9月3日の軍事パレード(北京)を目前に控えた中国で、各地に反共のうねりが広がっている。8月29日夜、重慶市の街頭で「打倒共産党」を訴える巨大な映像がビルの壁に50分間投影された。
仕掛けた市民=「勇士」は、警察に突き止められる前にホテルの一室へ直筆の手紙を残し、その内容がSNSで拡散されると、国内外に衝撃が走った。
そこには警察に宛てて「友よ」と呼びかける形で始まり、「私はどの組織にも属さない。共産党の罪悪は数えきれない。できる限り加担しないでほしい」と訴えていた。さらに「共産党の下で迫害を受けなかった家族は一つもない」「いずれあなたがたも被害者になるだろう。やむを得ないなら、銃口を少しだけ上に向けてほしい」と記し、「一人一人が真相に目覚め、立ち上がれば悪は必ず退く」と結んでいた。

勇士は実名で宿泊登録していたにもかかわらず、事前に機材を設置して投影を実行し、終了直後に家族とともに国外へ脱出。すでにヨーロッパに到着したと伝えられており、当局は残された親族への追及を強めているという。
この勇士は以前から中国SNS「微信(WeChat)」の「朋友圈(モーメンツ)」で反共の声を上げており、5月の投稿では四通橋に掲げられたのと同じ反共メッセージを共有していた。寄せられたコメントへの返信では「自分のことをバカだという人もいるだろう。それでも自分はやる! いますぐ燎原の火のごとく燃え広がれなくても、少なくとも燃えたことの痕跡は残せる。火種はいつか燃え広がることを信じている。自分は動物のようには生きたくない、人として光に向かって進みたい」と口にした。

この事件は、2022年10月に北京市内で彭立発(彭載舟)氏が巨大横断幕を掲げた「四通橋事件」を想起させる。今回の重慶での投影もまた、一人の市民が命を賭して声を上げた行動だった。SNSには「よくぞやった!」「中国の希望だ!」と称賛があふれる一方で、「警察があえて遅れて到着したのではないか」「体制内部にも共産党の崩壊を望む者がいる」との憶測も広がり、民衆の共感と敬意を集めている。

近年、中国では経済不振、企業倒産、若者の失業が深刻化し、不満が積み上がっている。人々の反抗は、監視カメラの目が届かない公共トイレの個室に反共メッセージを書き残す「トイレ革命」や、電柱に反共メッセージを貼る「電柱革命」といった小規模なものから、今回のように街全体を揺るがす大胆な行動にまで広がりつつある。

実は昨年2月、山東省済南市でも同様の投影事件が起きていた。高層ビルの壁に「共産党を倒せ、習近平を倒せ」という文字が浮かび上がり、大勢の市民が目撃した。これは活動家の柴松(さいしょう)氏が海外から遠隔操作で行ったもので、警察は現場を封鎖して協力者を拘束したが、実行犯を捕らえることはできなかった。柴氏は「四通橋の勇士に触発された。重要なのは継続的に声を上げることだ」と語り、いまも国外から抗議を続けている。

こうした投影事件が繰り返し起きている事実は、抗議が単なる偶発的な行動ではなく、社会の奥底で連鎖し、形を変えながら燃え広がっていることを示している。強権による統制が強まるほど、その暗闇を突き破る小さな光は確実に広がりつつある。
