選手が帰国後に慌てて削除しても手遅れだった!中国の「五輪公式アプリ」がヤバすぎる理由
中国の異様さを発信する舞台
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開幕中の北京冬季五輪で展開されている「中国スタンダード」に批判が殺到している。行方不明だったスター選手が突如現れて健在ぶりをアピールした一方で、セキュリティ上問題があるとされる五輪専用アプリの使用を選手らに義務付け、「中国こそが正義」と言わんばかりの演出に終始しているからだ。 【写真】いま海外から帰国した日本人が「東横イン」で食べさせられる弁当 衝撃の中身 中国当局による監視に加え、選手村やホテルの食事、不可解な判定などに対する不満や不安も重なり、選手やスタッフが競技に集中できる環境とは言えない状況にある。史上初の夏冬開催となった北京は、中国の異様さを世界に発信する場となっているようだ。 「アプリは必要最小限の使用にとどめ、帰国後は速やかに削除すること、可能な限りアプリをインストールする端末は別途用意することが望ましいこと、違和感があった場合は速やかに連絡することなどの注意喚起、周知を要請した。関係省庁は追加的にとりうる対策については協議していく」 松野博一官房長官は2月3日の記者会見で、北京冬季五輪の組織委員会が選手らに登録を求めている専用アプリを帰国後に削除するよう要請したことを明らかにした。 今回の五輪・パラリンピックで大会参加者にインストールが義務付けられている公式アプリは「MY2022」。新型コロナウイルス対策として入国前にスマホにインストールし、毎日の健康状態を申告するよう求めている。だが、中国当局による情報抜き取りや行動監視など不正アクセスを懸念する声は尽きない。カナダ・トロント大の研究所はセキュリティ上の問題を指摘し、一部の参加国は私用スマホを持ち込まないよう注意を呼び掛けている。
「でっちあげ」と反論
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中国外務省は「完全な言いがかり」「でっちあげだ」と反論するが、中国がインターネット上の書き込みなどを監視しているのは「世界の常識」となりつつある。スポーツ庁は帰国後に選手らのスマホを専門家が検査し、パラリンピック参加者にはレンタル端末を配布することにしたが、すでにインストールした参加者には不安が募る。 選手らがその「異様さ」を感じるのは、アプリだけではない。昨年夏の東京五輪の際は選手村で約700種類の食事が提供され、日本食も選手らの評価が高かった。だが、北京冬季五輪ではそれが一変し、海外メディアは「不味い」などと不満が噴出していると報じている。新型コロナの陽性が確認され、ホテルに隔離中の選手への食事にいたっては「5日連続で朝・昼・夜、同じメニュー」と伝えられるなど、その環境は競技に向けてリラックスできるような状況とはいえないようだ。 他のスポーツ大会でも指摘されるとはいえ、中国の「ホームアドバンテージ」も気がかりだ。2月5日のスピードスケート・ショートトラック2000メートル混合リレー準決勝で、2位の米国がレースで中国を妨害したと失格処分となり、繰り上げの中国が今大会金メダル第1号を獲得。7日のショートトラック男子1000メートル準決勝では、レーン変更違反で失格となった韓国に代わり中国が決勝に勝ち上がった。決勝でも1位のハンガリー選手に反則があったとして処分を受け、中国は金メダルと銀メダルを獲得している。 スポーツ紙記者は「ルールはルールなので仕方ないが、微妙な判定では地元有利になることはある。今大会はそれが強くあらわれ、『中国スタンダード』に対応しなければならないように映る」と解説する。判定に激怒し、反中感情が高まる韓国はスポーツ仲裁裁判所に提訴するという。
世界から厳しい視線が送られる一方で、中国は開催地として超大国の存在感をみせるための演出に余念がない。香港や新疆ウイグル自治区などでの人権問題が懸念される中、開会式の聖火リレー最終走者にはウイグル出身選手らを選抜し、五輪の場で民族融和を演出。中国の少数民族として紹介された女性は韓国の伝統衣装とみられる衣装を着て登場した。「超大国に成長した中国には人権問題は存在せず、中国こそが正義といわんばかりの演出で、もうカオス状態」(全国紙記者)とも受け止められている。 最高指導部メンバーだった張高麗元副首相に性的関係を強要されたとSNSで訴え、昨年11月から一時行方不明となっていた中国の有名テニスプレイヤーである彭帥選手も突如メディアの前に姿を見せた。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と2月5日に面会したと発表され、7日にはフランスのレキップ紙(電子版)によるインタビューで「性的関係の強要を受けたとは言っていない」などと話したという。一連の「演出」には欧米を中心に厳しい視線が送られている。 五輪は「平和の祭典」として位置づけられるが、1936年のベルリン五輪のようにプロパガンダの目的で利用されることもある。奇しくも北京冬季五輪の「中国スタンダード」により、その異様さが世界に発信されたとはいえ、中国に配慮して国会での対中非難決議を大幅に修正した日本はおとなしい。 こうした機をとらえて、中国の人権問題や尖閣諸島に代表される一方的な現状変更の試みの異様さをもっと国際社会にアピールしていくことも必要なのかもしれない。
小倉 健一(イトモス研究所所長)