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上海株急落で露呈した 中国経済の深刻な「歪み」

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上海株急落で露呈した
中国経済の深刻な「歪み」
「投資依存型」の成長戦略が生みだした副作用
20130702日(火)石 平
 先月24日、中国の上海株急落のニュースが世界中のマーケットを駆け巡り、関係者たちに大きな衝撃を与えた。
 その日は月曜日で、上海株式市場全体の値動きを示す上海総合株価指数が前週末の終値に比べ5.30%安い1963.23で引けた。心理的な節目の2000を割り込んだのは昨年124日以来約7カ月ぶりである。
銀行の深刻な資金不足
 本来、株価の浮き沈みの激しい中国では上海株が5ポイント程度落ちることはそれほど驚くようなことでもないが、問題はむしろ、今回の株価急落によって露呈した中国経済の抱える深刻な歪みにある。
 急落の直接な原因は、およそ次のようなものである。
 中国の各銀行が近年来の慢性的な資金不足に陥っている中で、「理財産品」と呼ばれる高利回りの財テク商品の償還が先月末に迫っていた。償還に困った各銀行が競って他行から資金調達を急いだ結果、銀行間融資の短期金利が急騰したのである。
 一方、債券の償還に迫られて資金繰りが苦しくなった各銀行に対して、中国人民銀行(中央銀行)は過去のように資金供給などの救済措置を取らず、む しろそれを傍観した。証券市場はこの動きを見て、銀行の破綻を招く金融危機が発生するのではないかとの懸念から、銀行株を中心に売り一色となったため、上 海指数は大幅に下落した、というわけである。
 つまり、この一件から露呈したのは深刻な資金不足を抱えている中国の金融システムの脆さであるが、問題は、貯蓄率の非常に高い中国で13億の国民から膨大な貯金を預かっているはずの中国の各銀行が一斉に「金欠」となったのは一体なぜなのか、である
公共事業投資と不動産投資で成長してきた中国
 その理由は突き詰めてみれば実に簡単だ。要するに中国の各銀行は今まで、預金者から預かっているお金を無責任な放漫融資や悪質な流用などで放出し過ぎたからである。
 過去数十年間にわたる中国の高度成長はある意味で、中央政府と各地方政府の主導下の継続的な投資拡大によって支えられてきたものだ。2011年ま での30年間、中国経済全体の成長率は毎年平均10%程度であったのに対し、同じ11年までの30年間、中国国内の固定資産投資の伸び率は毎年30%前後 であった。
 つまり、経済全体の成長の3倍程度の伸び率で「ハコモノ作り」としての固定資産投資が拡大してきたのだ。とにかくこの数十年間、中国全土で公共事 業投資と不動産投資を中心とする「世紀の大普請」が盛んに行われていて、道路や鉄道や不動産などがむやみに造られてきた結果、経済はそれなりに急成長が出 来た。
企業の設備投資過剰も深刻
 しかし、このような「投資依存型」の成長戦略は当然、多くの深刻な副作用を生み出している。たとえば不動産投資をやり過ぎた結果、江蘇省常州市や 貴州省貴陽市などの中小都市を筆頭に、町一つ丸ごと造っておきながら誰も住まないという「鬼城現象」(ゴーストタウン)が全国に広がっている。不動産開発 大手の万科公司の王石会長も「このままでは不動産バブルが崩壊して社会的大動乱が発生するだろう」との悲鳴に近い警告を発したのはつい最近のことだ。
 公共事業投資の拡大も当然、深刻な投資過剰を生み出している。たとえば江蘇省には、省内に今まで9つも空港が濫造されているが、その中の7つは長 年赤字経営を続けているという。ちなみに、中国全国で造られた180の空港のうち、今や約7割が赤字経営であることが判明している。
 企業の設備投資の過剰も深刻だ。たとえば国家の基幹産業である鉄鋼産業の場合、今までの設備投資拡大によって年間10億トンの鉄鋼を造れる生産能 力を持つようになっているが、実はそのうちの3億トンの生産能力はまったく使い道のない過剰能力であり、設備投資の無駄は実に壮大なものだ。
 そしてよく考えてみれば、上述のような大規模な不動産投資も企業の設備投資も全部、銀行からの融資を頼りに行われてきたものである。各地方政府の 行った公共事業投資にしても、その資金源の大半はいわば「影の銀行」から捻出するものであるが、「影の銀行」の持っている資金はその出どころをたどれば、 やはり正規の各商業銀行からの流出である。
 しかし、企業や地方政府の行う投資拡大は結局上述のような莫大な不動産在庫や企業の生産過剰を生み出したから、このような無責任な投資拡大への銀 行からの放漫融資の多くは当然、回収不可能な不良債権と化していった。貸し出した資金が回収できなくなると、各銀行は当然、大変な資金不足に陥ってしまう のである。
