北京と河北での洪水災害は人災要素によるもの=専門家
中国の北京市と河北省で最近深刻な洪水が発生し、習近平指導者は重大な人的被害を認めた。洪水の背後にある人災の要素が注目を集めている。ドイツ在住で、中国の水利を知り尽くしている水利専門家である王維洛氏は、中国共産党(中共)の治水策には、民間人の命を軽視した設計が存在すると指摘した。また、彼は当局の「スポンジ都市」計画という防水システムが、人災を増大させるプロジェクトになっていると述べた。
台風5号は大量の豪雨をもたらし、7月29日から北京、天津、河北などを続けて襲った。大雨により数十万人が被災し、100万人以上が緊急避難せざるを得なかった。特に北京市では7月31日に洪水が発生し、公式発表では少なくとも11人が死亡、27人が行方不明になった。しかし、この公式の数字に対して市民からの疑問の声が上がっている。
8月1日には、北京の昌平と平谷に位置する8つのダムおよび永定河が同時に放流を開始した。これにより河北の涿州などが浸水し、多くの市民が孤立した。涿州市の緊急事態管理局の職員は、上流である北京の放流が涿州の水位上昇を引き起こしたことを認めた。
ネット上の映像によれば、7月31日の午前中、北京の門頭溝地区で数か所に山洪(山津波、鉄砲水)が突然発生し、多数の車が泥流に飲み込まれた。数年前に新設された北京大興国際空港は既に水没し、多くの旅客機が水中に停止していた。
中共の防洪(治水)設計は首都と雄安を保護する一方で、民間人の生命安全を軽視
水利専門家の王維洛氏は8月2日のインタビューで、今年の河北省の洪水は北京より深刻であり、涿州市での洪水は北京房山から流れてきたものであると述べた。彼は次のように説明した。
「中共は北京と同様に天津を保護する一方で、その都市部だけを守り、郊外の農民は守らない。これは中共の防洪設計の暗黙のルールである。例えば、北京の永定河沿いには多くのゴルフ場がある。中共は良田や農地を保護すると主張しているが、実際にはゴルフ場がほとんどの面積を占めている。本当に洪水を放流する場合、人の住まいのない、生命の危険がないゴルフ場を選び、浸水させてから修復すべきで、これは農民の損失よりも小さなものである」
彼は更に次のように述べた。「中共の防洪設計全体は、人民の生命安全を最優先していない。主要な焦点は中央政府が位置する北京や天津の主要都市部、そして習近平氏が力を入れて推進している新しい雄安新区を保護することである」
彼によれば、中共の治下での水害はしばしば2つの災害が同時に発生する。1つは洪水災害、もう1つは都市の排水システムの不十分さから生じる内水氾濫である。今回、北京の門頭溝や房山地区では、これら2つの災害が混在した。
「1つ明らかなことは、北京は洪水を排出している。これは下流の圧力を緩和し、習近平氏が強力に推進する雄安新区の洪水防止対策となっている」と王氏は語った。
彼によると、雄安の防洪システムは新規に構築され、上流からの洪水量が設定された防洪基準を超えないように制限されている。しかしながら、基準を超えた場合、その地域は被害を受けるだろう。上流の堤防が破壊され、洪水が河川を越えて広範囲に氾濫した場合、下流地域にとっては圧力が解放され、洪水がここまで到達しない可能性がある。
習近平氏の「スポンジ都市」計画と災害
首都北京での深刻な洪水により、都市の排水システムの問題が再び注目されている。
2021年7月20日、河南省鄭州市は大雨に襲われ、大規模な被害を受けた。この鄭州市は、計500億元(約9800億円)以上の予算を投じて「スポンジ都市」を建設する計画だった。
習近平氏は、2013年の就任から1年後の12月、「中央都市化作業会議」で、「都市の排水システムの改良は、限られた雨水を保持し、自然力を最大限に活用することを優先すべきだ。自然的な蓄積、自然浸透、自然浄化のスポンジ都市を建設し、70%の都市降雨をその場で吸収利用する」と強調した。
