台湾や世界は騙されるな
時間稼ぎにすぎない柔軟姿勢
ペマ・ギャルポ 2023/5/18(木) Viewpoint|中国 [トップ]
中国の習近平国家主席が、虎のように威嚇する様子を変えて猫のように変貌し、唐突にピースメーカーのように振る舞っている。
昨年まで、あれだけ台湾に対して、武力も辞さないと言って威嚇していたのに、今年になってからは台湾の元総統・馬英九氏を赤い絨毯(じゅうたん)を敷いて出迎え、また世界的には、イランとサウジアラビアの仲介を成功させ、今では、ウクライナ戦争の仲介役になろうとしている。
立場が弱くなった習氏
私は、習近平氏にロシアとウクライナの仲介者となる資格はないと思うし、また台湾に対しても奪い取ろうという本心は変わっていないと思う。なぜ今、彼が憤怒的な仮面から穏やかな仮面に替えたかを考えるとき、私は、彼の立場が弱くなったからだと思っている。目玉政策であったはずの「一帯一路」が行き詰まり、国内の経済が低迷し、富裕層やエリートたちが海外へと脱出し、おまけにアメリカ、日本などの自由陣営の国々が彼の野望を見抜いて連携したことに加え、中国による債務の罠(わな)に気が付いたアフリカやアジアの国々が北京離れを起こしているからだと思う。
真の仲介者になるためには、紛争当事者同士ならびに関係者の信頼と尊敬を得ていなければならない。また、当然のことであるが、公正・公平・中立でなければならない。果たして、彼および中国は、信頼に値する国または人物だろうか。中華人民共和国は、1951年、チベットに押し付けた17条協定の中で、外交・防衛以外に一切、内政干渉をしないという約束をしたにもかかわらず、それを僅(わず)か2年で破った。その後、チベットから抵抗があったのと中国国内の権力闘争が始まると、ダライ・ラマ法王に対し、毛沢東は、「チベットの改革を急がない」と態度を軟化させた。また、文化大革命で国内が無法地帯化し、経済が破綻寸前になったとき、手のひらを返すようにそれまで最大の敵だったアメリカと和解し、「昨日の敵は今日の友」という態度に変わった。
さらに、78年、ソ連がアフガニスタンに侵攻し、ダライ・ラマ法王に対し、赤い絨毯を敷き、モスクワ放送がそれまで中国同様にチベットの決起を反乱としていたのを民族自決のための戦いと言い始めると、79年に●(「登」の右に「おおざと」)小平自らがダライ・ラマ法王の実兄と会って対話を申し込んできた。私たちチベット人が中国と同じ共産主義独裁国家であるソ連に対し特別な期待をしたわけではないが、中国としては遠くのアメリカ以上に近くにあるソ連がチベットに絡んでくることを恐れたのである。しかし、この対話も習近平氏によって打ち切られた。
また、中国は、英国との間に交わした97年から向こう50年間は香港の高度な自治を認めるという一国二制度の約束も踏みにじった。54年、インドと交わした相互不可侵を強調した平和5原則に基づく約束も、62年、中国が一方的にインド領へ侵入することで破られた。
これらの過去の歴史を見ても、中国がオリーブを咥(くわ)えた鳩のような姿勢を見せるときほど注意しなければならない。私は、台湾の国民も騙(だま)されてはいけないと思うし、世界も騙されてはいけないと考える。台湾は特に、分断工作や甘い言葉に騙されないように注意すべきだ。中国が柔軟な姿勢を示すことは、時間稼ぎのときであり、だからこそ中国は台湾を諦めていないし、2049年までに世界の覇権を治めるという国家100年の目標も諦めていない。
日本こそ真の仲介者に
岸田文雄首相は、東奔西走して、中国・ロシア・北朝鮮の脅威を促し、真の世界平和のために奮闘している。また、日本にとっての重要な隣国である韓国との関係回復にも成果を上げていると評価できる。安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現を公約通り進めている岸田首相が先進7カ国(G7)の議長国として自由と法の支配、基本的人権の確立に貢献できる成果を上げてくださることを祈っている。このG7を機に、日本が世界から尊敬され、信頼される国として、むしろ中国に代わって、真のピースメーカーになることを期待している。