パルデンの会

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まだまだ日本のマスコミは深刻に捕らえていない中国状況

まだまだ日本のマスコミは深刻に捕らえていない中国状況
こんなことは序の口(初級講座)

【第149回】 2014年4月11日 姫田小夏 [ジャーナリスト]

投資失敗に「騙された!」と熱くなる中国人民
不動産や理財商品が国家崩壊の引き金に!?

 分譲住宅を購入するとき、足を運ぶのがモデルルームだ。そのモデルルームにはたいてい、完成時を予想した住宅と街区の模型が設置されている。
 その模型がある日突然、暴漢らに襲われた。高層住宅をかたどった多くの模型は見るも無残に“倒壊”し、模型を囲うガラスも粉々に砕け散った。
 この暴漢の正体は、このマンションをすでに購入し居住している所有者たちだった。

かつて日本も経験した不動産暴落
中国の所有者たちの反応は

 場所は浙江省杭州市、マンションの名称は「天鴻香鯀里」。破壊活動時のスローガンは「住宅販売は詐欺だ!金を返せ!」。
 怒りの理由は、次期分譲区画の販売価格が、自分たちが購入した区画よりも3割近く安価、つまり値下がりしたというものだった。

 振り返れば日本も、不動産価格の下落を経験した。1990年夏までは、住宅価格は一本調子で上昇し、モデルルームには購入検討者が大挙して押し寄せ、申し込み住戸の抽選競争率が10倍ということも珍しくなかった。それが9月に入ると、客の姿が忽然と消え、それ以来、不動産価格は下落局面に突入した。

 だが、当時の購入者はどこかで「自己リスク」を認識していた。不動産価格は上昇するときもあれば下落するときもあり、需要と供給で価格が決定されているという「市場原理」も認識していた。従って、こうした抗議行動が表面化することはほとんどなかった。ましてや、物件購入者がその販売拠点を破壊する行為になど及ぶこともなかった。

 お国柄の違いや個々の事情の違いもあるだろう。中には、飲まず食わずで爪に火をともすようにして住宅資金を貯めた人もいるだろう。財産価値の目減りで怒り心頭に発し破壊行為を行うというのは、彼ら中国人が「住宅」という固定資産に対して、我々日本人が想像も及ばないような“恐るべき執念”を持っていることを物語っている。

「住宅を買い取れ」「金を返せ」
中国では珍しくない集団抗議や破壊行動

 中国では不動産価格が下落して所有者が暴挙に出る沙汰は、今に始まったことではない。
 2010年代を振り返っただけでも無数にある。特に不動産市場が冷え込んだ2011年は、全国各地で所有者たちの抗議活動が活発化した。

 中国では住宅開発を行う場合、一団の敷地に複数の高層マンションを建設し、複数に期を分けて図面売り(青田販売)するのが一般的だ。価格下落に対して抗議活動を行うのは、たいてい分譲初期に所有権を手に入れた世帯であり、怒りの矛先は分譲を行ったデベロッパーに向けられる。

 2011年10月22日、上海市嘉定区では、突然の値下げに既購入者たちが横断幕を掲げて街を練り歩いた。「苦労して貯めた金を返せ」がシュプレヒコールだった。
 同年11月は安徽省蕪湖市で、新規分譲価格の大幅下落に対し、100人を超える所有者たちが怒り狂ってモデルルームのエントランスを破壊した。
 さらに同年12月、浙江省杭州市では、価格下落に激怒した既購入者がモデルルームを襲撃し、住宅模型を叩き壊した。
 2012年4月は、安徽省合肥市でも価格下落に既購入者たちの怒声が上がった。下落した住宅価格に憤慨した既購入者たちは、「誓死維権(命にかけて権利を守る)」と印刷された揃いのTシャツで団結、警戒線を敷くガードマンともみあいになった。
 2012年8月、広東省仏山市では、住宅の瑕疵をめぐり既購入者らが買い取りを迫った。

 これらの抗議活動の中で目立つのが、「住宅を買い取れ」、あるいは「金を返せ」という要求である。当然、所有者は売主との間で合法的に契約を結び、引き渡しを受けているのだから、その後の市況が好転しようと悪化しようと、それは“自己リスク”であることは中国でも同じはずなのだが、頭に血が上った彼らにはこうした市場原理など、まったく通用しない。

 一方で、デベロッパーの売り方に問題がなかったとは言い切れない。販売時によくあるのが、「こんな価格で買えるチャンスはもう2度とない」とか「今後確実に値上がりします」などと、危機感を煽ったり期待を持たせるような、金銭的損得を絡めたセールストークだ。

 不動産(住まい)は本来、通勤通学などの立地交通性や、買物や環境などの生活利便性など、個々に重視する「ライフスタイル」を重視し選択するべきだが、あたかも理財(財テク)商品を売るかのようなセールストークに、購入検討者が乗せられてしまった可能性は大いにあるだろう。

