動のみならず諜報、防諜という用語が軍国主義を想起させるとしてタブー視しされてきた。それが今日の日本人のスパイ・リテラシーを低くしている要因である。
我が国でも「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」が衆議院に提出されたが廃案となった経緯がある。
戦後73年を経たが、いまだスパイ防止法は制定されていない。このような我が国の現状が国民のスパイ・リテラシーを低くしているのである。
早急にスパイ防止法を制定し、我が国において多数の外国のスパイが活動していることを公式に認めるとともに外国情報機関員等の非合法のスパイ活動を決して許さず、スパイを確実に逮捕するとい強い姿勢を明らかにすべきである。
そうすれば自ずと国民のスパイ・リテラシーは向上するであろう。
次に、外国のスパイ対策の実態を国民に教育・啓蒙することである。再発防止策の定番は事例紹介である。
しかし、今回、中国においてスパイ容疑などで拘束された8人がどのような経緯で拘束されたかが明らかにされていない。
政府は海外でスパイ行為とみなされる行為をしないよう教育・啓蒙を行っているのであろうか。
海外における邦人の安全確保は外務省の重要な責務であることは間違いない。しかし、外務省が発信している情報の中にスパイという用語は一語もない。
例えば、外務省安全情報の中に「撮影した対象が国家機密に触れた場合は重罪となる場合がありますので、決して興味本位でこれらの施設等を撮影しないようにしてください。」との注意喚起がある。

これでは、スパイ・リテラシーの低い日本人には、撮影した行為がスパイと見なされ、最高刑が死刑であるスパイ罪で逮捕される恐れがあることまでは理解できないであろう。これはまさに「教えざる罪」である。

政府は、海外で無実の罪で逮捕・起訴される日本人を二度と出さないために、早急にスパイ活動(諜報等)、スパイ対策活動(防諜)およびスパイ活動の意義等について国民を教育・啓蒙しなければならない。
その前提としては我が国のスパイ活動やスパイ対策活動などの法制の整備が必須である。しかしながら、政府がこのような施策に着手するには時間がかかるであろう。
したがって、海外に出かける国民には、自らの安全を確保するために事前に訪問国の関連する法律を理解する努力が必須である。本稿がその一助となれば幸いである。
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