これから大国に起こる「ヤバすぎる事態」…「北京五輪後に中国は崩壊する」といえる根拠
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21世紀は中国の世紀だと言われてきたが、無理を重ねて、急激に膨張した中国に異変が生じ始めている。前編記事『ゼロコロナへの疑問、米中衝突の危機…「北京五輪後に中国は崩壊する」といえる「これだけの理由」』では、7つの根拠のうち、ゼロコロナ政策の失敗や米中対立、習近平の暗殺の可能性についてお伝えした。後編でも引き続きその根拠を示そう。 【写真】中国で「反日ネット炎上」が続発している事情…いま中国人に起きている大変化
(4)21世紀の天安門事件が勃発する
亡くなった郭飛雄氏の妻(Photo by gettyimages)
中国政府による民主活動家への締め付けは激烈だ。現代中国を研究する東京大学大学院教授の阿古智子氏が解説する。 「著名な民主活動家、郭飛雄氏は昨年1月、米国在住の妻ががんを患っていることを知りました。郭氏は面会のために米国行きを求めましたが叶わず、妻は今月10日に亡くなった。その2日後には、郭氏自身が国家政権転覆扇動容疑で逮捕されたのです。こうした強圧的な支配に国民の不満が溜まっていないはずがありません。 これまでも局地的な小さい暴動やデモは頻発しているはずです。それが私たちの耳に入らないのは、当局がニュースで拡散される前にもみ消しているから。20世紀の天安門事件ほど大規模なものになるかはわかりませんが、今後も政府批判の動きは続くはずです」 とりわけ、若者の間に不満のマグマは密やかに蓄積されている。昨年、中国で大学を卒業したのが909万人。実にその4割が就業できていない。大学進学率が急激に上がったこともあって、学歴エリートとなった若者を吸収するだけの受け皿がないのだ。 中国の社会問題に詳しいジャーナリストの古畑康雄氏が言う。 「仮に就職できたとしても、『996問題』があります。これは朝9時から夜の9時まで週に6日間働かされるというもの。むちゃくちゃに働かされて、30歳くらいで心身を病む。使い物にならなくされ、企業から追い出されてしまうのです」 昨年11月には中国の大手自動車メーカー、BYDで、36歳の男性社員が過労死する事例が報じられた。その前月の休みはわずか2日間で、残りはすべて12時間以上の勤務だったという。 「中国ではネットが厳しく監視されていますが、それでも規制が届きにくいVPN(仮想プライベートネットワーク)を使って、ツイッターなど、本来、中国国内では使えないサービスで情報発信をしている若者もいます。 彼らは海外の情報も手に入れることができます。若者の本音はこうしたネット空間に溢れていて、当局もそれを規制しきれていません。ネットで若者の連帯が生まれているのです」(古畑氏) 今後、若者の怒りが習近平政権にとってのリスク要因になるはずだ。 20世紀の民主化運動は天安門が舞台となったが、21世紀の天安門事件は、ネット空間が舞台となる。連帯した若者がITを駆使して中国全土で一斉に蜂起したとき、前回のように武力で弾圧することは困難だろう
(5)不動産バブル崩壊経済は破綻へ
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中国経済が抱える最大の問題は不動産バブルの崩壊だ。昨年から中国の大手不動産会社、恒大集団が債務不履行を繰り返し、倒産の危機に直面している。中国で日本企業向けにリサーチ業務を行う日本人コンサルタントが明かす。 「中国は昨年、人口が48万人しか増えず、今年から人口減少に転じると指摘されています。不動産価格が上昇してきたのは、人口増加で住宅需要が高まることが前提だったわけで、それが終わるのだから不動産価格が暴落するのは目に見えています。 中国人が不動産に投資する際、購入した物件を賃貸に出さずに持ち続けることが多い。賃貸に出せば賃貸収入が入りますが、賃借人がいると売却が難しくなり、売りたいときに売れないから、というのが理由のようです。 値上がりが続いてきたから、こうした考えになるのでしょう。しかし、いったん値下がりが始まれば、賃貸収入のない物件を持っていても意味はないため、急いで手放す人が増えます。そのため、不動産の価格下落が加速しているのです」 不動産価格の急落は金融危機を引き起こす。日本のバブル崩壊もそうだった。地価が下がったため、銀行の担保割れが発生。さらに不動産が叩き売られるという悪循環に陥り、「失われた30年」に突入した。 「中国でも金融機関がこぞって不動産会社にカネを貸し付けていますが、経営が破綻すると債権の放棄を迫られるでしょう。