中国の公式メディアによれば、2021年末時点で北京市の開発済み地域の約30%が「スポンジ都市」の建設基準を満たし、スポンジプロジェクトは5237項目進行中で、主要なプロジェクトでは85%の降雨をその場で吸収利用できると報じられている。
しかし、王氏は、「スポンジ都市」という概念を西側の新たな排水戦略と説明し、「できるだけ自然を利用し、川の自然状態を保つことを目指す。都市の駐車場や道路を再度舗装し、透水性のある材料で覆ったり、家庭の雨水貯蔵システムや都市の低地を洪水の滞留地として利用する」と述べた。
「重要なのは、皆が自発的にこれを行うこと。駐車場など、コンクリートで覆われていた地面を芝生や石で間隔をあけて覆い、駐車場を透水性舗装にすることは費用対効果が高い。しかし、中国に導入されると、状況は変わる。2013年に習近平氏が”スポンジ都市”を提唱した。鄭州市は400億元(約7700億円)以上を投じてスポンジ都市を構築したが、それでも洪水を防げなかった」と王氏は指摘した。
王維洛氏は、習近平氏の「地元で70%の降雨を資源として利用する」という発言について、理想的な考え方だが現実的には困難であると述べた。彼によれば、中国の大雨に対して、現地で70%を処理するという考え方は技術的に可能ではあるが、そのコストが高すぎて実現は難しい。また、結果として家庭が浸水する可能性もあると指摘している。
王氏は、理想的な措置が実際に実施可能かどうかについては、共同で議論が必要であると提唱した。しかし、彼は中共の一律的なアプローチに批判的で、公務員がスポンジ都市の建設に取り組まなければ、昇進の機会すら得られないと述べた。
「スポンジ都市のプロジェクトが導入されて、はじめて国家開発改革委員会からの資金提供があり、その資金がプロジェクトを進め、GDPを引き上げる手段となった。現在、鄭州では河川改修にセメントだけでなく花崗岩も使用しており、これがコストを増加させている。中国の水利事業への投資は以前よりも大幅に増えているが、これは主にGDPの増加を目指すためのものである」と彼は指摘した。
王氏は更に、中共の水利事業に対するアプローチが問題だと述べ、プロジェクトを遂行することだけに重点を置いており、その結果については考慮せず、プロジェクトが完了するとそれで終わりにしてしまう。洪水が起きれば、それに対する対策として追加の投資をするだけで、洪水が何故起きたのかについては考慮しないと批判した。
中共の災害対策は「頭が痛ければ頭を治し、足が痛ければ足を治す」
彼はまた、中共の災害対策のアプローチは「頭が痛ければ頭を治し、足が痛ければ足を治す」のようなものだと指摘した。例えば、20世紀50年代に毛沢東が河北地方の大河・海河にダムを建設したことで、海河が干上がり、海水が逆流して天津にまで達した。これに対応するために、中央政府は閘門を急遽建設し、海河と渤海を遮断した。しかし、その結果、海河流域の多くの河川が枯れ、渤海に流れる水がなくなった。
また、1963年の大洪水の際には、海河流域の東川口ダムが決壊し、被害者の数は今だに公開されていない。これに対して毛沢東は直ちに海河の問題を解決するよう指示し、新たに河川を掘って海河が天津に達し、渤海に流れるようにした。しかし、新たに掘られた深い川床により、河北地区の地下水がその下に流れ込み、浅層の地下水がなくなった。これに対応するためには、より深い井戸を掘る必要があり、その結果、1千メートル以上の深さに井戸を掘るなど、更なる問題が生じた。
「海河の開発の歴史は、共産党が無謀に天と地に挑んだ歴史である」と王氏は総括した。
中国中央テレビによると、北京市気象局の記録によれば、今回の降雨量は過去140年間で最高の744.8mmであったと報告されている。
しかし、王氏はこれに対し、「140年間で最大の降雨」という表現は公式な責任回避であり、すべての責任を自然災害に押し付けるものだと批判した。