パルデンの会

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中国の過​剰在庫も世界経済の重荷に


宮崎正弘の国際ニュース・早読み(中国の過​剰在庫も世界経済の重荷に)


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宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成27年(2015)10月30日(金曜日)参
       通算第4709号   (特大号)
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 設備投資過剰という中国バブルは「鬼蔽」。過剰在庫をたたき売る
  AIIBも、BRICSも「一帯一路」のそのために設立したのだ
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 KFC(ケンタッキー)と「ピザハット」が中国から撤退する。
業績不振で採算があわないから?
 正確にいうと、親会社の米食品大手「ヤム・ブランズ」は別会社に中国KFCピザハットの経営を移管し、本社事業から分離するという奥の手を使うのである。つまりファストフード業界さえ、中国では不振なのである。

「これからの世界経済を牽引する国々は?」という電子版アンケートによれば、第一は日米欧の先進国(25・9%)、ついでインド(19・8%)、三位が「先進国と新興国の両方」(19・2)、四位は東南アジア(18・4)、そして中国は僅か8・2%で五位(日経クイックボート、2015年10月22日)。
 この調査でも明らかになったように中国への期待は突然死を迎えたかのように世界的規模で萎んでしまった。

 上海株暴落と人民元切り下げを契機に外国資本はほぼ一斉に中国から撤退態勢にはいり、海外華僑のあらかたは資金を引き揚げた。
 猛烈に中国から流失するドルは、とうに外貨準備高を切り崩しており、小誌でも指摘したように海外旅行の外貨持ち出しを制限し、連銀カードの上限を設定した。だから、爆買いも、近日中に「突然死」を迎えるだろう。

 げんに日本の財界は数年前から「チャイナ・プラス・ワン」を標語に中国での生産活動を縮小もしくは撤退し、アセアン、インドへ進出を加速させてきたが、逃げ遅れた企業も夥しく、上海株暴落に連動してJFE、コマツ資生堂伊藤忠などは株価下落に見舞われた。

 中国の景気減速によって各社は利益を下方修正したが、なかでも日立建機は50%もの減益を記録した。キヤノンは12%の減益となった
 中国企業の経費削減で事務機、コピィ機器などが売り上げ低迷、また工作機械が頻度激しく使うベアリングも注文が激減して、日本精工もかなりの減益を強いられた。

 日本企業ばかりではない。
金融バブル時代にとことん利益を上げていた米国の金融関連企業も軒並み、中国失速の所為で足をすくわれ、経常利益を減らした。
 筆頭はゴールドマンサックスで、18%のマイナス(「トムソンロイター」が調べた2-15年7月―9月決算の速報による)、同、モルガンスタンレーが13%減、JPモルガン・しぇー素が6%、シティグループが5%、バンカメが2%となった。


▼深刻な在庫滞留とダンピング輸出

 さて、次なる難題は、ありあまる在庫処分である。
 鉄鋼、アルミ、塩化ビニール、板ガラス、そして自動車、精密機械部品等々。石炭も同類だが、倉庫に積み上がり、企業城下町は従業員を解雇している。大量の失業は町に溢れ、新しい職場を求めて都会へと散った。

 典型は鉄鋼である。
 2014年、世界鉄鋼協会の累計で実需より1億トンも多い8億2269万トンの鉄鋼を生産した中国は背に腹は代えられず、ダンピング輸出を開始し、うち2096万トンをアセアン諸国へ、381万トンをインドへ売却した。安値攻勢はWTO規則に抵触するが、被害企業が提訴し、結審されるころに当該企業は倒産している。

このあおりを受けたのは日本と韓国、そしてインドだった。
 日本からアセアンへの鉄鋼輸出は1205万トン、インドへ157万トンとなったが、中国の輸出攻勢でインドのタタ鉄鋼はリストラに追い込まれ、タイのSSIはとうとう経営破綻を迎えた。

ベトナムでは、鉄鋼の安値でくず鉄価格が暴落し、くず鉄業者は休業状態に陥ったという。
末端ユーザーは粗鋼やコイルなどは、安ければ買う。資本主義論理の宿命である。

 造船はどうか。フェリー事故であきらかにように軍艦はつくっても、フェリーなどを造れないのが造船王国の韓国と中国である。
 中国の造船城下町だった江蘇省南通市では「南通明徳重工」が倒産した。このため8000名の従業員が路頭に迷い、バブル期に開店した豪華ホテルには客がひとりもおらず、居酒屋、レストランは閑古鳥で廃業。まるでゴーストタウン化した。
 鉄鋼と造船、あるいは軍事産業が集中するのは遼寧省通化、鉄嶺、営口、大連そして胡露島など。南へ降りて青島、上海などとなる。

 こうした中国の在庫処理的な安値輸出は世界の貿易秩序を破壊する。以下、同様にアルミ、セメント、石炭、そして精密機関部品、スマホ、液晶の分野も、中国は在庫処分に迫られる。
つまり各国の当該産業は大打撃を蒙ることになるのだ。

 ならばスマホなどで液晶を生産する台湾系の鴻海精密工業などはどういう処置を講じているのだろう
 鴻海は、じつは早くから工場の労働者不足になやみ(なにしろ最盛期、中国全土で120万労働者、同社人事部は毎日二万人が辞め、二万人が就労するという一種「職業安定所」(いまの言葉で言う「ハローワーク」)と化けていた。

 その奴隷工場のごとき悪魔企業の実態は、映画でも中国の暗部として取り上げられた。
 そこで、ロボットを大量に導入し、FA(ファクトリーオートメーション)を大胆に展開してきたのだ。結果はファナック、京セラなどロボット増産となり、やがて経済失速で両社の株価は暴落したままである。


 ▼新興工業国軍にも甚大な悪影響

 投資は中国からロシアから、そしてアセアンの一部から逃げ去り、逆に投資が増えているのはインドである。

 国際金融協会が予測する各国からの資本逃避は中国が抜群の一位で、同協会の数字でもプラスマイナスがマイナスの4776億ドル、以下韓国から743億ドル、ロシアから575億ドル、サウジアラビアからも854億ドルとなる。マレーシアも政治不安の襲われて不況入りしており、216億ドルが逃げた。
 とりわけ中国は海外からの直接投資が激減し、富裕層が海外へ資産を移転し、おまけに中国人ツアーの爆買いによるドル資産流失が加わって金融収支は赤字となっている。

 対照的にインドへの海外投資によるドル流入はプラスで475億ドル。ほかに海外からの流入が増えているのはブラジルとインドネシアなどで、これらを合計すると、新興工業国家群からは、じつに8000億ドルが流失したことを意味する。

 かくして「中国は非効率的な投資を積み上げて、実需を上回る過剰生産能力を築いた」のだが、その結果は「在庫の山を築き稼働率を落とし、価格低下を招いてこれがデフレ圧力となる」(渡邊利夫氏、産経。10月27日)

 果てしなき蟻地獄に中国経済は陥没した。だから拙著の新刊タイトルも『「中国の終わり」にいよいよ備え始めた世界』としたのである。