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中国は人権問題を巡る他国からの非難などをかわすべく、国連での立場を密かに強めようとしている。一帯一路構想への支持を国連決議に盛り込ませ、中国の外交官を下部機関の要職に就かせる。欧米諸国は危機感を募らせるが、独裁制を取る小国の中には米中2大国の拮抗を歓迎する向きもあるかもしれない。

中国の習近平国家主席(右)と国連のグテーレス事務総長(写真=新華社/アフロ)

 中国は国際連合安全保障理事会において拒否権を持つ。だが、あえて目立つ危険を控えるようになって久しい。最後に単独で拒否権を発動したのは20年前のことだ。

 しかし舞台裏では、中国の外交官は積極的に力を振るおうとしている。欧米の外交官も、これに応戦する強い意思を見せる。冷戦終結後、久しぶりに国連が、国際秩序を巡り対立するビジョンの戦いの場となっている。

英国のカレン・ピアース国連大使(左)は、中国ウイグル問題で強い姿勢を示した(写真=AP/アフロ)

 今年10月、両陣営の戦いがいかに激しくなっているかを示唆する出来事があった。中国がイスラム教徒の少数民族ウイグル族の人々を数多く収容している件を巡り、対立が生じたのだ。珍しく英国が主導的役割を果たし、中国がこれまで取ってきた人権に対する姿勢を非難した。

 英国のカレン・ピアース国連大使は、中国の新疆ウイグル自治区にある強制収容所に国連が制限なく立ち入ることができるよう求める声明を発表した。米国を含む22カ国がこれに署名した。

 その後、議論の応酬となり、中国の外交官は英国の声明に対抗する声明への署名を得るべく、中東のイスラム教国を中心に独裁体制を取る数十カ国を説得した。新疆における中国の行動を、テロと戦い、宗教的過激派を撲滅しようとする賢明な取り組みであると称賛する声明だ。

中国が抱く2つの狙い

 脅しと報復も飛びかった。中国の外交官はオーストリアの外交官に、英国の声明に署名をするならオーストリア政府が求めている新しい北京大使館の用地が得られなくなると伝えたという。それでもオーストリアは署名した。

 やはり署名をしたアルバニアに対しては、北京で予定されていた両国共催の行事を取りやめた。

 英国のジョナサン・アレン国連副大使は声明を発表した日、「多くの国が今日、多くの圧力を受けている。我々は、自らが信じる価値観と人権のために立ち上がる必要がある」とツイートした。

 中国が関わりを強めようとしている国連活動は、人権から経済開発関連まで多岐にわたる。そこには主に2つの目的が見て取れる。一つは中国共産党の支配に対する他国の批判を封じ込め、党にとって安全な空間を作り出すことだ。中国はかねて、そうした「干渉」を受けると気色ばんで反論したものだが、今では、より強硬な対応を見せる。

 もう一つの狙いは、国連文書の中に習近平(シー・ジンピン)国家主席が用いる言葉遣いを反映させることだ。国連安保理に出席するある外交官は、中国は「中国の政策を国連の政策にしようと」力を注いでいると指摘する。

 ドナルド・トランプ米大統領は国連などの多国間組織を嫌っている。中国は、そのおかげで、中国がそうした組織を操る余地が生まれたと理解している。習国家主席が2012年に政権トップに就任して以降、中国が負担する国連分担金の額が急増した。今では通常予算でも平和維持活動予算でも、その分担率は米国に次ぐ2位に着ける。