毎日新聞 2010年8月10日 0時44分
中国土石流:当局、チベット族の反発警戒
中国甘粛省の甘南チベット族自治州舟曲県で8日未明に発生した大規模な土石流災害。新華社通信によると、9日までに、337人が死亡、1148人が行方不明となっている。今年4月の青海省地震に続きチベット族居住区が被災したことを受け、中国指導部は救援の遅れが被災者の不満拡大につながらないように神経をとがらせており、温家宝首相が現地入りして救援活動の指揮を執っている。原因についても「人災」との指摘があり、指導部に重い課題を突きつけている。【北京・浦松丈二、成沢健一】
◇最大被害の村名、報じられず
「300世帯余りが住む村が埋まった」。新華社通信は土石流が発生した直後に速報したが、翌9日になっても最大の被害を出した村の名前は現場発では報じられていない。具体的な村名を報じることで大勢のチベット族が土砂の下敷きになったことが広まり、政府・軍の救援活動の遅れなどが国内外のチベット族の反発を招くことを警戒している模様だ。
中国中央テレビなどは被災地入りした温家宝首相と少数民族、回族の回良玉副首相の姿を大々的に報じ、チベット族地域の救援を重視する姿勢をアピール。一方、チベット族や民族文化の被害状況の詳細を伝えておらず、災害をきっかけにした民族対立再燃への警戒感をにじませている。
◇「人災」指摘の声も
標高1800メートルの山間部を襲った土石流は幅約500メートル、長さ約5キロに及んだ。舟曲県では以前から土砂災害が発生しており、「鉱山開発などで土壌流出が深刻な状態」との指摘も出ていた。一方、国営メディアは「四川大地震の影響で地盤が緩んでいた」と伝え、「人災」との指摘を否定している。
中国土石流:「4階建ても埋まった」…甘粛省
【北京・米村耕一、浦松丈二】「未明に雷のような音が響き、すぐに激流が襲ってきた」。大規模な土石流に襲われ、死者127人と1300人近い行方不明者を出した中国・甘粛省甘南チベット族自治州舟曲県で、現地の住民は恐怖の瞬間を中国メディアに証言した。現場一帯は一面、泥や岩で埋まり、鉄筋コンクリートのビルが破壊されるなど、土石流の威力のすさまじさを物語っている。
「4階建ての建物が埋まった所もある。無数の人々が閉じ込められている」。住民はこう証言した。300戸が流されたとも言われる現場には倒壊した建物が無数に見える。他の住民は「2階建ての家が土石流にのみ込まれた。中には家族4人がいたが生死もわからない」と肩を落とす。
新華社などの報道によると、救助隊が発生約20時間後に50代の女性を家屋の中から引き上げた。現地入りした温家宝首相も救出現場で、生存者に向かって「動かないで、すぐに助け上げる」と呼びかけた。現在までに倒壊家屋の下や屋上から1242人を救助したという。【関連記事】
脆弱な岩盤、豪雨で一気に崩壊か…中国の土石流
新華社通信によると、国土資源省の専門家らは、付近の地盤はもともと弱く、さらに2008年5月の四川大地震で劣化が進んだと見ており、そこへ7日夜、90ミリ以上の集中豪雨が降り、地盤が一気に崩れたと分析している。昨年末から今年前半に続いた干ばつも、地盤の風化を進ませた可能性があるという。
村壊滅、遺体発見も難しく=捜索難航の土石流現場-中国甘粛省
【北京時事】土石流で死者・行方不明者約1500人を出した中国甘粛省甘南チベット族自治州舟曲県。泥に埋まった現場では重機が使えず、生存者の救出どころか、遺体の発見もままならない。新華社電は「村全体がなくなり、むごたらしくて見るに忍びない」という県幹部の話を伝えた。
新華社電によると、約90世帯が暮らしていた同県の月円村は、一夜のうちに廃虚と化した。「暑い日が続き、お湿りを待ち望んでいたのに、まさかこんなことになるなんて」と嘆く71歳女性。「一家だんらん」を意味する「月円」という名を持つ村は、悲惨な離別の村となった。
消防隊は9日、捜索犬3頭、生命探査装置11台を使って活動。生命反応を感知した4平方メートルの範囲の土砂をスコップで掘った。「この下に親類の一家10人がいるはず」という18歳の少女は作業を見守ってきたが、泥の中から見つけたのは一家の写真だけだった。
家族5人を捜す36歳の男性は「兵士と一緒に掘ったが、発見できない。せめて遺体を見つけて埋葬したい」と泥だらけの手で涙をぬぐった。(2010/08/10-07:00)
中国土石流、死者337人、不明1148人に
【北京=峯村健司】中国甘粛省甘南チベット族自治州舟曲県で起きた大規模土石流の死者は9日夜までに337人、行方不明者は1148人に上った。被災者は4万7千人に達し、2万人が緊急避難した。同州は人口の約56%をチベット族が占め、2008年のチベット騒乱では暴動が起きた。中国政府は手厚い支援で被災者の不満を抑え、民族問題に発展するのを防ぐ構えだ。
「がんばれ、もうすぐ助け出すから」。9日の中国中央テレビでは、現地に入った温家宝(ウェン・チアパオ)首相が救助隊員とともにがれきの上から被災者に呼びかけたり、チベット族の民族衣装を着た被災者の女性を慰めたりするシーンが何度も映し出された。
チベット騒乱の際には、同州で暴徒化したチベット族が、派出所や漢族の商店を襲う被害が出ており、「民族問題の火薬庫」(中国政府関係者)とされる。甘粛省と隣接する青海省の玉樹チベット族自治州玉樹県で今年4月に起きた大地震でも多数のチベット族が犠牲となった。救助の遅れや避難生活が長期化して住民の不満が募れば、一気に政府批判につながる。
約6千人の軍や武装警察を投入して徹夜の救助活動を続けている中国政府は、犠牲者1人に対し見舞金5千元(約6万5千円)の支給を早急に決めるなど、素早い対応が目立つ。ただ、幹線道路は復旧しておらず重機の到着が遅れ、救出活動は進んでいない。自宅が損壊した劉路生さん(60)は電話取材に対し、「行方不明者の多くは助からず、犠牲者は5千~6千人になるかもしれない」と語った。