2019年7月16日(火)掲載NHK
大規模デモ10年 追い詰められるウイグル族
2009年7月に、中国西部の新疆ウイグル自治区で発生した大規模なデモ。自治区には1000万人以上のウイグル族が住み、そのほとんどがイスラム教を信仰しているが、政治・経済面で漢族の力が強まったことに加え、中国政府の宗教政策も抑圧的だとして反発が強まり、暴動へと発展した。あれから10年。暴動のあとに発足した習近平指導部は、「テロ対策」の名目で、ウイグル族への締めつけを強化してきた。特に数年前からはウイグル族を次々と拘束し始め、その数は100万人以上とも指摘されている。またウイグル族の中には、留学や仕事などで海外に暮らす人もいて、日本にも2000人から3000人ほどが住んでいると言う。そして今、海外で暮らすウイグル族に、当局から圧力がかけれている実態が明らかになってきた。
“故郷の家族が拘束” ウイグル族の訴え
2019年7月6日、都内で開かれた集会。日本で暮らすウイグルの人たちが、次々と支援を求める声を上げた。「兄が収容されて以来、まったく連絡が取れていません」(男性)。「皆さんの力が欲しいです。力を貸してください」(女性)。
集会に参加したアフメット・レテプさん(41)は、これまで公の場で語ることがなかった、自らの苦境を訴えた。「自分の親が3年間収容されたまま、一切連絡が取れないんですね、どこにいるか分からない。電話もできない、SNSもできない、何もできない」(アフメットさん)。都内に住むアフメットさんは25歳の時に来日し、都内のIT関連の企業で働いている。10年前には、デモを行った市民が激しく鎮圧される様子に強い衝撃を受け、日本で中国に抗議する活動に参加した。しかし、その後は故郷の家族に危険が及ぶことを恐れ、表だった行動は控えてきた。そのアフメットさんが再び声を上げたのには“ある理由”があった。一昨年の2017年、故郷で暮らす父と弟をはじめ、親族12人が公安当局に拘束された。また母親とも去年2月を最後に、連絡が取れなくなった。そして、その1か月後の3月、今度はアフメットさんの携帯に、突然父親の映像が送られてきた。送り主は「地元公安当局」を名乗る男だった。
1年ぶりに見た父親は、いつもかぶっていた伝統の帽子を脱ぎ、イスラム教徒の高齢男性が生やすひげもそり落としていた。そして「長く連絡できなかったが、役場の施設で勉強に励んでいる。体も健康です」と言うのだ。しかし、その言葉とは裏腹に顔はやつれ、その姿は変わり果てていた。アフメットさんは即座にこう思ったという。「これは私が知っているお父さんじゃない。全然違う。別人だ。父はこんなことを言う人ではありません。言わされているんです」(アフメットさん)。
国際社会は非難 中国政府は反発
アフメットさんの生まれ故郷、新疆ウイグル自治区で今、何が起きているのか。2018年、アメリカの政府系メディアが、施設に収容されたウイグルの人たちとして伝えた映像がある。そこには手錠をかけられた男性たちが、中国共産党をたたえる歌を歌う姿が映っている。欧米や国際的な人権団体は、徹底した思想教育による人権侵害が横行しているという懸念を強めている。2019年3月にアメリカ国務省がまとめた人権報告書は、「推計で80万人から200万人が施設に収容されている」と指摘している。
一方、中国は激しく反発。中国外務省の耿爽報道官は2019年7月11日に行った記者会見の中で「中国に対する根拠のない批判と中傷だ。新疆では2年間以上テロ事件は起きておらず、社会は安定し、民族は団結している。人々の幸福感や安心感は大幅に高まっている」と反論した。そして中国政府は、施設で行われている行為は「過激思想の影響を受けた人に対する職業訓練だ」と説明している。海外メディアには、入所者が中国語や料理、絵画などを学ぶ様子を公開。施設への収容を正当化する情報を積極的に発信している。
脅迫に屈せず日本から訴え続ける
一方、都内で暮らすアフメットさん。父親の映像が送られてきた1か月後、同じ「地元公安当局」を名乗る男から信じられないような音声メッセージが携帯に送られてきた。
「日本のウイグルの組織に直接参加しないにせよ、状況は把握しているはずだ。我が国の立場に立って協力してくれれば、家族の問題はすぐに解決できる。私の言っている意味が分かりますよね?」(音声メッセージ)。故郷の家族をいわば人質にして、日本にあるウイグル族の組織の内部情報を流すというスパイ行為に協力するよう要求してきたとアフメットさんは受け止めた。精神的に追い詰められたその時の気持ちを、涙を流しながらこう語った。「断れば家族がさらに迫害を受けることは明らか。でも協力すれば自分自身が人間として許せない」。家族の身を案じるアフメットさんは、1年以上、受け取った映像やメッセージを公にすることは控えてきた。しかし、沈黙を続けていても、事態は変わらないと考え直し、NHKの取材で公開することにしたという。
2019年6月、大阪で開催されたG20サミット。市民団体が会場で開いた集会に、アフメットさんの姿があった。国際社会の協力を求めようと考えたのだ。「日本のすぐそば、すぐ隣の中国で人類史上最悪の強制収容が行われている。親に電話1本できないまま3年目に入ろうとしている。これが今起きている現実なんです」(アフメットさん)。1日も早く家族の無事を確かめ、再会することを願うアフメットさん。ウイグルの人たちが置かれた状況を訴え続けたいと、私たちの取材にこう決意を語った。「一人一人がやはり自分から思い切って行動を起こさないと、中国はこの政策を改めることはないと思うので、国際社会やメディアを味方につけるために、これまで以上に力を入れて頑張りたい」。
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