そうすると、金融システムが機能不全に陥り、経済の血液であるカネの流れがストップする。すべての産業から資本を引き上げる動きが進み、経済は破綻します。 バブル崩壊が襲った'90年代の日本は、まだ人口が増えていました。それと比べて、人口が減少に転じた中国を襲う不動産バブルの崩壊は日本以上にピッチが早く、大きくなるはずです」(前出・コンサルタント) これまで、中国の庶民はいつか豊かになれるはずだと夢を見て、辛い日々を生きてきた。しかし、その夢は叶わず、それどころか、明日は今日よりも悪くなる時代を生きなければならない。 科学技術振興機構アジア・太平洋総合研究センター特任フェローの大西康雄氏がこう話す。 「中国の庶民の間では『未富先老』―豊かになる前に老いてしまうという不安が蔓延しています。だったら、共産党の現体制に協力したところで意味がないという不満も同時に広がりつつある。日本はバブルが崩壊する前に、雇用や年金、医療・福祉などの社会的インフラを整備してきました。 しかし、中国では社会的インフラへの投資が十分ではない。数億人の比較的貧しい農村住民がいるうえ、社会保障も未整備のまま、高齢化社会を迎えるわけです。庶民は正直なもので、将来が不安だから若者は子供を作らない。その結果、ますます少子高齢化が進むという負のスパイラルに陥っています」 破綻はすぐそこに迫っている。
(6)「嫌われ中国」国際社会でも孤立無縁に
中国政府も直面する国内問題に手をこまねいているわけではない。国内だけで国民を食わせられないなら、海外へ進出して仕事を作る。それが、コロナ以前に習近平政権が強力に推進してきた、中国と欧州を結ぶ広域経済圏構想「一帯一路」だった。中国に詳しいジャーナリストの姫田小夏氏が言う。 「中国と欧州を結ぶ『21世紀海上シルクロード』の中継地点にケニアのナイロビがあり、中国の王毅外相は今年最初の外遊先として同地を訪れるほど重視しています。しかし、中国のアフリカ進出はいまだに物議を醸しています。 中国資本が大挙して押し寄せてきますが、現地におカネが落ちない仕組みだからです。中国はケニアに鉄道を敷設しましたが、車両や駅舎のみならず、列車の車掌や案内係の制服まですべてがメイド・イン・チャイナ。 川上から川下まで中国企業が握り、ほんのわずかな肉体労働だけを現地人が担う。儲けを持っていくのは圧倒的に中国企業なのです」 さらに中国が借金のカタに自分たちが整備したインフラを取得する「債務の罠」も世界中から批判されている。 「ギリシャではピレウス港に中国企業が出資して一部運営権を取得し、地元が反発しています。オーストラリアやスリランカでも重要港の99年間の運営権を取得し、インドや欧州から警戒されている。中国が債務と引き換えに世界進出を企んでいることに世界は気づいているのです」(姫田氏) 中国の孤立は刻々と深まっているのだ。
(7)頭脳流出で人材の焼け野原
国内外で風当たりが強まる習近平政権に愛想をつかして、国外脱出を企てる人材も増加している。中国事情に詳しいジャーナリストで、千葉大学客員准教授の高口康太氏はこう分析する。 「中国政府は『共同富裕』(みんなで豊かになる)をスローガンに、大手IT企業を儲けすぎだとして叩いています。ポピュリズムを背景にした上手なやり方かもしれませんが、叩かれるほうからしたらたまったものではない。見切りをつけて海外へ行ってしまう、優秀な社員も多いでしょう。 また、オンラインゲームが若者を腐敗させるとして、昨年からゲーム会社も批判の的になっています。昨年の7月以降、新作が1本も出ておらず、1万4000社が倒産したと言われています。こうした流れが続けば、優秀なIT人材を国内に引き止めることはできなくなります」 中国から逃れて日本に来たエリートは「『内巻』に疲れた」と口を揃える。姫田氏が言う。 「『内巻』とは無駄な競争を意味します。若者からは『上司のヨイショや無駄な徹夜作業がバカバカしい』というグチをよく聞きます。企業間競争も激しく、一つのヒット商品が生まれれば、次々と同じような商品が発売され、すぐに供給過剰になってしまう。果てしない競争に巻き込まれることを嫌って、海外脱出を希望する学歴エリートの若者が多い」 優秀な頭脳は海外へ流出し、国内に留まらざるを得ない若者は無気力に苛まれていく。これでは衰退していくばかりだ。 北京五輪では、コロナによる各国選手の調整不足もあり、中国はメダルラッシュに沸くだろう。しかし、祝祭が終われば、7つの危機が明るみになる。北京五輪は中国最後の輝きになるだろう。 『週刊現代』2022年1月29日・2月5日号より