 中国では過去数年にわたり、住宅価格の上昇局面が続いた。すでにその価格は実体からかけ離れた「虚の値段」となってしまった。つまりそれは「不動産バブル」であり、購入検討者もとっくにこれに気付いていた。疑心暗鬼になる心理を唯一納得させたのが、「これからまだまだ上がる」の一言だった。怒り心頭の既購入者たちは、自己責任とはいえ、歪んだ社会が生んだ犠牲者でもあった。

デフォルト騒動の理財商品の一種、
信託商品でも激しい抗議

「売り方に問題」と言えば、理財商品の販売をめぐってもそれが顕在化した。
 今年1~2月にかけて、「中国の理財商品、ついにデフォルトか」と日本でもニュースで報道されヒヤリとさせられたが、そのうちのひとつが、信託商品「吉林松花江77号」である。
 これは、満期に投資家に償還されなかった信託商品であり、投資家たちの怒号はこの商品を販売した中国建設銀行山西省支店に向けられた。何十人もの投資家が同支店を囲み、左右数メートルにも及ぶ巨大な横断幕を掲げ、シュプレヒコールを上げた。
 こうしたケースでは一般的に、銀行は法的責任を問われない。むしろ、市場経済の原理原則に基づけば、「リスクを承知の上で購入」した投資家自身が自己責任を負うべきなのだ。
 だが、吉林松花江77号の件では、それだけでは片づけられないものがあった。なぜなら、販売代理の銀行に「過失がなかった」とは言い切れないからだ。過去に行われた一連のやり取りからは「銀行が押し売りした」形跡すら見て取れるのだ。

 販売当時、銀行側は「投資先の企業はトリプルAで優良、償還もまったく問題ない。リスクなしの高利回り商品」と強調した。現地報道からは、銀行側が投資家をおだて、持ち上げて資金を集めた様子がうかがえる。「資金の振り込みを急がされ、契約はその後だった」という証言もある。

 複数の投資家たちは、「銀行が審査したので信用できる商品」だと疑わなかった。そのうちの一人が現地紙の取材に対してこうコメントしている。
中国建設銀行は、我々の信用を利用したのだ」
中国建設銀行といえば、中国四大商業銀行の1つである。それが販売し、太鼓判を押す商品に、誰が疑念など持ち得ようか。中国の投資家たちは、国家ぐるみの詐欺に巻き込まれたも同然と言える。

理財商品は市井にも蔓延
しわ寄せは立場の弱い老人に

 私財の目減りに憤死も同然の、中国投資家たちの怒声を紹介したが、その一方で、力尽きる庶民もいる。老人がそれだ。
 筆者は上海で年金生活者の60代の男性と出会った。この初老の男性もまた理財商品に高い関心を持つひとりである。
 結論から言えば、この男性の財テクは失敗に終わった。それをつまびらかにするには相当苦しいものがあったのだろう。彼は多くを語らなかったが、その内容はおよそ次のようなものだった。
 ある投資会社が、自分たちの住む町でレストランを貸し切って食事会を開いた。この男性も近所の友人に誘われてこれに参加した。参加者はみんな自分のような老人ばかりだった。彼らは食事会を開く主催者の目的を十分に理解せず、出されたご馳走を前にいい気分になっていた。
 当節の老人に共通するのは、常に懐のお金が十分でないことであり、また、彼らにとって、食事に招待されることは何よりもうれしいことだ。おいしい思いをした上、お金も増える、この投資会社の謀略はそんな老人心理のど真ん中を突くものだった。
「その後、みんななけなしの金で、この投資会社の商品を買った。自分も買った」

 問題はその後に起こった。いつの間にか投資会社は姿を消し、販売を担当した人物とは連絡が取れなくなったのである。「逃げられた!」と気づいても後の祭りだった。高利回りと食事接待につられて、この老人は20万元(約300万円)を投じたが、それはあっという間に消えてしまったのだ。

 老人たちには法律知識もなく、また立ち上がる力もなく、あとは泣き寝入りをするだけだ。
 恐ろしいことにこの国では、理財商品は庶民生活にも相当浸透してしまっている。市井から上がるのは「騙された!」の声ばかりだ。

 騙し騙されのこの社会、生き馬の目を抜くとはまさにこのことだ。そんな世知辛い世の中で誰もが疑心暗鬼になるが、それでもやはり騙されてしまう。そして「騙された」とわかったときに、彼らは恐るべきエネルギーを発揮する。ひとたび自己資産が目減りしようものなら、民衆は間違いなく大暴れするのは上述したとおりでもある。

 こうした民衆の大暴れが、国家的クライシスの引き金になることさえあるかもしれない。そのカギを握るのが、民主化要求運動などではなく、「不動産の下落」や「理財商品の未償還」だとしたら、危機はかなり身近にまで迫ってきているといえるのではないだろうか。