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どこか他人事の岸田答弁 習近平氏は今回の米国の動きと国際社会の動向を慎重に見極めているはずだ。  ウクライナ情勢は即、台湾有事に繋がる。つまり日本有事に直結するものとして当事者意識をもって当たる必要がある。

力の信奉者、プーチン習近平が値踏みする米国の「力」
2022.2.22(火)織田 邦男followフォローhelp
世界情勢安全保障


米国の強襲揚陸艦「キアサージ」へ海兵隊の訓練用資材を
運ぶホバークラフト(1月19日、米海兵隊のサイトより)

力なき外交は無力である

 ロシア軍によるウクライナ侵攻の懸念が高まっている。

 ロシアはウクライナ侵攻の意図を否定し、部隊撤収の演出も始めたようだが、ウクライナとの国境付近に依然15万人を超える部隊を集結させ、軍事的緊張を高めている。

 欧州安保協力機構(OSCE)のマイケル・カーペンター米国大使は2月18日、ウクライナ周辺に展開するロシア軍部隊について「1月30日時点では約10万人だったが、恐らく16万9000~19万人に達している」と述べた。

 そして、「第2次大戦以来、欧州で最も大掛かりな軍事動員だ」と指摘した。

 ロシアは北大西洋条約機構NATO)不拡大要求では強硬姿勢を堅持している。

 2月17日には安全保障に関するロシアの立場を記した回答を米国に提示したが、これに対する米国の回答によっては「軍事技術的な措置を含めて対応を余儀なくされる」と警告している。

 軍事力による威嚇、恫喝で相手に自分の意図を無理やりのませる。相手が拒否すれば軍事力で決着をつける。

 まさに「力の信奉者」が実施する「力による現状変更」の典型である。

 これに対しジョー・バイデン米国大統領は、早々に軍事力という「力」を放棄し、経済制裁という一本足打法で立ち向かおうとしている。

 アントニオ・グテーレス国連事務総長は2月14日、「緊張の高まりを深く憂慮している」「今が緊張緩和の時だ」と述べ、「外交に代わるものはない」と対話を通じた軍事衝突回避を訴えた。

「力なき外交は無力である」という言葉がある。

 これほど国連事務総長の言葉が虚ろに響くことはあるまい。

 そもそも「力」への対抗手段を持たない国連が無力であるのは、今に始まったわけではない。ウクライナはこれで2度目の煮え湯を飲まされようとしている。

ブタペスト覚書の無力

 1991年、ソ連邦は崩壊した。ソ連邦の一部であったウクライナは、独立を果たした。この時、ウクライナ領内には約1900発の核弾頭が取り残されていた。

 ウクライナは独立国として、この核弾頭保持の意向を表明した。だが、ロシアはもちろんのこと、米国、英国が核拡散防止の観点からこれに強く反対した。
   
 ウクライナに対し、核不拡散条約(NPT)への加盟と、核兵器の撤去が求められた。

 その条件として、「領土保全、政治的独立」に対する安全保障を3か国(米、英、ロ)が提供することで合意された。

 これが「ブタペスト覚書」(1994.12.5)である。

 フランス、中国はこの趣旨に賛同し、別々の書面で同様にウクライナに安全保障を提供した。

 国連の常任理事国がこぞってウクライナに対し、核兵器の撤去を条件に安全保障を約束したわけである。

 国連がウクライナの領土の一体性を保障したにもかかわらず、2014年3月、クリミア半島はロシアに併合された。

 一夜にして「ブタペスト覚書」は反故にされ、国連はウクライナの領土保全を守れなかった。

人民日報がいみじくも指摘

 この時、中国共産党機関紙である人民日報に掲載された記事が印象深い。

「西側世界は国際条約や人権、人道といった美しい言葉を口にしているが、ロシアと戦争するリスクを冒すつもりはない」

「約束に意味はなく、クリミア半島ウクライナの運命を決めたのは、ロシアの軍艦、戦闘機、ミサイルだった。これが国際社会の冷厳な現実だ」

 歴史に「もし」は禁物だが、もし1900発の核弾頭のうち、10発でもウクライナが引き続き保有していれば、クリミア半島の併合はなかっただろう。また現在の緊迫したウクライナ情勢もなかったはずだ。

 核にはそれだけの「力」がある。だから北朝鮮は民が飢えても核を手放さない。

「ブタペスト覚書」は、「力なき外交」が如何に無力であるかという「国際社会の冷厳な現実」を証明したといっていい。

 今回のウクライナ情勢もまた、同様の帰結を迎えるような気がしてならない。

 ロシアや中国のような「力の信奉者」は、国際社会の現実は国連でもG7でもなく、「力」が決めると固く信じている。

中国は2016年、南シナ海の領有権問題に関する国際仲裁裁判所の裁定を「ただの紙くず」と切って捨てた。裁定後も何食わぬ顔で南シナ海の九段線内の領有権を主張し続けている。

 クリミア半島併合作戦がソチ五輪閉会式の4日後から始まったように、今回のウクライナ情勢は北京五輪後に動きがあると懸念されている。

 米国は今回、偵察衛星情報などを積極的に公開して国際世論を喚起し、プーチンの企みを事前に阻止しようとしている。

 だが軍事力を欠いた経済制裁、情報戦、世論戦がどこまで効果があるのか。果たして「力の信奉者」プーチンの野望を抑止できるのか。

どこか他人事の岸田答弁

 結果は雪解けまでには判明しているだろう。

 日本にとって、これは対岸の火事ではない。同じ「力の信奉者」である習近平国家主席の台湾併合への動きに大きな影響を及ぼす。

 習近平氏は今回の米国の動きと国際社会の動向を慎重に見極めているはずだ。

 ウクライナ情勢は即、台湾有事に繋がる。つまり日本有事に直結するものとして当事者意識をもって当たる必要がある。

 岸田文雄首相は2月15日夜、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話で会談した。

ウクライナの主権と領土の一体性について、一貫して支持する」との立場を表明し「外交努力を粘り強く行っていくことで、緊張緩和につなげていくことについて一致した」と語った。

「仮にロシアによる侵攻があった場合には、制裁も含め、状況に応じてG7を初めとする国際社会と連携して適切に対応する」と強調した。

 どことなく緊張感に欠け、他人事のようにしか聞こえないのは筆者だけだろうか。

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