【石平のChina Watch】空虚マネー…中国、水増し経済成長の悲惨な行く末
中国では今、食料品を中心に物価の急速な上昇が深刻な問題となっている。最新統計資料によると、今年10月における野菜価格は前年同期比で31%増、果物価格は17.7%増、11月の住民消費価格指数は5.1%増と、いずれも25カ月ぶりの「高水準」を記録しているという。
インフレの高進がそれほど深刻なのはなぜか。最近、中国人民銀行(中央銀行)の元副総裁で、現在全国人民代表大会財政経済委員会の呉暁霊副主任の口から実に興味深い発言があった。彼女いわく、「過去30年間、われわれはマネーサプライ(通貨供給量)を急増させることで経済の急速な発展を推し進めてきた」という。
中国政府の統計によると、2009年末時点で33兆5400億元に達した中国GDP規模は1978年の3645億2000万元の約92倍だが、広義マネーサプライ(M2)は1978年の859億4500万元から09年の60兆6千億元と、31年間で約705倍に膨らんだ。
今までの中国の経済成長はまさに札の乱発によって作り出された水増しの経済成長であることが分かるが、すさまじいインフレがそこから生じてくるのも当然の結果であろう。実体経済の裏付けのない「空虚のマネー」がそれほどに乱発されると、当然、貨幣の価値が大幅に落ちてしまうことになる。それがインフレ、物価の上昇となって表れてくるのである。
こうした中で、いかにしてインフレの高進に対処するのかは中国政府にとっての緊急課題となりつつある。中国人民銀行は10月に2年10カ月ぶりとなる利上げを実施し、11月に預金準備率を過去最高水準に引き上げたのもまさにインフレ退治策の一環であるが、12月3日、中国共産党は政治局会議を開き、「適度に緩和的」だった金融政策を「穏健的(慎重)」に変更すると決めたことも注目すべきであろう。
中国指導部はそれで、インフレ退治のための金融引き締め策へ転じるそぶりを見せはじめているが、彼らには依然、思い切った金融引き締めへ舵(かじ)を切る覚悟ができていない。本欄がかねて指摘しているように、本格的な金融引き締め策を採ってしまうと、その副作用として不動産バブルの崩壊と経済の急落が避けられない。インフレの高進を恐れているのと同じ程度に、中国政府は経済の急落も非常に危惧している。