「国に貢献せよ」と迫られた…中国人元留学生、偽名でウイルス対策ソフト購入図る
警視庁
中国籍で30歳代の元留学生の男が、中国軍人の妻からの指示で日本企業向けのウイルス対策ソフトを不正に購入しようとしていた疑いが強まり、警視庁公安部は、詐欺未遂容疑で男の逮捕状を取った。男は既に中国に帰国しており、国際刑事警察機構(ICPO)を通じて国際手配する方針。 【図解】中国軍の関与が疑われる事件の構図
捜査関係者によると、元留学生は2016年11月、実在しない日本の企業名や担当者名を使い、東京都内の会社が販売している日本企業向けのウイルス対策ソフトを購入しようとした疑い。会社側が不審点に気づき、販売を見送ったという。
公安部は、中国軍側がウイルス対策ソフトを入手して分析し、日本企業のシステムの脆弱(ぜいじゃく)性を探ろうとしていたとみている。
宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))や航空関連企業などが16年にサイバー攻撃を受けた事件の捜査過程で、中国軍人の妻が元留学生らにレンタルサーバーを契約させていた疑いが浮上。公安部の捜査で、妻がSNSやメールで元留学生に指示し、ウイルス対策ソフトを購入しようとしていたことも突き止めたという。
妻は元留学生に対し、「国に貢献しなさい」「国が守ってくれる」などと迫っていたとされる。
JAXAなどが狙われた事件では、レンタルサーバーを偽名で契約したとして、公安部が今年4月に中国共産党員の30歳代の男を私電磁的記録不正作出・同供用容疑で東京地検に書類送検。男は10月に不起訴(起訴猶予)となっている。
宇宙航空研究開発機構(
警視庁公安部によると、中国共産党員で30歳代のシステムエンジニアの男(私電磁的記録不正作出・同供用容疑で書類送検)と、元留学生の2人は、それぞれ偽名を使って日本のレンタルサーバーを契約。サーバーは2016年6月~17年、中国のハッカー集団「
捜査関係者によると、2人のうち元留学生に指示を送っていたのは、中国在住の女で、その夫は中国軍のサイバー攻撃部隊「61419部隊」に所属していた。
女は、中国在住の知人から、日本で学ぶ留学生の男の紹介を受けていた。公安部がサイバー攻撃の捜査を本格化させた際、男は既に帰国していたが、来日した際に公安部が任意で事情聴取。男の携帯電話に残されていたSNSやメールの記録から、女とやりとりしていた内容が判明した。
女は男に対し、レンタルサーバーを偽名で契約するよう求めたほか、日本製のUSBメモリーを購入するよう要請。日本製品の安全対策などを研究・分析する目的だったとみられ、男は実際にUSBを購入して中国に送っていた。
その後、女の要求は徐々にエスカレートし、日本企業を装って日本企業しか購入できないセキュリティーソフトを買うよう指示。男は購入を申し込んだが買えず、「これ以上、ウソをついたら逮捕されてしまう」「いけないことだ」などと伝えたが、女は「国に貢献しなさい」「(軍に所属する)夫の出世のためだ」などと迫ったという。
中国では17年6月、国民や企業に国の情報活動への協力を義務付ける「国家情報法」が施行されている。自国以外に居住している国民も対象で、公安部は、女が国家や軍の力を背景に、男を取り込んでいったとみている。
公安部は、元留学生と女についても、サーバーを偽名で契約した私電磁的記録不正作出・同供用容疑などで捜査している。