安倍晋三首相が、岸田文雄外相の年内訪韓を決断した背景には、韓国での二つの訴訟結果が大きく影響した。22日に確定した産経新聞前ソウル支局長の無罪判決と、23日の韓国憲法裁判所による日韓請求権協定の違憲訴訟の訴え却下だ。いずれも韓国側からの関係改善に向けたメッセージと日本側は受け止めた。「年内妥結」を強調してきた韓国側から投げられたボールに外相訪韓という形で応え、最終決着を探る姿勢をアピールすることを意識したとみられる。
「今年は50年の節目だ。安倍首相も朴槿恵(パク・クネ)大統領も意識している」。日韓外交筋はこう強調。政府関係者は二つの訴訟結果に関して「韓国も努力しているということで、年内にもう一度会談をやっておこうということになった」と語った。政府内では「年内」に何らかの成果を打ち出すため、岸田氏訪韓時に尹炳世(ユン・ビョンセ)外相との間で慰安婦問題に関する宣言文や声明などをまとめる案も浮上している。
政府は6月の日韓外相会談以降、慰安婦問題に関する外務省局長協議などで韓国側に対し、アジア女性基金のフォローアップ事業の拡充や、安倍首相が元慰安婦に手紙を送ることなどを提案。一方でソウルの日本大使館前に設置された慰安婦問題を象徴する少女像の撤去などを求めてきた。岸田氏は28日にも行われる外相会談で、これらの提案をベースに協議に臨むとみられる。
ただ、政府は1965年の日韓請求権協定に基づき「解決済み」との基本的立場は崩さない構え。さらに、後で蒸し返されないよう「完全かつ不可逆的」(政府高官)な形での決着を重視する。首相は11月のBSフジの番組で、慰安婦問題について「大切なことは、お互いに合意をすれば、この問題は再び提起しないということだ」と強調している。官邸関係者は24日、「最終的には朴大統領が『決着』を宣言しないといけない」と述べ、最終決着には首脳レベルでの合意が必要だとの見方を示した。【小田中大、細川貴代】
岸田外相の訪韓、「韓国側配慮に応じたもの」と韓国外交筋 頑強な対日世論で着地点は見通せず
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