中国政府は海外メディアの取材を厳しく制限しているチベット自治区に16~20日、10カ国の11社から成る取材団を受け入れた。19日に中心都市ラサで記者会見した自治区共産党委員会のトウ小剛・副書記は、9月1日に成立50周年を迎えた自治区の発展ぶりを強調するとともに、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(80)の後継問題で強硬姿勢を示した。インド北部ダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府は中国政府の関与方針に猛反発しており、後継問題が再びチベットを揺るがす可能性をうかがわせた。【ラサで石原聖、ニューデリー金子淳】
自治区では2008年3月にラサで起きた大規模暴動以降、海外メディアの取材が制限されている。日本メディアが現地入りしたのは、11年に丹羽宇一郎駐中国大使(当時)の視察同行が認められて以来となる。英米露などの記者ら14人が指定された取材先をバスで回る自由度の低い形式だったが、08年の暴動で衝突のあったジョカン寺(大昭寺)周辺も公開された。寺院前の広場では大勢の信者が地面に体を伏せる「五体投地」を繰り返して祈りをささげていた。11年には小銃を持った武装警察が隊列を組んで周囲を巡回していたが、今回は武装警察の姿は見られなかった。
表面上は安定しているように見えるが、亡命政府は宗教的な抑圧が続いていると批判する。政治犯の釈放や国連の介入を求め、ニューデリーで今年秋に1カ月のハンストを実施した非政府組織「チベット青年会議」の幹部は「表現と信仰の自由がなく、自宅にダライ・ラマの写真を掲げることさえできない。監視や拷問も続いている」と語る。
さらに今後の火種となりそうなのがダライ・ラマの後継問題だ。記者会見でトウ副書記は「国の法律に従って厳正に対処する」と述べ、中国政府が認定を主導するとの見通しを示した。チベット仏教には高僧の後継者として生まれ変わりとされる子供を探す「転生制度」があるが、中国政府は07年、転生には政府の事前承認を求めると定めている。
亡命政府には、別の高僧パンチェン・ラマ10世の後継者選びを巡る苦い経験がある。1995年にダライ・ラマが後継者に認定した少年が行方不明になり、その後、中国政府が別の少年を後継者として選んだのだ。ダライ・ラマは近年、「90歳になったら決める」と存命中に後継者を指名する可能性に言及し、転生制度の廃止も辞さない構えを見せる。亡命政府は今年9月、「もしも中国がダライ・ラマの転生者を選ぶならば、国際的な批判を招くだろう」との声明を発表した。
それでも中国政府が後継問題で強引に介入した場合、自治区内のチベット族がどう受け止めるかが焦点となる。08年の暴動に僧侶が参加したとされるラサの有力寺院・セラ寺のロブサン・ゲンツェン管理委員会副主任は「衝突の再発はもうないと考えるか」と取材団から問われると、「我々が願うのは平和だ」と述べ、明言を避けた。