 このようなことは今までにもよくあったが、前任の温家宝首相時代、一般の銀行が「金欠」となると、中央銀行はすぐさま彼らに救済の手を差し伸べて 無制限の資金供給を行った。しかしその結果、中央銀行から放出された貨幣の量が洪水のように溢れてきて深刻な流動性過剰を生み出した。
インフレで死にたくない
 今年410日、中国の各メディアが中国人民銀行(中央銀行)の公表した一つの経済数値を大きく報道した。今年3月末の時点で、中国国内で中央銀行から発行されて流通している人民元の総量(M2)は初めて100兆元の大台に乗って103兆元に上ったという。
 ドルに換算してみると、それは米国国内で流通している貨幣総量の1.5倍にもなるから、経済規模が米国よりずっと小さい中国国内では今、「札の氾濫」ともいうべき深刻な流動性過剰が生じてきていることがよく分かる。
 2002年初頭、中国国内で流通している人民元の量は16兆元程度だったが、11年後の今年3月に、それが103兆元の巨額に膨らんだのは上述の通りだ。11年間で流動性5倍近く増えたことは、世界経済史上最大の金融バブルと言えよう。
 こうした中で、2009年末から中国で大変なインフレが生じてきていることが、今年116日掲載の私のコラム(2013年の中国経済インフレで死ぬか、経済減速で死ぬか 新政権が迫られる究極の二者択一」で指摘した通りであるが、中国経済は今でも、2011年夏に経験したような深刻なインフレ再燃の危険性にさらされている。そして、食品を中心とした物価の 高騰=インフレが一旦再燃すると、貧困層のよりいっそうの生活苦で社会的不安が拡大して政権の崩壊につながる危険性さえある。
 温家宝氏の後を継いだ今の政府はようやくこのような危険性に気がついたようだ。だからこそ中央銀行からの資金供給を抑制する方針を固めた。先月カ月間、共産党機関紙の人民日報が金融政策に関する論文を6つも掲載して中央銀行は資金供給の「放水」を今後はいっさい行うべきではないと論じたのも、中 国人民銀行総裁の周小川氏が先月27日、中央銀行としては今後も引き続き「穏健な貨幣政策を貫く」と強調したのもまさに金融引き締め政策の意思表示であろ う。中国政府はやはり、「インフレで死ぬ」ようことはしたくないのである。
 しかしそれでは、彼らに残される道は一つしかない。要するに「経済の減速で死ぬ」ことである。というのも、中央銀行は今後資金の供給を抑制する政 策を貫いていくと、各商業銀行の「金欠」はこれからも長期的に続くこととなり、一連の恐ろしい連鎖反応がそこから始まるからである。
 「金欠」となる各商業銀行は保身のために今後、企業に対する融資をできるだけ減らしていく方針であろう。とくに、担保能力の低い民間の中小企業へ の貸し渋りは必至だ。そうなると、中国の製造業の大半を支える中小企業の経営難はますます深刻化してしまい、すでに始まった実体経済の衰退は歯止めが効か なくなる。
経済の果てしない転落はもはや止められない
 今まで、各銀行から出た資金の一部はいわば「影の銀行」を通して各地方政府に流れて彼らの開発プロジェクトを支えてきたが、今後、こうした「闇の 資金」の水源が正規の銀行の資金引き締めによって止められると、後にやってくるのはすなわち、「影の銀行」の破綻による金融危機の拡大と、多くの地方政府 の財政破綻であろう。
 「金欠」となった各商業銀行は今後、深刻なバブルと化した不動産部門への融資も大幅に減らすのであろう。回収期間の長い個人住宅ローンも当然融資 抑制の対象となる。そうなると、資金繰りが苦しくなっていく不動産開発業者はいずれ、手持ちの不動産在庫を大幅に値下げして売り出して投資資金の回収に励 むしかない。一方、住宅ローンが制限される中で不動産の買い手がむしろ減っていくから、その相乗効果の中で不動産価格の暴落は避けられない。今までは金融 バブルの中で何とか延命できた不動産バブルは今度こそ、崩壊の憂き目に遭うのであろう。
 中国著名の経済学者の馬光遠氏は先月26日、「(経済危機の)次の爆発地点は不動産部門だ」との警告を発したのもまさにその故である。経済専門紙 の「証券日報」も25日、銀行の「金欠」のなかで不動産開発業者の資金繰りがますます苦しくなるから不動産価格の下落が不可避との見方を示す論文を掲載し ている。
 どうやら不動産バブルの崩壊はもはや避けて通れないであろうが、崩壊が一旦目の前の現実となればそれは当然、さらなる金融危機の拡大とさらなる実 体経済の衰退を招くこととなるから、経済の果てしない転落はもはや止められない。「2013年の中国経済の死」という、今年年初の私のコラムのささやかな 予言は不幸にも(?)当たることになりそうである。

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